第三十九話 任せろ!

 ついに迎えた2020年東京ゴリンピックGスポーツ決勝。

 会場は、なんと東京ドームだ。


 きっと決勝には海原アキラたちが勝ちあがってくると思って運営はここを押さえていたんだろうな……なんて邪推もするし、正直会場を聞かされた時は「空席がすごいことになるんじゃないか?」と不安もあった。

 が、いざ蓋を開けてみれば満員御礼。

 普段のスタンド席に加えて、アリーナ席までびっしりとお客さんで埋め尽くされた。


「おー、入ったわねぇ。ようやくみんなも私たちの魅力に気付いたみたいね!」


「うーん、と言うより、海原さんたちの仇を取ってくれって集まった人が多いみたいですよ?」


「あとアルベルトファンの連中も多いみたいだぜ? まぁ実力、ルックス、ファンサービス、どれをとっても人気が出るのは分かるが、日本人なのにアルベルトを応援しているのはちょっと複雑な心境になるな」


「……」


 特設されたステージの袖からそっと観客席を覗き込む俺たち。

 いつもならプレイヤーは専用の部屋を用意されていて、ゲームの様子を映し出す会場とは分けられている。が、今回は東京ゴリンピックの決勝という大きな舞台ということもあって、観客の前でプレイすることになっていた。


「……」


「どうしました、九尾君。なんだか先ほどから呆然としていますが?」


 みんなとは違い、何も言わずに観客席の様子に見とれていたら、黛さんから声をかけられた。

 すると他の連中も観客席から俺へと関心を移し、見つめてくる。


「あれ? あれれ? 九尾、もしかしてあんた……」


「緊張してる、健太?」


 からかう気満々の美織に、心配そうに俺の表情を伺う香住。レンは「ったくしょうがねぇなぁ。こういう時は『観客なんてみんな背景のモブキャラだ』って思えばいいんだよ」と実にゲーマーっぽいアドバイスをしてくる。


「いや、緊張とかそういうんじゃなくて、なんていうか、感動してた」


「感動?」


「ああ。Gスポーツって言っても所詮はテレビゲーム。海外ではともかく、日本ではまだまだ子供のお遊びって認識が強くてさ。ワールドサーキットでも日本ステージでは観客の入りが悪いんだ。だからこんなに集まってくれたのがなんだか信じられなくて……この光景を見れただけでもここまで来て良かったな、って言うか……」


 柄にもないことを言っているのは自分でも分かる。からかわれるのも承知の上だ。

 でも、感極まっちまったものは仕方ないだろ?

 海原アキラならこんな時でも感情を表に出さないのだろうけれど、俺は無理だ。って言うか、言葉にしたらなんだか目尻に熱いものがこみ上げて――


「アホかーっ!」


「ぶほっ!?」


 さすがに涙は見せられないと指で拭おうとしたら、美織がジャンプして俺の脳天目掛けてチョップしてきた。

 チョップそのものはたいしたことない。が、その勢いで目に指がっ!

 おおうっ! 目がっ! 目がぁぁぁぁぁぁ!


「ったく、何するんだよっ、美織!」


「何する、じゃないわよ。ったく、決勝を前にそんな湿っぽくてどうすんの? 何が『ここまで来て良かったな』よ。言わせてもらうけど、あんたここまで何にもしてないじゃない。あんたはここまで『来た』じゃなくて『連れてきてもらった』って言うべきでしょ!?」


「うっ! そ、それは確かに……」


 チームでスコア最下位だった国内最終予選。

 ひとりだけぱっとしなかった一回戦。

 準決勝だって香住の力で勝ったようなものだ。

 悔しいが、美織の言うことは正しい……。


 そして美織が本当は何を言いたいのかも、長い付き合いだから分かる。


「そうですね、美織の言う通りです。本当に感動するのはもう少し待ったほうがいいでしょう」


「ああ、ここまで連れてきてやったんだ。だから最後はお前が俺たちを優勝に導いてくれよ、九尾!」


「うん。最後に健太の格好いい所を見せてよ」


 美織の突然の乱暴に一瞬呆気に取られたみんなも、すぐにその意図を理解して俺に声をかけてくる。

 そうだよな、しんみりするにはまだ早い。

 だって俺たちはまだ何も成し遂げていないのだから。


「よっし、任せろ、お前ら! 最後はこの疾風怒濤のナインテール様がお前たちを最高の場所へと連れて行ってやるぜ!」


 ああ、ここまで来たら優勝あるのみっ!

 会場を、日本を、世界中を、あっと驚かせてやるっ!

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