第6話踏み出す

「じゃ、来週から来てね」

「はい! ありがとうございます!」


就活を始めて一か月。ようやく就職先が決まった。


「当日は同意書と、住民票もよろしくね」

「はい!」


サオリの言う通り、パソコンが得意なのでそちら方面で探したところすぐに決まった。

と言っても正社員ではなく、契約社員からのスタートだ。

成績が良ければ正社員へ昇格できるという。


「おめでとう!」

「……ありがとう。まだ契約社員だけどね」


内定が出た後、俺は親よりも先にサオリに報告しに行った。

案の定、サオリは手を叩いて喜んでくれた。

それを見て、俺はまた泣きそうになる。


「うれし泣きしてるの?」

「それもあるけど……ほんとに……なんでもっと早く……」


このころになると、道行く人が俺を不審な目で見ても気にならなくなった。

例えみんながサオリを見えなくなって、俺だけでもサオリの存在を確認できればそれでいい。


「いいんだよもう。少しずつ、頑張って行ってね」


またサオリは頭の上に手をかざしてくれる。

ゆっくりと、子どもをあやすように優しい声を掛けてくれる。

それが嬉しくてまた泣いてしまいそうになったけれど、急いで涙を拭いて俺は力強く頷いた。


「そうだ、今日からこれ配ろうと思うんだ」

「ん?」


俺はガサゴソとカバンの中からクリアファイルを取り出した。

毎晩少しずつ作業して作ったビラだ。

内容はもちろん、あの日の事故についての情報提供を呼びかけるもの。


「駅も近いからここが通勤路、通学路の人もいるだろ?だからあの日の事故を見た人は結構いると思うんだ」


説明しているのを、サオリはビラを見ながら聞いていた。


「ありがとね、ヒロト」

「これぐらい普通だよ」

「ううん、嬉しいよ」


サオリにそう言ってもらえると、こちらも嬉しくなる。

生きているうちにもっと、サオリを喜ばせてあげたらどんなに……。


「へーえ、逃げたわけじゃなかったんだあ?」

「!?」


怒気を含む声に、俺とサオリはびくっとして振り向く。


「久しぶりだなあ、高橋」

「……ユウヤ先輩」


そこにいたのは、俺と同じようにスーツに身を包んだユウヤ先輩だった。

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