第101話 彼女の目的
魔法陣から発せられているのであろう熱が、ジリジリと私達を包む。
あんな魔法陣、見たことが無い。
「させないわ!」
慌てて私は氷結系の魔法を放つけれど、その直後、辺りを真っ白な蒸気が覆う。
一瞬で視界が完全に真っ白になる。
しかし、全く熱さも湿気も感じない。
まさか毒かとゾッとして、風魔法で白い蒸気のような物を吹き飛ばす。
「クリスもニコラスも無事!?」
「ええ、なんとか……」
「レーナ、アレはなんなの……?」
振り向いて二人を見れば、クリスもニコラスも無事のようだった。
「わからないわ。でも、魔法陣が二重に展開されているし、本命の攻撃魔法は奥の方で展開しようとしていて、手前の魔法陣はこちらから何か攻撃をしたらそれに反応してカウンターで打ち返すようなものなのかも……」
だとすると、下手に攻撃するとまずい。
普通は魔法陣を見れば、大体どんな魔法かは見当がつくのだけれど、構造も使われている文字や紋章も現在の物とは全く違うせいで何の魔法だかさっぱりわからない。
かろうじて状況から彼女がこれから放とうとしているのは炎熱系の攻撃魔法で、手前の魔法陣は発動までに時間がかかるからその為の時間稼ぎの為のものだろうという事が推測できるだけだ。
恐らくは、失われた古代魔法の一つなのだろう。
時間操作魔法さえ無詠唱で展開できるハンナさんがご丁寧に時間をかけて術式を展開しているあたり、危険さしか感じない。
「とにかく、彼女程の魔術師がこの状態でわざわざ時間をかけてまで発動しようとする魔法なんて、この場の全てを破壊し尽すような極大魔法しか考えられないわ!」
私がそう言った直後、ネフィーのいる方向から眩い光が差した。
振り向けば、以前巨大な虫を倒した時と同じ光の輪がネフィーの上に輝いている。
「三人とも! ネフィー砲するから入って!」
ネフィーの声がして聞えて振り向けば、私達の為に再び開かれた入り口と、中で魔法陣を囲んでいる人達が見えた。
「痴情のもつれにしてもあのドラゴンは危険よ! 皆でネフィー砲の準備してるから三人とも早く中に入りなさい!」
入り口で母が私達を大声で呼び寄せる。
確かに、ハンナさんの打とうとしている攻撃魔法の規模がわからない以上、下手にネフィーごと逃げるよりはここで叩いてしまう方が得策に思える。
もし攻撃魔法の範囲が町ごと消し去るような物なら目も当てられない。
ニコラスに再び人型の姿に化けさせて、私達は急いでネフィーの中へと駆け込む。
私達が中に入った直後、入り口は閉じられた。
「いくよっ! ネフィー砲! ……あれっ!?」
ネフィーの掛け声と共に、ネフィー砲の撃たれた気配があったけれど、その直後、ネフィーから困惑の声があがる。
「どうしたの? ネフィー」
私が尋ねれば、私に目の前の景色を見せようと、再びネフィーは入り口を開ける。
そこには先程と変らない、魔法陣を展開しているハンナさんの姿があった。
「ネフィー砲、ちゃんと当たったんだよ! なのにスカッて通り過ぎちゃったの!」
「……ネフィー、威力は小さくていいから、もう一度ハンナさんに向かってネフィー砲を撃ってみてくれる?」
焦ったようなネフィーの言葉に嫌な予感を感じつつ、私はネフィーに指示を出す。
「わかった! ネフィー砲!」
ネフィーは素直に私の言葉に従って再びネフィー砲をハンナさんに放つ。
高い位置から放たれたネフィー砲は、まっすぐ魔法陣を展開していない方角からハンナさんへと当たり、そのまま吸い込まれるように突き抜けていく。
その瞬間、私は自分の目の前にある物の正体に気付き、愕然とした。
「幻影魔法……!」
ネフィー砲の突き抜け方を見て、私はすぐにわかった。
高出力のネフィー砲を撃ったのにも関わらず、目の前のハンナさんは全くそれに対する反応を示さないばかりか、ネフィー砲によって放たれた熱が空気を歪めてその周辺だけゆらゆらと揺らめいている。
魔法によって作り出された実体の無い幻影の特徴だ。
ジリジリと私達に照りつけるあの熱ですっかり私はアレが炎熱系の攻撃魔法と思ってしまったけれど、恐らく、手前の魔法陣だけは幻影でなく本物なのだろう。
多分、ただ熱を出して周囲を暖めるだけの効果しかないだろうが。
「つまり、これは私達の気を逸らすための時間稼ぎだったのよ」
「だとして、ハンナはなぜそんな事を……ハンナなら本当に大規模な破壊魔法を仕掛ける事も出来たでしょうに」
私の言葉に、不思議そうにニコラスが首を傾げる。
『全員根絶やしにする前に、出来ればニコは無傷で保護したかったのですが、仕方ありませんね』
私はハンナさんの言葉を思い出してハッとする。
「そうか、まだハンナさんはまだニコラスの保護を諦めてないのよ……」
だとするならば……。
「まさか……!」
私は外に飛び出ると、重力操作魔法を阻害するためにこのネフィー記念公園内に埋めておいた魔法道具を探した。
一番近くに魔法道具を隠してあった場所は、無残に掘り返され、魔法道具はその場で破壊されている。
つまり、幻影魔法で私達の気を引きつけている間に、彼女は使い魔でも放ってこの魔法道具を探させていたのかもしれない。
急いで私は町全体に張り巡らせていた大規模な阻害魔法を発動させようとするけれど、なぜか魔法が発動する時の手ごたえが全く無い。
そんな、まさか……最悪の事態を私が予見したその時、頭上から声が聞えた。
「あら、もうばれちゃったのね」
目の前に現れた黒いドラゴンは、幻影の自分の姿を消すと、先程の戦闘で当たりに散らばった拳大の石を浮遊魔法で私の目の前まで持ってきて、それをポイと軽く放り投げた。
大人の人間一人分程度の高さからしか落下していないはずのそれは直後、地面に落ちると同時に大きな音を立てて周囲に大きなくぼみを形成する。
それは、私の重力操作魔法妨害術式が完全に破られた事を意味していた。
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