第二十一回 筑前的BOOKS OF THE YEAR2016

 2016年最も面白かった本を決める、筑前的BOOK OF YEAR。毎年ブログにて行っていたのですが、今回からこの場で行いたいと思います。


 つきましては、まず過去4回の結果からご紹介を。


BOOK OF YEAR2012


1位 笑う警官(佐々木譲)

2位 東天の獅子(夢枕獏)

3位 制服捜査(佐々木譲)


BOOK OF YEAR2013


1位 秘密(池波正太郎)

2位 ジョーカーゲーム(柳広司)

3位 夜明けの星(池波正太郎)


BOOK OF YEAR2014


1位 廃墟に乞う(佐々木譲)

2位 群雲、関ケ原へ〈下〉(岳宏一郎)

3位 絆―山田浅右衛門斬日譚(鳥羽亮)


BOOK OF YEAR2015


1位 忍びの国(和田竜)

2位 秘伝の声〈下〉(池波正太郎)

3位 用心棒日月抄(藤沢周平)


 以上が、過去のベスト3になります。




 さて、BOOK OF YEAR2016の発表です!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



1位 宮本武蔵〈一〉(吉川英治)


 何という、上手さ。何という、甘美なまでの面白さよ。吉川英治が国民作家で、この作品が大衆小説の最高峰という理由が判る。昭和10年の連載開始という古さでも、この面白さ、読みやすさは色あせない。そして、面白さだけでない。作品に内包された闇は深い。この作品が史実すら影響を与える理由が判った。


2位 双頭の鷲〈下〉(佐藤賢一)


 変わらない人間などいない。歳月を重ね、立場が変わっていけば、人は変わっていく。それは、稀代の英雄ベルトラン・デュ・ゲクランとて変わらない。この物語はベルトランの英雄譚だと思ったが、読了後それだけではないと判った。胸に残されたのはベルトランの活躍ではなく、人生の黄昏に訪れる寂寥感だった。この作品は、人生を教えてくれる一冊であり、佐藤賢一の最高傑作であろう。なお、仏史が好きな僕にはベルトラン・デュ・ゲクランは馴染みある名将。百年戦争中の仏軍知名度においてジャンヌの後背を喫しているのか理解不能だ。


3位 孤剣(藤沢周平)


 シリーズ第二作。読み終えた時、孤剣とは何だろうか、と考えた。孤独の孤。しかし主人公は、多くの仲間に助けられ孤独ではない。すると孤独だったのは、静馬だったのかと。主人公は宿敵を追って、強制的に脱藩。そこで仄かな不倫をしたり。いや~時代小説の面白さが詰まっています。まるで教科書のような素晴らしいお手本。


4位 北天の星〈上〉(吉村昭)


 圧巻の一言。キャラクター、ストーリー、詰め込まれた知識、どれをとっても逸品。ロシアに漂流した主人公たちの過酷な運命を描いた作品だが、読んでいて、「こうした作品を書きたい」を通り越し、「こりゃ書けない」と思い知らさせた。兎に角、凄い!


5位 御家人斬九郎(柴田錬三郎)


 有名時代劇の原作作品。ドラマ版は5シーズン全50話に渡る大作なのに、原作はこれ一冊なのだから驚き。それは主人公親子のキャラが魅力的で力強い故の事だろう。この物語、身の上は凄く暗い(兄弟二人は父親に殺され、その父親も瘋癲に犯され自殺)のに、それを感じさせないのは、主人公の母親・麻佐女の存在が大きい。この老母は兎に角チート。薙刀の達人であり、小鼓の名手、英語・オランダ語も修め、美食家として江戸八百八町に名高い。そして人望もあり、誰も麻佐女に敵わない。凄い熱を感じるエンターテインメントだった。


6位 剣客太平記~返り討ち~(岡本さとる)


 本当に面白い。2010年代を代表するシリーズ文庫小説と、自信を持ってお勧めで出来る作品。何故、映像化されないか理解不能。映像化向きで、読みやすい。そして本作は表題作「返り討ち」もいいが、最後の「十五の乱」は久し振りに声を挙げて笑った。


7位 陰陽師(夢枕獏)


 何故、もう少し早く読まなかったのか?その楽しさに引き込まれながら、僕は後悔した。漫画も読んだ。映画も観た。夢枕獏も好き。なのに、読まなかった。心底、後悔する。物語の一つ一つの場面が漫画の絵柄で再生されるが、著者特有の小気味よいセリフ回しや地の文が心地よい。しかも、「あやかし」の描き方が実に良い。理由を求めるだけでなく、その描写も。勉強になるし、やはり僕は夢枕獏が好きなのだ。


8位 公家武者 松平信平 狐のちょうちん(佐々木裕一)


 これは面白い!「剣客太平記」以来のヒットなシリーズもの。主人公は公家から武士に転身した、松平信平。史実を題材にしながら、絶妙にフィクションを成立させている。軽妙で読みやすい文章に、安心感のある勧善懲悪。そして個性豊かな脇役。シリーズものに必要な要素は全て揃っている。これは安心して読める!


9位 眠狂四郎無頼控〈1〉 (柴田錬三郎)


 雷蔵の声が、ページをめくる度に蘇る。それだけで、胸が震え、目頭が熱くなる。主人公の眠狂四郎は、転びバテレンと日本人のハーフという暗い生い立ち故か、女を抱き捨てても平然としている、虚無感を漂わせるニヒルな男。人の命にも自分の命にも冷淡でシニカル。だが、子どもや筋を通す者に見せる表情に、彼の優しさが滲み出ていて、それが堪らないほどカッコいい。今作はそんな狂四郎が様々に事件に顔を突っ込む連作短編集。今の時代に柴錬の作風は古く感じるかもしれないが、読まないのは損である


10位 肉迫(北方謙三)


 再読BDシリーズ第3段。主人公は秋山というアメリカ帰りの男。殺された妻の仇討ちの為に、親友と娘を連れ、運命の街に来る所から始まる。第一章は復讐。第二章は第一章で傍観を決め込んだBDメンバーと熱い友情を交わし、敵を打ち砕く姿が描かれている。僕は秋山という男が好きなので、この「肉薄」はお気に入りである。また安見と藤木の絡みも秀逸。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


どうでしたでしょうか?


1位 宮本武蔵〈一〉(吉川英治)

2位 双頭の鷲〈下〉(佐藤賢一)

3位 孤剣(藤沢周平)


 特にサプライズもない順当な選考に、僕自身驚いています。

 読書は好きな作家だけでなく幅広く読んでいるのですが、中々10位以内は難しいものがあります。

 2017年はより多くの作品を読みたいと思います!

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