第4話 視線が痛い
「アンがこんなに魔法を使えるって知られたら、すぐに魔物が大量発生した原因があなただとバレてしまうわ。だから、絶対人前では魔法を使ってはダメよ。魔法は練習してるけどまだ全然使えない事にするのよ。わかったわね?」
アンナリーザの両肩に手を置き、しっかりと目線を合わせながら私は言い聞かせる。
「わ、わかった!」
緊張した面持ちで、アンナリーザも頷く。
魔物を大量にアンナリーザが召喚した翌日、私は頭を抱えた。
夕食を終えた後、夜通しアンナリーザが召喚した魔物について調べた結果、色々とわかった事がある。
アンナリーザが召喚した魔物は全四十二種類で、各一匹ずつ。
内、約半数の十九種類が単性生殖が可能。
更に、体を百個に切り刻んでもしばらくするとその各部位が回復して百匹の個体になったり、一つの卵から五十匹生まれるような特に生命力や繁殖力の強い種類が三種類いた。
というか、恐らく他は放っておいてもすぐに駆除されるだろうが、この三種類の魔物が厄介だ。
雑食性で動植物を何でも食い荒らすイナゴの魔物。
肉食で動くものは何でも襲う凶暴なムカデの魔物。
幼虫は草木を食い荒らし、成虫は風に乗せた毒で獲物を弱らせて捕食する蛾の魔物……。
正直、一種類だけでも町や村が潰される事がある超危険生物だ。
召喚されてからすぐに森全体に結界を張れて本当に良かった。
けれど、このままだと確実にこの魔物達のせいで森が荒らされる。
貴重なきのこと薬草が奴らによって根絶やしにされてしまうし、生態系も大きく崩れてしまうだろう。
討伐隊が組まれるのは早くても明日。
この魔物達の繁殖力がどれ程の物なのかはいまいちわからないけれど、最悪森がダメになった時の事も考えて、犯人探しが始まった際の対策も必要だろう。
「明日からはしばらく森の魔物を討伐する人達が来るから、家の敷地から出ちゃダメよ。あと無いとは思うけど、万が一人が迷い込んできても目の前で魔法使っちゃダメよ!」
「そんなのつまんないっ!」
私が説明すれば、アンナリーザは不満そうにむくれた。
ので、私はアンナリーザの頬をむにゅっと両手で挟んで、もう一度言い聞かせる。
「誰のせいでこんな事になってるのかわかってるのかしら?」
「うう……ごめんなさい……」
しょんぼりした様子でアンナリーザが言う。
自業自得とはいえ、しばらく窮屈な思いをさせてしまうのは忍びない。
「色々と落ち着いたら、町に連れてってあげるから、それまで良い子にしてなさい」
「町? 本に出てくる人がいっぱい住んでる所?」
「そうよ。人や物がたくさんあふれてる賑やかな所。アンが良い子にしてたら、泊まりで町の色んな所を案内してあげるわ」
「お泊まりするの!? じゃあそれって旅行?」
「まあ、ちょっとした旅行かもね」
「わあ! ママ、約束だからね!」
町に連れて行ってあげると言えば、アンナリーザは目を輝かせる。
アンナリーザはまだ生まれてから私以外の人間と会った事がない。
本や私の話で町や村がある事は知識として知っているけれど、それらを直接見た事はない。
七歳くらいの見た目で生まれたアンナリーザだけれど、生まれた時の頭は本当に赤ん坊同然だったので、歳相応に中身が育つまではずっと私がこの家で教育してきた。
けれど、そろそろ新しい世界に踏み出すのもいいかもしれないと思っている。
魔物を大量に召喚してくれちゃったせいで少し予定は延びてしまったけれど……。
その日は一日、アンナリーザに知らない人と会った時の受け答えや、人前に出た時はどう振舞うべきかという事を教えた。
夕方になりかかった頃に一旦町の冒険者ギルドに赴いて、村の依頼の応募状況を確認したけれど、結構な人数が集まっていたようで安心した。
そして、一応今回の件については私にも責任があるので、応募させてもらう事にした。
「あの、本当にこの依頼でいいんですか? レティシアさんのランクなら、もっと身入りが良い仕事も紹介できますけど……」
依頼に応募したいと申し込んだら、受付のお姉さんに戸惑ったように言われた。
まあ、今まで自分が受けられる仕事の範囲で常に一番報酬が高い依頼ばかり受けていた人間が、急に二つもランクの低い、そこまで報酬も高くない依頼を受けたいと言い出したら不思議に思うだろう。
「これ、私の住んでいるすぐ近くの森なんですけど、この森の貴重な薬草やきのこが魔物に食い荒らされる前に片をつけたいんです」
けれど、私がこう答えれば、受付のお姉さんも納得した様子で依頼の受付をしてくれた。
魔物討伐当日、依頼を受けたソロの冒険者達で組まれた急造パーティーで、それぞれのパーティーごとに割り振られた森のエリアで魔物を討伐していると、私はとんでもない物に出くわしてしまった。
「んふぉ~このムカデプリプリしてて、おいし~」
そこには討伐対象の魔物を、火魔法で焼いたのか、丸焦げにしてその死骸の一部の殻をはいで美味しそうに食べているアンナリーザの姿があった。
「あっ! ママ! このムカデ、とってもおいしいよ!」
そして、私達の視線に気づくなり、弾けるような笑顔を私に向けてくる。
今日、初対面の面子ばかりなパーティーメンバーの視線が痛い。
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