アンフィクション・レポート

祈岡青

プロローグ

 前世で心中した男女は生まれ変わって双子になるのだという話を聞いた。その理屈でいくと、わたし井岡瑞希と弟の井岡朝日は前世で心中したことになる。もしそれが本当だとして、いっしょに死のうかと言い出したのはわたしだろうなと、なんとなく思った。


 わたしたちは現在高校三年生で、わたしは弟とは別の私立の女子校に通っている。朝日はわたしと反対方向の列車に乗って私立の共学校に通っている。


 わたしたち双子はそんなに似ていない。わたしはぽやっとした父親に似た顔立ちで、朝日はきつい美人の母親に似た顔立ちをしていた。性格もばらばらであまり相手の考えていることはわからない。それは性別の違いなのかもしれないし、二人とも中学受験をして早くから別々の学校に通っていたせいもあるのかもしれない。二人の共通点といえば平均より身長が高いということくらいで、わたしは父親と同じくらいの背丈だし、朝日はその父親より頭一つ分でかい。


 大学受験というものはとても厄介で、うちの母親が教育熱心なこともあっていちいち鬱陶しいけれど、わたしも朝日も附属大学があるので最悪そのままエスカレーター式に大学生になろうと思っていた。国立大とか、頭の良いところに全然行く気がないことは少し親に申し訳なかったけれど。自慢できそうな娘になれなくてごめん。なんて。


 高校三年生。十八歳。わたしが少女でいられる期間は残りわずかで、青春は終わりを告げようとしていた。


 大人になってしまうこの先、青春を逃せばもう二度と、心の奥底を分かち合うような友達とかできないんだろうなと思った。わたしが少女でなくなれば、わたしの内側に巣食う絶望とか暗闇なんかも何の甘やかさも耽美な価値もない、ただの黒々とした汚い感情になるんだろうなと思った。


 できればうつくしい生きものであるうちにだれかに救われたかったし、きっとだれかに殺されたかった。うつくしい生きものでなければ救われることなどないと思った。


 この先わたしは現実を見て大人にならなくてはいけなくて、一人で生きていけるようにならなくてはいけなくて、老いていくばかりで。少女でなくなるわたしにはもう二度と、奇跡など起きないのだと思った。

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