半身タイムマシンでGo

ちびまるフォイ

半分だけ未来、半分だけ過去。

「やったぞ! ついにタイムマシンの完成だ!!」


私はついに長年の夢である時間旅行を今日達成するのだ。

さっそくタイムマシンのスイッチを押した。


ものすごい光とともに私は未来に飛ばされた。

ただし、半分だけ。


「なんだ、これはどうなっている!?」


意識も実感もあるが、タイムマシンの失敗で体と心が

それぞれ二等分されて未来と過去に分かれてしまったのだ。


「やれやれ、研究は失敗か。しょうがない何か食べよう」


戸棚のカップ麺を取って食事を済ますと、

今度は未来に転送された自分の体に異変が起きた。


「うわ! なんだ!? 急に肌荒れがひどくなった!」


まさか今のカップ麺が影響してるのか。

過去に偏った食生活を送ったことで未来が変異している。


「これはいいかもしれない。私の体と心の半分は未来にいっている。

 ということは、過去でやったことがすぐにわかるというわけだな!」


さっそく街に出てきれいな女性に声をかける。


「へい、彼女。私の研究室で愛の底を研究しないかい?」


「へぇおもしろそうね」


普段なら大喜びするところだが未来がわかるのですぐに冷めた。

なにせ未来では私の周囲にこの女がいない。

ということは、この女は自分の人生になんら影響を与えなかったのだろう。


「ああ、やっぱりいいです」


「なによ。自分から声かけたくせに!」


未来がわかるのも楽じゃない。

何の気なしにお酒を手に取ると、未来の私の肝臓がぎりりと痛んだ。


「いたた……なんだ!?」


未来ではオート人間ドックというセンサーが内蔵されていて

体の不調が出そうな場合は痛みを誇張して危険を伝えている。


「ってことは……肝臓が痛んでるのか!?」


慌てて過去の私は手にまで持っていたビール缶を捨てた。

前まではいかに体に悪かろうがなんだろうが、

今この瞬間の快楽を優先してきた。


でも、未来に心と体が転送されて、リアルな未来への悪影響を肌で感じると

かつてのやぶれかぶれの生活習慣を改めずにはいられない。


気が付けば、周りから健康オタクと言われるほどの水準になっていた。


「お前、急に健康オタクになったな。前まではそんなんじゃなかったのに」


「そりゃ、未来の自分がどうなっているか肌で感じれば

 誰だって自分の健康には気を使うよ……」


未来の自分に気を使いすぎるようになり、

私の日常からはだんだんと「娯楽」が失われていった。


どこかでつまづいたら。

変なものを食べたら。

悪い人に絡まれたら。


自分がやった小さな行動ひとつでも未来では大きな影響を及ぼす。

誰かに言った言葉一つで、未来の私が殺されかねないのだ。



しだいに家からは出なくなり、ひきこもりがちになった。


「ここから出なければ、未来に悪影響があるものに巻き込まれないはず……」


が、ひきこもったせいで今度は人付き合いが悪くなり

未来の自分には頼れる人がいなくなった。


「ひきこもることすら未来に影響があるのか!

 こんなことなら未来なんて知りたくなかった!! こりごりだ!」


未来のことなんか気にせずに過ごしていた日々がなつかしい。





「……いや、待てよ? 未来が見えてるんなら過去を変えられるじゃないか!」


私はとんでもない思い違いをしていたことに気付いた。

半身が未来に行っている今、未来を変えるために過去を変えることだってできる。


未来の私はひきこもりの悪影響でさびしい独り身生活を送っているが

過去の私が行動することで変えることができるはず。


どうして今まで過去の自分しか見てなかったのか。


「よし! やろう! 未来を変えるために!」


思い立ってからは未来がどんどん良くなっていった。


未来で起きる悪いことを未然に防ぎ、

未来での失敗を過去の時点で対応していった。


どんなに未来の自分が充実していっても、けして心が満たされることはなかった。


「はぁ……どうしてだろう……。

 なんでこんなにもつまらないんだろう……」


「この小説が?」


「ちがうわ!!!!」


結局、今の自分は未来のための修業期間にしかなっていない。

そりゃ未来では充実しているかもしれないが、私は今も充実したい。


そのことに気付いたとき、私はタイムマシンの再開発を決めた。


「未来が見えたって、現在が充実するわけじゃない。

 やっぱりタイムマシンで私をもとに戻そう」


改良型タイムマシンの開発をはじめてから時間が流れた。


なにせ、前のタイムマシンは失敗作。

そのうえ今の自分は半身しかいないので、頭の回転も半分だ。


普通に開発するよりも2倍に時間がかかってついに完成した。


「できた……ついにできた……!!

 半身転送タイムマシンができた……!!」


未来の自分と、過去の自分がタイムマシンを完成したのは同時。


お互いにタイムマシンを起動させれば、

半分だけ過去に送ることができる。


過去のある地点で半身と半身がそろってすべて元通り。


「ああ、ここまで本当に長かった……」


これまでの苦労を走馬灯のように思い出して、スイッチへと手を伸ばす、


未来の自分と過去の自分。

両方が過去のある地点に転送されて、完全体に戻れる。


「スイッチオン!!」


スイッチを押すと、タイムマシンが過去へと転送された。








「……え」


未来の自分も過去の自分もぽかんとしていた。


それぞれのタイムマシンの半分だけが過去に転送された。

きっと過去のある地点では、半分どうしが合体して完全なタイムマシンができている。


「うあああ! またミスをしてしまったぁぁ!

 私が過去に送られずに、タイムマシンが転送されてしまったぁぁぁ!!」


残されたままの過去の自分も未来の自分も、同じようにうなだれていた。






「やったぞ! ついにタイムマシンの完成だ!!」



一方、もっと過去の私は突如送られてきたタイムマシンに歓喜していた。

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