お客さん、いらっしゃ~~いのコーナー
はい、アーティストはデッドリーエンジェルで「殺戮の天使」でした。
美しいゴシック系の歌声を披露していただきましたが、これを聞くと人間どもは途端に呪い状態になるらしいですよ。面白いね。
「デッドリーエンジェルの歌声は我々にはそれはもう、天にも昇るような美声に聞こえるのですが、人間には死者の怨嗟の声に聞こえるようです。中にはその声に引きずり込まれて死に至る者までいるそうですよ。彼らの声を元にして作られた魔術が深淵の声、というものらしいです」
それは凄いな。デッドリーエンジェルの配置もう少し増やせないかな?
地上の重要なダンジョンにも置いておきたい。
「残念ながら、デッドリーエンジェルはアゼル様と一緒に堕ちてきた天使の成れの果てでございます。ゆえに増やそうにもこれ以上は増やせません。幸いなことに今まで勇者や冒険者たちに倒された事はないのですが」
数減ったら補充できないのか。そりゃヤバイな。迂闊にいろんなところに配置するわけにもいかないのか。
「とはいえ、デッドリーエンジェルは滅茶苦茶強いですからね。何と言ってもアゼル様の側近だった方々ですので。そうそう負ける事などないはずです」
しかし残念だなあ。増やせれば魔王軍、かなりの戦力増強になったはずなのに。
強い魔物、たいてい一点ものとか数量限定ですね。
「それでは次のコーナーに行きましょうかマオウ様」
お、そうだね。
えー、次のコーナーは新コーナーです!
僕とユミルさん二人でずっと番組を続けていくのも少しリスナーの皆も飽きただろうから、ゲストを呼ぶよ!
「まあ前に私の代わりにアゼル様が出てた事もありますけどね」
あれはノーカウントで。
それでは新コーナー、いきます!
『ゲストさん、いらっしゃ~~~~~~い』のコーナー!
「このコーナーはゲストを呼んでその人の紹介から今までやってきたことなどを聞き、マオウ様が興味ある事や無い事を聞いたりするコーナーです」
いや、興味の無い事はさすがに聞いてもしゃーないからね?
今回はちょっと状況が少しばかり切迫してるんで、いわゆる大魔王の先輩、先達からお話を聞きたいなぁって思ってゲストさんを選びました。
「大魔王としての心得が聞きたいなら一番身近にいらっしゃるのでは?」
ユミルさん。前に来てもらった時のうちの父さんの喋りとか愚痴とかもうお忘れですかね?
「……確かに、来たら来たでとてもウザそうですね。上から目線でべらべらとこの番組の終了時間まで口からクソ垂れ流してそうです」
ユミルさんがとても秘書とは思えないような語彙を発している……。
「率直な感想です」
ともあれそういう事ですので、うちの父さんは除外させていただきました。
それではお呼びいたしましょうこの方です、どうぞ~~~~~!!
(マオウの対面に魔法陣が出現し、キラキラと輝く光を放ちながら人影が出現する)
某超有名な冒険譚のラスボスを務めていた相馬さん(仮名)です!
「ボスを倒したと思ったら実は中ボスで、ラスボスが更に後ろに控えていた、というパターンが明確に確立したあれですね」
ユミルさん詳しい!
「裏世界Wikiで勉強しました」
そうそう。前の作品でもそのパターンのラスボスは居たんだけど、このお方は存在感が段違いだったね。変身しないにも関わらず、そのインパクトは絶大なものを誇っていたんだよ。シリーズを代表するボスとして今もなお名前が上がると言う、それはもう凄いお方なんですよ。
……相馬さん? 相馬さん?
「…………zzzzzzzzzzz」
相馬さんちょっと起きてください? ゲストが寝ていたらコーナー始まらないですよ?
「あーちょっとすいませんネー。なにぶんこのお方ももう年を取り過ぎて老人なのでネー」
そういえば今まで気づかなかったフリしてたんですが、相馬さんの隣にいらっしゃるスケルトンはどなたなんでしょうかね。人間の骨じゃなくて明らかに魔物っぽいのはわかるんだけど。今日は相馬さんしか呼ぶつもりは無かったんだけど、一緒に召喚されてきたんだけど。
「ワタシ、アントニオ=ヴァン=デ=ラモスと言いマース。相馬さんの介護を担当してマース。ラモスと呼んでくださーイ」
なんか口調が微妙にウザいなこの人。
「相馬さん、起きてくださイ? お仕事ですヨ?」
「……ん、んん? おお、いつの間にか呼ばれておったのか。気づかなんだ」
いや気づけよ。仮にも世界の半分を闇に包み込んだ大魔王でしょうが。
「おお、おお。お主がマオウとやらか。如何にもまだまだ若いが、既に大魔王の風格を漂わせておるではないか。よきかなよきかな」
では改めてご紹介します。 元、大魔王の相馬(仮名)さんです!
「うむ。余こそが大魔王zo……もとい相馬である。よろしく頼む」
少し危なかったですね。
ではユミルさん、相馬さんの経歴を簡単に紹介してください。
「はい。といっても、相馬さんの経歴は闇に包まれていてよくわからないのです。地上の支配はそちらの骨、ラモスさんに任せつつも裏から世界を支配しようとしていたと言う事は記録に残っているのですが」
「うむ。余は極力表に出る事を避けて目立つ事はすべてラモスにやらせていた」
「イエス! 私がデコイとしてのボスを務めてマシタ。もちろん、私もボスとしての風格は十分にありまース。それはもう、人間どもがやすやすと騙されてくれるくらいにはネ」
それは何故です? というかこの骨、ボスだったのか。うぜえ。
「あえてラモスが大々的に地上を侵攻、支配しようとしていると喧伝する事により、人間の目をそちらに向かせるのが目的だ。そうすることで私の存在を人が感じる事がなくなり、裏からの支配がよりスムーズに行くというわけだよ」
ははあ、なるほど。確かによく考えられている。
僕はつい面倒で、表の世界にはラモスさん的なボスは置いてないんですよね。
自然にボスになった魔物が自分から指示を聞きに来たりとかそういうのはありましたけど。
「そんな事では世界を征服など夢のまた夢だぞマオウ殿よ」
「そうだヨ!? なんで支配を諦めるのミスターマオウ!?」
骨ちょっとうるさいヨ!? 僕まで口調移っちゃったじゃねーか。
といっても、僕はそこまで地上を支配する事に魅力を感じてないんですよね。
今の勢力を維持して、時々くる連中を追い返せればそれでいいんです。
平和を愛する魔王ですから。
「なんと。一体何のために大魔王をやっているのかそれではわからぬではないか。大魔王の責務とは人間を生の苦痛から解放し、全てが平らになった死の世界へ、静かなる深淵の縁へと誘う事ではないのか。生は醜く、死こそが美しい。そうは思わぬのか?」
僕は生も死も等価値と考えていますのでね。生命があってこその死。死んでこそ、新たに生まれる生命の息吹があるんです。循環が無ければこの世は続きません。僕らが生きる裏世界とて厳しいながらもこの循環が保たれているのです。
「むむう、最近の若人の考える事は余にはよくわからぬ」
「一応捕捉ですが、魔族全体の考えという訳ではなくマオウ様独自のお考えなので、そこはお忘れなきよう。相馬様」
「おお、そうかそうか。やはりそうでなくてはな。そちはどう考えておるのかな? ええと……名前はなんといったかの」
「ユミルと申します。私はどちらかと言えば、人間は殲滅し地上に魔族の楽園を築きたいと考える、魔族としては一般的な考えを持っています。しかし、私はそれ以上にマオウ様に絶対的な忠誠を誓っています。故に、自らの考えよりもマオウ様の考えに沿い、マオウ様の指示に従う事を優先します」
なんですかユミルさんその言い方は。まるで僕が変な考え持ってるみたいじゃないか。
「まるでというか、実際マオウ様の考え方は裏世界の魔物、魔族の一般的な考えと比べるとだいぶおかしいです」
むむむ。やはりそうなるか。
「相馬さまの経歴を続けて紹介しますが、俗に言われる{下の世界}とやらを闇に包んで支配下に置いた後に、ラモスさんがやられた所で{上の世界}に宣戦布告。そこから総攻撃を仕掛けようとしていた模様ですが、後の伝説の勇者と呼ばれるパーティが城に侵攻してきて、激しい戦いの結果敗北して深淵の闇に沈んでいったと……」
なるほど。
「余も計略を尽くして向かって来る勇者たちと相対したのだがな。残念ながら勇者たちが神の下から持ち出してきた、太陽の輝きの宝珠によって余を守っていた闇の衣を剥がされてしもうてな。その後どうなったかは語り尽されておるゆえ、省かせてもらおう。マオウ殿も自らも守るバリアを破られたりしないよう、敵が何か厄介なものを持っていたら対策を考えた方が良いぞ。うむ」
ご忠告痛み入ります。
ですが僕の場合、バリアとかフィールドとかそういう類のシステムでは身を守っては居ないんですよね。
「ほほう、というと?」
勇者ハッシーたちがこのラジオを聞いていると思うので詳しくは言えませんが、エネルギーを供給するシステムです。だから傷つけられたとしてもすぐに治りますし、魔力が尽きる事も基本的に無いですね。
「なるほど自動回復か。余もHPだけなら回復するのは持っていたな」
僕の自動回復はかなりえげつないですよ、フフフ。
相馬様の時代のあれは、容量も少なくてボスとして表現する為に偉く苦労した名残なんだなあと今から見ると思えますね。
「ギリギリまで詰めて詰めて、オープニングさえ削ってようやく容量を確保したと言うから、涙ぐましい努力ですよね」
いやあもう。当時はマシンスペックが低いのとソフトウェアの容量が少ないのもあってどうやって表現しようか、何を削ろうかというのが常にギリギリのせめぎあいだったと聞いております。おかげで勇者の父親は荒くれものの容姿を使いまわされたし。
「パンツ一丁の斧だけ持った変態が城にやって来た時は何事かと思ったわ」
しかもどうやって来たのかがわからないんですよね。
印だか証だかを揃えてきたわけでもなし。そうすると、あの海を泳いで渡ってきたとしか考えられない。いくらなんでも脳筋が過ぎるでしょう。
「そのおかげで余に辿り着く前に倒せたわけだがな。相打ちになった魔物はよくぞやってくれたものよ」
その代りにすぐに勇者たちが来たわけですけどね。
「全く忌々しい勇者どもよ。父親が城の魔物を倒してさえいなければまだ勝ち目はあったかもしれぬものを。……いや、これも運の巡り合わせというものか」
最終的に運は大事ですからね。
人事を尽くして天命を待つ、ということわざもあるように。
「余もやれることは全てやったが、それでこの結果では死んでも死に切れんわ」
まあまあ。
大魔王としての責務からは解放されたのですから、ある意味気楽になったと割り切ってはいかがですか?
「何を言うか。余は生きとし生けるもの全てを生の苦しみから解放することこそが使命だったのだぞ。結果がこれではやりきれぬわ」
「だからこうやって未だにクダ巻いてるンですネ」
ラモスさんが何気に酷い事を言ってるような。
「実際勇者にやられたのだから仕方ないですネ。私なんか死んだ後、更にゾンビとして復活させられて城の警備の為に働かされてましたけどネー。死後も働かなきゃならないとかとんだブラック職場ですよネー。いや闇職場ですかネ?」
「やかましいわ! マオウ殿はそもそも、余を何のために呼び出したのかそろそろ説明しなくてはならないのではないのかね!? 余もそこまで暇じゃないんじゃよ!」
「相馬さん今はそこまで忙しくない、というか日がな安楽椅子に座ってのんびりしてるじゃないですカ」
話題変えようと必死な大魔王乙。
「マオウ様は相馬さんに、大魔王としての心得、心構えやその他知識などについてお聞きできればと思ってお呼びしたのですよ」
「なるほど、それならいくらでも話してやれるぞ」
話し込み過ぎて番組終了時刻にならない程度にお願いしますよ。
「その程度余もわきまえておるわ。あまり舐めないでほしいものだ」
いえ、うちの父親が延々と話し込んで終わらないタイプだったもので……つい。
「そうか……。一度会ったことがあるが、余もあのような人種は苦手だな。うっとおしくてかなわん」
意見が合った所で心構えについて改めてお聞きしたいと思います。
「うむ。まず大魔王とは何か、という所から話をしたい」
はい。
「先に言っておくが、これはあくまで余が考える大魔王とは何か、という持論である。マオウ殿には自分なりの大魔王としての道を見つけていただきたい」
わかっております。
「大魔王とは何か、何を成すべきであるのか。我らは闇の中に生まれ、光を退ける物である。先ほどから散々言っているが、闇こそ至高であり、全てを闇の中に包み込む事が目的である。我ら魔の者が生きる上で闇は必要だ。もっとも、我らは闇より生まれし眷属だからこそ、こう考えるのかもしれぬがの」
僕たちの場合は混沌と呼ばれるものから生まれたと父から聞いております。
「混沌か、それも悪くない。ともあれ、余はこの世界に意識を持った時から、それが余の使命だと思っていた。この世に闇あれ。そして人間どもに死を。そうすることによって全てが平らな、穏やかで止まった世界が訪れるだろうと。全てが静止した、何の音もしないような世界こそが余の望む世界であると」
なるほど。
「ゆえに大魔王は光を、命の輝きを許さぬ。大魔王とは冷たい死のイメージをもたらすものだ」
そういえば相馬さんは主に氷の魔法を使っていましたね。
「うむ。そうそう、昔は死の呪文と言えば血液を凍り付かせて生命活動を停止させるというものだったのだが、時代が流れていつの間にかただの呪いの言葉にすり替わっているのだ。面白いものよの」
僕たちは主に火の魔術を使うからそこは全く真逆ですね。生命を焼き尽くす事によって苛烈な死をもたらす、といったイメージでしょうか。
「なんと!? お主大魔王の癖になぜ氷の魔法を使わん!?」
いや、だから僕は混沌から生まれたって言ってるじゃないですか。
混沌の本質は燃え盛る炎ですよ。宇宙は全て熱を持った火の玉から始まったとかいう説があるじゃないですか。氷の魔術も使えなくはないですが、どちらかと言えばそっちの方が得意なんです、と言うだけですよ。
「そんなものは認めんぞ! お主は今から余の敵と認定する!」
いやいやいやいやちょっと待って待って。氷の魔術の詠唱準備やめて。
「あー、はいはいいつもの発作ですネ。ちょっとお待ちくださいネー」
ラモスさん、何かいい手でもあるんですか?
「このお方は突然激昂するので、その時はこれが一番なんですヨ」
ラモスさん懐から何を取り出したかと思えば……これは……棘付きの大鉄球!?
「ほいサ!」
(物凄い鈍い音とともにブース内に震動と衝撃が響き渡る)
うわ、大分えげつない音がしたな……。そして相馬さんが机に突っ伏したまま起き上がらないんですけど。
大丈夫ですかこれ。死んでないですか?
「大丈夫大丈夫。これまで何回も頭どつきまわしてるけど死んだ事ないし大丈夫ヨ。この程度で死ぬようでは大魔王は務まらなかったヨー」
全然微動だにしてないんですが。
と、とりあえず音楽行きましょう!
アーティストはクインテットドラゴンズで、曲名は「ヘルファイア」です。
どうぞ!
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