《√9/銀ちゃんのラブレター》
私の母は流産を繰り返したそうだ。一般的な家庭。でも成長するごとにわかった。彼らが望んでいたのは私ではなかったことを。それならその期待を越えてやろうと思った。でも、駄目だった。どうせ失敗だったならそういえばよかったのに、中途半端な気遣いと諦めた瞳が今も私を苦しめる――
ノビノはなにをしてもほめてくれる。
ノビノはなにをいってもむししない。
ぼくはうれしい。
ノビノはいつでもそばにいてくれて、ぼくを独りにしない。
ノビノはいつでもぼくを一番に考えてくれる。
ぼくはちょっぴりえらくなった気分。
ノビノはお父さんの友達。
ノビノはお父さんを一番大切な人という。
「ぼくとお父さん、どっちが好き?」と訊くと「二人とも」とはぐらかす。
ぼくはノビノの笑顔が好き。
僕はノビノが好き……
一度だけ真剣にノビノに好きだと伝えたことがある。するとノビノはいつもの様に笑い、僕の頭を撫でながら「じゃあ、強くなって。そして私を殺して」と言い僕を抱きしめた。そのときの彼女の首筋の香りを僕は今でも忘れていない。
それから僕はノビノがいう通りに狩りも勉強も頑張った。
ノビノは怪我をしたらとても心配してくれる。
ノビノは自由に行動する僕を助けてくれる。
ノビノは昔から何でも教えてくれる。
「ねぇ、ノビノ。どうして僕はノビノを殺さなきゃいけないの?」
「それは、私が悪いヤギだから」
「僕がそれを許しても?」
「私はフゥ君の幸せを願ってる。だから世界の理に従わなきゃ駄目なの」
いつからかノビノを好きだと感じる度に体の中の血が騒ぐ。僕の意志に反して「そのヤギを狩れ」と。
大きくなればなるほどにノビノは自分を殺す様にと言うことが増えた。でも、それなら矛盾してることがある。ノビノは僕に殺しをさせたことがない。
ねぇ、ノビノ。僕は不幸でいいよ? ノビノが居てくれたらそれでいいよ? ねぇ、ノビノ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます