分からないけど、ここにいる

朝宮ひとみ

ボクらは……

 ぺた、ぺた、ぺた。ぱた。ぱた。ぱた。


 海に面した広いところ。たまにフレンズたちが集まってなにかやってる場所。そうでなくても、ボスからジャパリまんをもらう為に、決まった時間になるとフレンズだかりができる。

 ボスが持っている入れ物からジャパリぱんを一つとって、さっさと引き上げる。目立たない程度に早歩きで海に近づいて、素早く食べて、どぼん。いつもそうするんだけど、今日は用事がある。今はおなかがすいてないから食べるのを我慢するのは平気だし、PPPのライブならボクも一度は見たいと思うけど、そういう楽しい用事じゃない。


 陸地を歩いていると、やっぱりへんなかんじがする。でもボクがフレンズとして生まれたのは陸の上だから、陸に上がれない体だったらそっちのがもっと困る。


 ボクはライブステージの脇にある扉の先へ向かった。昔ヒトがつくった建物の名残で、一部はPPPの練習場所として使われているが、残りはふさがっていたり崩れかけて危なかったりして、だれも入ってこない。ふさいでおいた通路を、せっかくのジャパリまんを潰さないように体を滑らせて、また戻しておく。


「持ってきたよ」


 ボクが声をかけると、かすかにありがとうと声が返ってくる。ぺたぺたと這ってボクに近づいてくるフレンズが一人。ここは、ボクと彼女だけの巣。


===


 ああ、ボクたちのこと、言い忘れてたね。ボクはフカキモノ、彼女は人魚のフレンズだ。生まれたときから、それだけは自覚があった。そして、ヒトの一人と、彼女が連れているボスによって調べられ、確認された。


 そのヒトは言った。あなたたちは、ほかのフレンズと極力出会わないでほしい、と。でもボクたちは従わなかった。いない生き物のフレンズなんてのけものだ、と思ってはいた。でも、出会ってしまったジャングルのフレンズも、彼らに連れていかれた図書館にいたフレンズたちも、ボクたちを快く迎えてくれた。


「存在しない生き物や守り神のフレンズは既に多くいるのです。生息していないという意味では絶滅動物のフレンズと変わらないのです。絶滅動物よりもちょっとレアいだけなのです」

「大昔には、ロボットのような無生物のフレンズが存在したそうですよ」


 だけど、『パークガイド』と名乗るヒトは一人を除いて全員、ボクたちを調査のために隔離しようとしていた。フレンズたちはボクたちなんか知らないというふりをしてくれて、なんとか捕まらずに暮らしてきた。ヒトはいなくなり、その唯一の例外だけになるほんの数日前まで、なんとか。


===


「ねえ、ニンギョの怪我はよくなったかしら?」

「だいじょーぶー?」


 自分のぶんのジャパリまんを取りに行くときには、丁度イベントの入場時間が近くて、フレンズだかりができていた。何人かのフレンズが彼女のことを心配してくれて、ボクは当たり障りのない答えを返した。

 今日のイベントは興味なくて、ボクはいつものように、さっさとジャパリまんを食べて、とぷん、と海へ飛び込んだ。


===


 最後の『パークガイド』は言った。ここなら、キミたちは生きていける、と。ボクのもとになったモノは、決してヒトと相いれないものだったから、ヒトがいなくなる少し前の『大異変』のときにボクは避難させてもらえなかったし、『大異変』で生まれたニンギョは巻き込まれて大怪我を負った。お互い死んじゃうかと思った。『パークガイド』はいなくなるぎりぎりまで彼女やボクの治療をしてくれて、それで助かった。


 たったふたりだったこの場所に、今は数え切れないフレンズがいて、ボクたちの友達だ。『パークガイド』が帰ってきたら、みんなを紹介すると、決めている。


 廃墟に残った、『パークガイド』の残していったものたちを日の当たる場所へ持ちだしながら、ボクは他のフレンズたちとともに、新しいフレンズがやってくるのを楽しみに待っている。

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分からないけど、ここにいる 朝宮ひとみ @hitomi-kak

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