かくよむちほーのアルパカちゃん

沢田和早

生えた草は抜きましょう


「電圧ガ落チテイマス。至急充電ノ必要ガアリマス」


 ジャパリバスを運転しているラッキービーストの警告を聞いて、かばんちゃんとサーバルちゃんは顔を見合わせました。


「近くに充電できる所があるかなあ。サーバルちゃん、ここは何ちほーなの?」

「かくよむちほーだよ。沢山のフレンズが色々な作品を書いて公開しているちほーなんだ。あっ、あそこに入ってみようよ」


 サーバルちゃんが示す方向へバスを走らせるラッキービースト。人気のない小屋の前でバスを停めて蓄電池を取り出し、小屋の戸を開けて中へ入ると元気な声が聞こえてきました。


「わはー、いらっしゃい。ようこそマイページへ」

「あ、はい、はじめまして。ボクはかばんで……」


 出迎えてくれたのはアルパカちゃんです。かばんちゃんの挨拶の途中にもかかわらず話を続けます。


「どうぞどうぞ、ゆっくりしてってえ。いや、待ってたよ。やっと読者さんが来てくれたよぉ。嬉しいなあ。ねっ、なに読む。SF? 恋愛? それともホラー? 色々あるよ。これね、WEB小説っていうんだよ。博士に教えてもらったのお。この端末を使ってね……」


 アルパカちゃんは本当に嬉しそうです。このページを訪問して小説を読んでくれるフレンズはよっぽど少ないのでしょう。かばんちゃんとサーバルちゃんの二人だけでこれほど喜んでいるのですから。

 かばんちゃんは言いにくそうに用件を切り出しました。


「あ、あの、僕たち小説を読みにきたんじゃないんです。バスを動かしている蓄電池の電圧が落ちてしまって、ここなら充電できるかなあって思って」


 それを聞いたアルパカちゃん、テンションだだ下がりです。


「読者さんじゃないのかあ~……ぺっ!」

「わわわ、ごめんなさい」


 まさか唾を吐かれるとは思っていなかったかばんちゃん、取り敢えず謝っておいて話を続けます。


「それで充電したい蓄電池ってのは、こーゆーのなんですけど」

「ああ、それなら、もしかして……」


 アルパカちゃんと一緒に小屋の屋根に上るかばんちゃんたち。そこには立派な太陽電池と充電器が設置されています。


「これじゃないかなあ」

「コレダヨ、コレダヨ」


 ラッキービーストが蓄電池をセットしました。充電が完了するまでしばらくかかりそうなので、かばんちゃんたちは再び小屋へ戻って待つことにしました。


「ねえねえ、アルパカちゃんがさっき言ってたWEB小説って読んでみたいなあ」


 好奇心いっぱいのサーバルちゃんが話し掛けます。アルパカちゃんは申し訳なさそうに答えました。


「あ~、それが、充電している時は端末は使えないんだあ。端末が使えなきゃWEB小説は読めねえんだ」

「えっ、そうなんですか。ごめんなさい、大丈夫ですか」


 またも謝るかばんちゃん。小説を公開している小屋で小説を読めなくしてしまったのですから当然です。それでもアルパカちゃんは笑って答えます。


「大丈夫、大丈夫っ! 読者さん、全然来ねえっから」

「そんなに読者さん、来ないんですか?」

「来ないねえ~、誰も来ないねえ~。どの小説もアクセスはゼロのままだよお~」


 顔は笑っていますが声の調子は沈んでいます。せっかく小説を書いても読者がひとりも来ないのでは、アルパカちゃんも随分と辛いはずです。


「アルパカさん……」


 突然、かばんちゃんが戸を開けて外に出ました。小屋の周りに広がるプロフィール、近況ノート、キャッチコピー。それらには何も書かれていないので、すっかり草が生い茂っています。


「あの、ひとつ試してみたいことがあるんですが、この小屋の周りの雑草って抜いても大丈夫ですか」

「へーき、へーき。草むしり大変だから助かるよお」

「あたしも手伝うよ、かばんちゃん!」


 それからサーバルちゃんとアルパカちゃんの手を借りて、せっせと小屋の周りの雑草を抜くかばんちゃん。無秩序に抜いているわけではなく、草を抜くことで何かをしようとしているようです。


「これでよし、っと。そろそろ充電も終わるころだし、小屋の屋根に上ってみようよ」


 雑草はまだらに抜き残ったままにして、かばんちゃんたちは屋根に上りました。そこから見下ろした景色にアルパカちゃんは歓声を上げました。


「うわあ~、凄い、凄い。これなら読者さんもきっと気づいてくれるよお~!」


 なんと、かばんちゃんは雑草を文字の形に抜くことで文章を作成していたのです。


 気立ての良さが感じられるプロフィール。エッセイのように綴られた近況ノート。思わず本文を読みたくなるキャッチコピー。

 小屋の周りに生い茂った雑草を使ってこれらの文章を構築したかばんちゃんの才能と行動力に、アルパカちゃんもサーバルちゃんも目を丸くして驚き、そして感心するのでした。




「んじゃあ、気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」


 充電が完了した蓄電池をバスにセットして、かばんちゃんたちは小屋を出発します。


「また来てねぇ~!」


 アルパカちゃんの声を背に受けて、バスを走らせるラッキービースト。次に訪れるちほーではどんなフレンズと仲良くなれるんだろう……期待に胸を弾ませながらバスに揺られるかばんちゃんとサーバルちゃんなのでした。


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