シャッターチャンスはいつまでも
奈名瀬
ごこくえりあ
「到着♪」
岸辺にバスの船が乗り上げると大きな音がしました。
その途端、サーバルちゃんが飛び降りたのでボクは心配でたまりません。
「サーバルちゃん? 危ないよー」
「平気平気! ほら、かばんちゃんもおいでよ」
ヒトの気も知らず、サーバルちゃんは楽しそうにボクを誘いました。
ボクはこわごわとバスから沿岸に足を下ろします。
ジャリッと靴の裏に石粒を踏む感触がありました。
「わぁ……ラッキーさん、ここが『ごこくえりあ』なんですか?」
腕のラッキーさんに向かって訊くと、すぐに返答が来ます。
『ソウダヨ。ココハ『ゴコクエリア』ノ港口ニ近イ場所ミタイダネ。辺リニ『物販店』ガ見ツカルカモシレナイヨ』
「え? ぶっぱんてん? ですか?」
それが何かわからず困っていると――
『オ店ノ事ダヨ』
――ラッキーさんは直ぐ答えてくれました。
けど、それだけでは『ぶっぱんてん』が何かピンときません。
「えーと。カフェとは違うんですか?」
と、ラッキーさんに訊いた時、サーバルちゃんのボクを呼ぶ声が聞こえました。
「かばんちゃん、見て見て! こっちに何かあるよー!」
ひとまず、ボクは大きく手を振るサーバルちゃんの元へ走り始めたのです。
◆
サーバルちゃんの元へ駆け寄ると、そこにはジャパリパークで見たカフェやロッジとはずいぶんと雰囲気の違う建物がありました。
「これが『ぶっぱんてん』なんですか?」
「ぶっぱんてん? なにそれなにそれー。かばんちゃん、なんの話?」
「ラッキーさんがね、この辺りにぶっぱんてんがあるかもしれないって。お店のことなんだって」
「ふーん。そうなの? ボス?」
「どうなんですか、ラッキーさん」
再び訊ねると、ラッキーさんはさっきよりも詳しく教えてくれました。
「『カフェ』ハ飲食物ヲ提供スル店ノ事ダネ。『物販店』ハ飲食物ジャナク、物ヲ売ル店ノ事ダヨ」
「あ、ボクわかったかも。ここはもしかして食べ物や飲み物の代りに何かヒトが使っていた道具を売っていたお店なんじゃないですか?」
「そうなの?」
すると、今度は少し時間を置いてラッキーさんは答えてくれました。
「ソウダヨ……ドウヤラココハ昔『カメラ』ヲ扱ウ店ダッタミタイダネ」
直後、ボクとサーバルちゃんの声が合わさります。
「「かめら?」」
それがなんなのかわからないまま、ボク達は顔を見合わせました。
そんな中、ラッキーさんは一人話を先に進めようとします。
「モシカシタラ、マダ使エル『カメラ』ガアルカモ知レナイヨ。探シテミヨウ」
そして、ボク達はかめらのお店に足を踏み入れたのでした。
◆
「うぅ……埃っぽい。サーバルちゃん、大丈夫?」
「ら、らいじょーぶじゃないよぉ。鼻がすごくムズムズして、うっ――くしゅん!くしゃみが止まらないよ」
かめらのお店の中はボロボロで埃っぽくて、とてもカフェやロッジとは似ていない様相です。
「うみゃ~! は、早くでよーかばんちゃん!」
「そ、そうだね。早くでよっ――」
と、その時。ボクは透明な入れ物に入ったその何かを見つけました。
「――あ、待ってサーバルちゃん。これ、もしかしたら」
◆
「ぷはっ! すっごく息苦しかったよぉ。お店ってあんな所もあるんだね」
「はぁはぁ……たぶん長い間誰も使ってなかったからじゃないかな。カフェやロッジはアルパカさん達が頑張って綺麗にしてくれてたんだよ」
そんなお二人の努力に感嘆しながら、ボクはサーバルちゃんとお店の外に出ました。
今は外の空気のありがたさが身に沁みます。
そんな時、サーバルちゃんが目元の涙を拭いながらボクに訊ねました。
「ねぇ、かばんちゃん。さっきお店の中で何を見つけたの?」
「あっ、これなんだけどね」
ボクはかめらのお店の中で見つけた物をサーバルちゃんに見せます。
それはくすんだ銀色の箱みたいな何かで、小さい割に重くて持っていて不思議な感じでした。
「わぁ、なにそれー?」
「うーん。もしかしたらこれが『かめら』なんじゃないかと思ったんだけど」
「へぇ! これがー?」
そして、ボク達は二人でかめららしきものを見つめました。
そうしていると――
「カバン。ソレヲ僕ニ近付ケテクレルカナ」
――ラッキーさんの声が聞こえ、ボクはその声のままに従います。
「えっと。こうですか?」
「検索中、検索中……」
その後、しばらくの時間をおいてまたラッキーさんの声が聞こえました。
「コレハ『ポラロイドカメラ』ダネ。撮影シタ直後ニ自動的ニ写真ノ現像ヲ行ウ『カメラ』ノ事ダヨ。保存状態モ良イミタイダネ。動クカモ知レナイヨ」
その後、ボク達がラッキーさんの声に従いながら『ぽらろいどかめら』を触っていると――ウィーンなんて音を立てて、かめらが動きました!
「うわっ! う、動いたあー!」
「うわぁ! すごいすごーい! で、この後どうするの?」
「ポラロイドカメラノレンズニ撮リタイ物ヲ映シテシャッターヲ押スンダ。ボタンガ『カメラ』ノ右上ニアル筈ダヨ」
「うーん? こう、かな?」
ボクはラッキーさんに教えてもらった『れんず』をボク達に向けてボタンを押しました。
すると。
「わわっ!」
急にカシャ! と、いう音!
ボクは驚いてカメラを落としそうになります。
「か、かばんちゃん! 大丈夫?」
「う、うん。平気」
「はー、びっくりしたよ。もう、なんなの? 『かめら』ってお店も『かめら』もなんだかひどいよー」
そうやって、サーバルちゃんが不機嫌になった時でした。
今度は静かな物音を立てながら、かめらが何かを吐き出し始めたのです。
「わっ? 何々?」
「わ、わからないよ!」
それは白い縁取りがある真っ黒な紙でした。
「こ、これなに?」
「さ、さぁ?」
こわごわと僕はかめらが吐き出したそれを手に取ります。
その時、またラッキーさんの声が聞こえました。
「ソレガ現像サレタ『写真』ダヨ。時間ガ経テバ撮ッタ景色ガ見エテクル筈ダヨ」
「時間が?」
「経てば?」
ボク達はまた互いの顔を見合わせ、その後一緒になって『しゃしん』を見つめます。
じぃーっと見つめていると、なんとなくハシビロコウさんを思い出しました。
そして、その時は訪れたのです。
「わ! すっごーい! かばんちゃん! わたしとかばんちゃんがいるよ!」
「うん、すごいね! そっか。もしかしたらこれ、動かないだけでミライさんを見せてくれたラッキーさんと似たことができるのかもしれないよ!」
「へぇ! なんだかよくわからないけど『かめら』ってすごいね! ねっ、もう一回やってみようよ!」
そして、ひとしきりカメラを堪能した後、ボク達は地面に横になりました。
すると、ボクの方を見て、サーバルちゃんが言います。
「すごいなぁ。カメラ……もっと早くこれを持ってたら今までのこともいっぱい写真にできたよね」
「あはは。そうだね」
「そうだよ! 初めてかばんちゃんに会った時とか、いっぱい色んな場所に行ったことも!」
「うん。ミライさんみたいに色んな所に行く度に写真にできていたら楽しかったかも」
「ねー! 今まで、色んな事があったもんね」
そう言うサーバルちゃんは、少し前の出来事を懐かしく思い出しているように見えました。
だから、僕は……。
「でも、大丈夫だよ。サーバルちゃん」
「かばんちゃん?」
「これからも、ボク達は一緒に色んな所に行くんだから」
「それって?」
そこまで言って、ボクは少し恥ずかしくなってしまいます。
「えっと。つまりは、これからもどうかよろしくね……ってこと」
直後「もちろん!」と笑顔を見せてくれたサーバルちゃんに、ボクはついカメラを向けてしまうのでした。
シャッターチャンスはいつまでも 奈名瀬 @nanase-tomoya
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