幽玄の女

オサメ

月下美人

和室である。


私は、ささくれた古い畳をすり足で進み、誰もいない広い空間を渡って行く。外は夜のようだが、部屋には心もとない明かりが灯っているようだ。


香りを捉えて、立ち止まる。

部屋の隅で、白い服を着た女が正座していた。


女の匂いか。


発する香りは強くないようで、部屋の中を帯となって漂っている。その一つが、私の鼻をかすめたのだろう。つられて立ち止まったのだからと、女に寄って、上から見下ろしてみる。


白い女だ。

白い癖に、やたらと存在を主張してくるような華やかさ。

美しさは、ある。


「私は、咲いたのです」

白い女がしゃべった。


返事をせずに眺めていると、白い女は再び口を開く。


「私は今夜、咲いているのです。あなたはどうするのですか?」


立ち止まってはみたものの、私はこの白い女に興味は無いのだ。眺めるだけなら良かろうが、それ以上、何をする?


「咲いているのですよ」


じっと動かぬわりに、随分と主張してくる女だ。

これでは、美しさも台無しだ。


「黙っていろ」


私は、女の首を切ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る