浮気されたと思ったら勘違い!? ~アイドルは幼馴染みで元恋人~
千羽 銀
序章 【幼馴染みと浮気と逃避行】
第1話 『幼馴染みで彼女なアイドル』
人は俺──
勉強も並。運動も並。容姿も極々平凡な俺のことを、幸せ者だと。
そんな平々凡々を地に行く俺は、だからと言って家庭が裕福なわけでもない。
大学一回生の俺は、親から無理を言って学校を通わせてもらっている。
実家から遠い大学に通ってるため一人暮らしだし、これ以上親に迷惑をかけれないと、俺は生活費をバイトで補っているから、寧ろ貧乏な方だ。
じゃあ、どうしてそんな風に言われているのか。
理由は、一つしか思い当たらなかった。
『みんなぁー! ありがとうー!』
テレビの電源を着けた瞬間、スピーカーから大歓声が響き渡った。
『今日もこんなに沢山のファンが来てくれて、私は──
「幸せ者……ねぇ」
液晶に映るは、綺羅びやかな衣装に身を包んだ少女。
横に束ねた艶やかな栗色のサイドテール。瞳は大きくて、宝石のようにキラキラとしてる。
柔らかな相貌は綺麗と可愛さが同伴し、白い肌が暗い会場の中で際立っている。
手を振り、ファンに笑顔を向けている姿は、まるで天使のようだ。
「やっぱり可愛いよなぁ……くそっ」
本当に可愛い。
美人で綺麗でスタイルがよくて……容姿ばかりだが、それだけではない。
星空美春──本名、
彼女はダンスも上手い。歌も上手い。バラエティに呼ばれてもしっかりとした対応をしている。
そんな凛とした姿を見初められ、ドラマにも出演したことがある。主演ではなかったが、その演技は評価され、視聴者からも人気があった。
いずれドラマで主演を演じるのも、そう先の話ではないだろう。
「俺はただの平凡な大学生。対する彼女は高嶺の花……ね」
皮肉を呟き、溜め息を吐いた。
なんでこんなに遠くなってしまったんだろ?
その言葉が頭を
「……なにも知らないくせに、軽々しく幸せ者って言うんじゃねぇよ」
度々、嫉妬や羨望の言葉をかけてくる同期たちに憎々しげに吐き捨て、俺はリモコンでテレビの電源を消した。
連日バイトで疲れた身体を休めるべく、俺はベッドに身を預けた瞬間、部屋に鍵が解かれてドアノブが開く音が響き渡った。
俺の部屋に合鍵を持ってインターホンなしで入ってくるやつは一人しかいない。
「カイー! いる? いるんでしょ! 大忙しの美春ちゃんが、久し振りにカイに会いに来てあげたわよー!」
玄関から現れたのは、さっきまで液晶の中で笑顔を振り撒いてた少女。
遠い世界に住んでいる住人である少女が、俺の小さなアパートの一室に存在している。
そして少女は──俺の自慢の彼女だ。
◇ ◇ ◇
──俺と美春は幼馴染みだ。
幼稚園年少組の時に、俺の家の隣りに引っ越してきた三人家族の家庭。
俺と美春が仲良くなるのに、そう時間は掛からなかった。
『カイ~! みはる、カイとけっこんする~!』
『やくそくだよ。りっぱなおとなになったら、けっこんしようね!』
幼い頃はそんな話もしたことがある。
そんな無邪気で純粋だった俺たちが両想いになるのは自然だったと言えるだろう。
『美春……昔からお前が好きだった。俺とこれからも一緒にいてくれ!』
『…………遅いわよばかぁ』
高校二年の時、美人で学校のマドンナだった美春に仲の良い男が増えるのが嫌で、俺から告白した。
返された言葉は罵倒だったけど、美春は泣いて頷いてくれた。
美春が幼馴染みから彼女に変わって。
部屋に行き来する生活はいつもドキドキしたし、触れ合えばお互いが顔を染める。
手を繋ぐまで3ヶ月かかったし、キスも今までに数える程しかしてない純粋な付き合いだったが、俺は幸せだった。
クラスメイトの嫉妬が心地よかったし、世界で一番幸せなのは俺だと疑わなかった。
──あの日までは。
『カイ! 私、街歩いてたらアイドル事務所の人にスカウトされちゃってさ、受けることにしたわ!』
『……はぁ?』
俺や周囲の反対を押しきり、美春はアイドルの卵として活動し始めた。
俺は彼女との時間が減ることは嫌だったが、一度決めたら突っ走る美春のことだ。彼女の夢を彼氏として支え、応援することにした。
そして高校三年生の冬、彼女は日本中を魅了するアイドルになった。
更に遠くなってしまった美春。
俺は少しでも近くにいたいと、俺の偏差値よりも遥かに高い大学を受験する美春を追いかけるように猛勉強した。
大学は見事合格。だが、彼女は普段はアイドル活動で大忙しだし、俺はバイトで会えない日は続く。
今では月に二,三回会うかどうかだ。
もしかしたら彼女のファンの方が、俺よりも美春と会っているかもしれない。
俺は美春を、ただ液晶から見守ることしか出来ない。
同期は美春と付き合っている俺のことを羨ましげに言うが、俺と美春も会える時間は少ない。
昔は誰よりも近かったのに、今では凄く遠い──
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