第6話 アンナリーザはご機嫌
日が暮れる頃、仕事が終った私達はアンナリーザも連れて全員でぞろぞろと冒険者ギルドへと向かった。
討伐した魔物の指定部位と交換して報酬を受け取り、それをパーティーで山分けする。
「じゃあ仕事も済んだことですし、早速保護を申請しに行きましょう! 私ちょっと受付で事情を話してきますね!」
お金を分配し終わると、呼び止める暇も無くミーナちゃんは受付の人に話をしに行ってしまった。
「おじちゃんのあれすごかったね~あのぴょーんって飛び上がってガキーン! ガシャーン! ってやつ! かっこいい!」
「へへへ、アンは良くわかってるな! でもおじちゃんじゃなくてお兄さんな、まだ二十二だから」
そして、いつの間にかアンナリーザは剣士のリコ君他、パーティーメンバーの人とすっかり打ち解けてしまっていた。
「あの、皆さん今日はご迷惑をおかけしてすいませんでした。それに、色々と助言をありがとうございます。もう大丈夫ですから……」
暗にもう解散でいいんじゃないかな? と提案してみる。
このままだと本当にしばらく冒険者ギルドの本部に泊り込む事になりかねないし、この人達にいられると、話を聞いてやってきた冒険者ギルドの人にやっぱり大丈夫だからと言ってそのまま帰れない。
お願いだから、話をそんなに大きくしないで欲しい。
そりゃ本当に私やアンナリーザに危機が迫っているのなら仕方ないのかもしれないけれど、実際は何の脅威も迫っていない。
……まあ、その事実を説明すると、今度は私の社会的な立場が色々まずくなるのだけれど。
「いえ、まだ申請が通ると決まった訳じゃないですし、ちゃんと二人の安全が確保できるまでは帰れませんよ」
ルーデルさんが言えば、他の人達もそうだそうだと頷く。
今日会ったばかりなのに、このパーティーの皆さんは随分と面倒見がよろしいようだ。
人当たりも良い人ばかりで、アンナリーザはすっかりここまで同行した五人になついてしまった。
なぜ、今日に限ってこんな善良な助け合い精神に溢れた人達とパーティーになってしまったのか。
なんか違うじゃん?
いつもははぐれ者同士の即席パーティーってこう、もっと個人主義じゃん? と、私は頭を抱えたい気分だった。
そんな事を考えているうちにミーナちゃんが冒険者ギルドの人と話をつけてきて、別室で事情を説明する事になった。
「……つまり、今回の魔物の大量発生は何者かによる人為的なものである可能性が高く、また、森の魔物達が外に広まる前に強固な結界を張ったレティシアさんは逆恨みされている可能性があると?」
「はい。同じく強固な結界に守られた家で留守番をしていた娘さんが森の中程まで連れ去って、魔物の肉を食べさせるなんて、その辺の猫に出来る訳がありません。恐らく犯人の使い魔でしょう」
冒険者ギルドの局長さんの質問に、ルーデルさんが真剣な様子で答える。
なぜ、局長さんの質問にルーデルさんが答えているのか、それは、私とアンナリーザの事を随分と心配したパーティーの皆さんが話し合いに同席しているからだ。
というか、さっきから冒険者ギルドの人達との受け答えをルーデルさんとミーナちゃんが率先してやっているせいで私はほとんどしゃべらないうちにドンドン話が進んでいる。
ちなみにアンナリーザはさっきからリコ君の膝の上に座って、ご機嫌な様子だ。
「あの森の事件については謎が多いのも確かです。状況から見て偶然の出来事には思えない。人為的なものだとして、その目的が全く見えない。しかし、先程の話を聞くと、確かにその子は森の魔物討伐が終るまではこちらで保護する必要があるでしょう。もちろん、保護者の付き添いも認めましょう」
そうして、私とアンナリーザはあれよあれよと言う間に、ギルドが用意してくれた村はずれの宿にしばらく泊まる事になってしまった。
本部に泊り込むよりも安全な場所らしい。
様々な事情でギルドが特に保護が必要と判断した人を一時的に匿う施設らしく、強固な壁と対魔術用の結界が張り巡らされ、常に上位ランクの冒険者が護衛につくというそこは、さながら刑務所のような見た目だった。
今、この施設を利用しているのは私達だけらしい。
私達のためだけに護衛を雇ってもらうのも忍びないので、私自身がAランク冒険者である事を理由に護衛はお断りさせてもらった。
第一、常に人目がある状態だと、いつアンナリーザがボロを出すかわからない。
中は普通の宿のようだったけれど、全体的に殺風景だ。
家具は一式あるけれど、掃除や炊事は全て自分達でするようにと言われた。
まあ、命の危険のある人物の場合、下手に他人に身の回りの事を他人に任せても毒や暗殺の心配があるからだろう。
「うわー! ここでお泊まりするの? あ、このベッドふかふかだー!」
けれど、それでもいつもと違う環境で物珍しかったらしいアンナリーザは部屋のあちこちを見てまわって随分と楽しそうだった。
「ねえねえママ、町を案内してくれるんでしょう?」
「今日はもう遅いから、町の案内はまた明日ね。食事は基本自分で用意するらしくて、下の階に台所があるらしいんだけど、今日はもうめんどくさいし町に食べに行きましょう」
一応施設の戸締りをしてから、早速ロッドを出して飛行魔法をかけ、アンナリーザを私の前に乗せて町の方へと向かった。
「わあ! 町の灯りがキラキラ光っててお星様みたいだね」
空から見た町の灯りに、アンナリーザは随分と感動していたようだった。
町に降りれば昼間とはまた違った雰囲気の町並みに興奮して、初めて行く食事所では落ち着かない様子で辺りを見回す。
目に映るもの全てが新鮮で珍しいらしい。
「アレは何? あっ! これおいしい! ……こっちはあんまりおいしくない」
アンナリーザは事あるごとにアレコレ私に尋ねてきては、色んなものに驚いたり笑ったりしてコロコロと表情が変わる。
そんなアンナリーザの様子を見ていたら、まあ、魔物退治は他の人達に任せてしばらくこの町でのんびりするのも悪くないか、と思えた。
本当は明日にでも適当に理由を付けて家に帰るつもりだったけれど、仕方ない。
その日の夜、私はアンナリーザが寝た後、こっそりと我が家と仮住まいの部屋のクローゼットの奥を空間魔法で繋げた。
家で育てている薬になる植物達の世話や、この前村の人から貰った食材がまだ結構残っているので、長期滞在するなら、こうした方が色々便利だからだ。
なぜ、こっそりかといえば、アンナリーザにバレるとまた目を離した隙に森に遊びに行ってイタズラをされそうだからだ。
とりあえず、クローゼットから家と行き来するのはアンナリーザが寝てからだけにして普段は繋いだ空間の入り口を閉じておく。
荷物を持って来た時は夜の内に家に取りに行ったと言えばいいだろう。
それから一週間後。
「えっ? 依頼のランクがCからAに変更された?」
なんだかんだでアンナリーザと町での生活を楽しみつつ、そろそろ森の魔物退治も片がついたのではないかとギルドにその後どうなったのか聞きに行ったら、事件は解決するどころか更に大事になっていた。
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