マオウ様、お願いします!のコーナー
はい、今掛けていた曲はダークナイトさんの「アイアンセイバー」でした。
いや正統派なメタルって感じで良かったね。昔懐かしい雰囲気を漂わせながらも新しいものも取り入れている、そんな感じかな。
「先ほどから疑問だったんですがマオウ様はメタル? というジャンルの曲がお好きなんですか?」
そうそう。メタルは激しく、流麗かつ邪悪なメロディが特徴でね。
その中にはサタン、つまり魔王を称えるものさえあるんだよ。人間の中でも我々を崇め奉る、殊勝な連中がいるらしいな。
これは僕がたまたま別世界に行った時に知って、こっちに持ち込んで広めたんだけどね。楽器なんかも作ったし。
「またマオウ様はどっかに行ってたんですか。放浪の騎士かなんかですか」
待って待って。これについてはかなり昔のことだから。
まだユミルさんが秘書になる前の話、そうあれは12万年前の事です。
僕ですらまだ大魔王になってない時期ですよ。
あの頃は自由で良かったなあ……(遠い目)
「私はまだ生まれてないですね。ならよし」
良かった良かった。
じゃあサクッと次のコーナーに行きましょう。
『マオウ様! お願いします! のコーナーコーナーコーナー!!』
「このコーナーは主にマオウ様に色々なお願いや相談事をするコーナーです」
そうなんだけどさぁ~~~~~~~。
最近なんか真面目なお願いや相談が来ないんだよね。
何と言うか無茶ぶりばっかりしてくるのが多いんだけどこれどういう事?
「マオウ様がどんな事でも解決してみせる! って大口叩いたからじゃないでしょうか。実際大魔王だから魔法で何でもできるけどそれじゃ面白くないんで魔法は使わないで解決策を考える! とか自分で縛りプレイみたいな事を言いだしちゃって。あまり言いたくないんですけど、マオウ様はアホなんですか?」
いやね、全知全能とまではいかないけど僕だって神様みたいな存在なんだよ。
あえて使わない方が面白い、そう思わない?
なんでもできるからこそあえて縛る、これこそが僕の矜持だ。
「なんか効果音でキリッ、とか言いそうなセリフは結構です。こんな人はほっといて早速お手紙の方に行きましょう」
なんかユミルさん今日の当たり方めっちゃ強いんですけど何かあったの?
あの日? 痛みが強かったり倦怠感あります?
辛かったらお薬や魔法掛けるけど?
「マジでぶち殺すぞクソマオウ様。早く一通目のお便り読めっつってんだ」
大魔王をクソ呼ばわりとか酷い! ひどすぎます! 泣くぞ!!
「ウザい」
……えー、早く進行しろって指示が来たので読みますね。
投稿者、とあるダンジョンのガーゴイルさんより。
こんにちはマオウ様。
――はいこんにちは。
最近ダンジョンの警備が暇で仕方ありません。私は今、北方三国のちょうど境目に位置する奈落の穴、と言われるダンジョンを警備しているのですが、一向に冒険者がやってきません。もう数十年くらい見た覚えがないです。
――あー、あそこね。ヴァルディア王国とイストニア皇国、ドニ=アーデン連合国の国境のちょうど真ん中にある。あそこ知名度低いんですかね? あ、なるほど。経験値もお金もシブい癖にやたら魔物が強くて行く価値がないと。それは酷いですね。暇なせいかガーゴイル達もだらけきってますね。水晶玉で様子見てみたらあくびしたり、寝転がってたり酷いなこれ。
そこでお願いなのですが、私達にもなんとか倒せる程度の冒険者達を連れてきてもらえないでしょうか。体が鈍り、心がだらけてしまっているので、この辺で引き締めておかないといけないような気がするのです。
よろしくお願いします。
……なるほど。
「喜んでくださいマオウ様。まっとうなお願いですよ」
んんんん……。まっとうと言えばそうなんだけど、彼らには自分たちで訓練するとかそういう発想はないのかな? 人間達はよくやってるよね。
「先日ガーゴイル達に話を聞いた所、人間達がどういう戦い方をするのか忘れちゃったから訓練のしようがない、とか言ってましたね」
手紙にそういう事も書いてほしいんだけど?
というか、ユミルさんわざわざ聞いたのね。
「お仕事ですから?」
お、無い胸張って私偉いでしょ、みたいなポーズですね。
「何か、言いましたか?」
い、いえ、何も。
それにしてもユミルさん気が利くなぁ! これからも僕の右腕として居てほしいなあ!
「秘書としての仕事なら存分に腕を振るいますが、ラジオパーソナリティは早く引退したいです。人前で喋るの、本当はあまり好きではないので」
あ、はい、すいません。
じゃあガーゴイル君らのお願い、どうしよっか。
転移の魔法で冒険者達をチョイチョイっと連れてこれれば早いんだけどね。
自分で縛りプレイしちゃったからなあ。
「本当にマオウ様は間抜けというかなんというか。後先考えないですよね」
その時は面白いと思ったんですよ!
「一緒に考えなきゃならない私の身にもなってください」
本当にごめんなさい。
まあその、なんだ。
冒険者を連れてくるのはちょっと難しいかな。
経験値もお金もシブいって状況だとちょっとうまみがないよね。
そのくせ、このダンジョンに配置されてるのは強い魔物ばかりとなるとますます行く価値がなくなる。
「なら行く価値があるように仕向ければいいんじゃないですか? 例えばダンジョンの最奥に人間に価値のあるような宝を仕込むとか、あるいは経験値かお金の良い魔物を配置するとか」
安直に考えれば、そうするのが手っ取り早いんだろうけどな。
でも噂が広まるまでに結構な時間もかかるし、なるべくなら今すぐにでも彼らが戦意を取り戻せるようにしたいんだよね。
……そうだ。
何も他に魔物やアイテムを追加するんじゃなくて、彼らを外に出せばいいんだ。
「なるほど、押してダメなら連れ出そうと」
ユミルさん何を言ってるんですか?
まあ、あれだね。
昼と夜ではフィールドに出る魔物は違いますよね。そういう風に僕が配置してるからなんだけど。
今後は彼らをダンジョンではなく、フィールドに出現させるようにしよう。
「どのあたりに出没させます?」
そうだねえ。
イストニア皇国の南の平原あたりに出没させましょう。あの辺はリビングスタチューも徘徊しているし、石像系のMOBとしてひとまとめにしておくと管轄もやりやすい。冒険者のレベルもそこまで高くないし、ガーゴイル君一人だけでも冒険者の群れを片付けるのはたやすいね。
ガーゴイル君の抜けた穴にはスモークビースト君を配置転換しとこうかな。彼はガーゴイルより強いけどそれなりに経験値とお金もおいしいし。
ついでにダンジョンの奥になんか適当な宝物でも配置しときましょうか。冒険者達を釣るエサとして。噂も適当にばら撒いておこう。
「了解です。どんな宝物を置いておきましょうか?」
そうだね。僕のラジオ番組を録音したものなんかどうだろう?
「スカ宝物ですか?」
いや、そういうわけでは……。でも人間達は再生機器持ってないか。
んじゃあ適当に、ディルヴィングとか配置しておきましょうか。
「呪いの長剣ですね。あんなものをありがたがる人間の感覚、よくわかりませんね」
呪いつっても僕らには呪い掛かんないからね。魔族なんか呪いの権化みたいなもんだけどさ。こんな感じで良い?
「マオウ様にしては中々良い解決法となったような気がします」
一々なんか棘あるな……。
ま、褒められたと解釈しておきましょう。はい、この件については解決です!!
「イストニア皇国ならそこそこ冒険者も居ますし、ガーゴイルも近いうちに鈍った体と精神を引き締められるでしょう」
では次のお便り!
投稿者、燃える犬さんより。
煉獄の炎が燃え盛る昨今、いかがお過ごしででしょうか。
最近は人間達が調子に乗っていて不快です。
ワシの燃え盛る吐息で根絶やしにしたいのですが、人間は数が多すぎて我らだけでは根絶できそうにはありません。
マオウ様、早く地上総攻撃のご命令をお下しください。
――んー、この人はかなりタカ派だねえ。もしあれなら父さんの部下になったほうがいいかもよ。
とにかく、マオウ様には攻撃的な意欲が欠けているように思えます。
炎のような、熱く熱く燃え滾るマグマのような意思、それが必要です。
ゆえに提案します。
マオウ様は魔王城近くの、混沌の火山で口を開いているマグマ溜まりの中に浸かり、精神修練をすべきです。
最低でも24時間は浸かって、煮えたぎる溶岩に耐え、そして精神を高めるのです。
できたらラジオでの報告をお待ちしております。
……うーん、なんだろうなこの手紙。無茶ぶりなのかな?
「頑張って考えたんでしょう。微笑ましいですね」
この際だから言っちゃうけど、僕、元々混沌の属性あるんだよね。
だから溶岩とか熱とか、全然平気。
父さん曰く、混沌の欠片から生まれたらしいけど。
だからマグマに浸かるのなんか、例えれば人間が温泉に入るのと全く同じ感覚。
逆に冷気はちょいと苦手なんだよね。冷凍室とか氷室とか体が震えて震えて。
「液体窒素ぶっかけたらマオウ様って死にますか?」
HAHAHA、僕はターミ〇ーターじゃないから死なないよ? あれも固まっただけだけどもさ。どうしてこのハガキ採用しようと思ったのユミルさん。
「たまには簡単にできるものもいいかと思いまして」
うう、ユミルさんの優しさが五臓六腑に染み渡る……!!
「貴方骨じゃないですか。内臓も肉もないでしょう」
はい、という訳でこのお願いに関しては次回にでも報告しようと思います。映像はラジオでは見れないから水晶玉を各地に配置しておくので、それで燃える犬さんは確認してね。
次のお便り行きましょう。
投稿者。美しき誘惑者さんより。
これは女性っぽいね。自分で美しきとか言っちゃうんだ。へー。
とんでもない自信があるんだな。まあいいや、読みます。
拝啓、マオウ様。ご機嫌麗しゅうございますでしょうか。
――なんか挨拶おかしいな、この人。こんにちは。
実は私、困っております。
私は誘惑し、冒険者の油断を誘ってこの手に掛けるのが仕事なのですが、あろうことか一人の冒険者に惚れてしまいました。とても優しく、そこらの冒険者、いや魔物たちよりも遥かに強く、包容力もあり何より美形なのです。
しかし、私の仕事は冒険者を誘う事でございます。
このままでは彼の事ばかりを考え、私の仕事は手につきそうにありません。
そこでマオウ様にお願いがございます。
この冒険者を殺していただけないでしょうか。私は惚れた弱みゆえ、手に掛ける事すらできそうにございません。
――ええ……?
相手はイストニア皇国の第六皇子、グシオス=ロズベルグと言います。皇子とはいえ、継承権が低いことから一族からほぼ放任のような扱いを受け、彼も自由気ままな旅を続けており、今はヴァルディア王国に滞在しているそうです。
どうか、どうかよろしくお願い申し上げます。
「……重いですね。とてつもなく重い」
あー、いや、なんというか、ね。
困ったなあ。
惚れた腫れたの相談は今までなくはなかったんだけど、言っても同じ魔族とかモンスター同士とかそういう奴だったんだけど、まさか魔物と人間か……。これは初パターンだね。
そもそも僕は大魔王だから性別を超越してて、男女の機微とか全然わからないんだよね。だからその辺はユミルさんや宵闇の伯爵にお任せしてるんだけど。
「魔族とも厳密には違いますからね、マオウ様。唯一絶対の存在として生まれた孤独は私達には理解できないです」
まあそれはいいとして、このお願いどうしようかな。
出向いて殺しちゃうのは簡単だけど。
「……」
あ、いややっぱり僕が出向くのは良くないかなうんうん。大魔王はどっしり構えてないといけないからね。
「マオウ様が出向くまでもありません。私が行ってロズベルグとやらを殺します」
いやいや、ユミルさんが城からいなくなるのは困りますよ。
「マオウ様のお話を聞く限り、表の世界かなり楽しそうじゃないですか。一度くらいは観こ……もとい、偵察すべきじゃないかと考えまして」
それが目的!? んでいま観光って言おうとしたでしょ!?
「だって仕事ばっかりで疲れたんですよ! 私もたまには遊びたいんだ遊ばせろ馬鹿マオウ!!!」
うわ時限爆弾がついに爆発したって感じだこれ。
「もうやってられませんよ! 休日なんか最近ほとんどないしたまには一日中ぐうたらしていたいんですよ!! ぴっちりしたスーツ? だか何だかよくわからない衣装に身を包まされて! マオウ様のスケジューリングしたり他の山ほど積んである仕事をするのはもう疲れました!! 休みをよこせ!」
待って待って。
我々魔族は余程の事がない限り疲れなんて感じないし、ちょっとのハードワークで弱音を吐かれると他の連中に示しがつかないよ。
「ここ十数年くらいは休んでませんが」
ぎくっ。
「他の部署はローテーション組んだりして休み取ってるのに、私だけ毎日マオウ様の秘書だからって休みがないんですよ。私以外の秘書も作れ馬鹿野郎この野郎!」
いやぁ、生真面目なユミルさんだからこそ、秘書業務は務め上げられるものだと思うんだようんうん。マオウの傍らに居るのはユミルさん、これね!
他の方々は中々気が回らなかったり秘書を受けてくれなかったりね。人材探してるんだけど大変なんだよ……。
「わああああああああああああああん! 観光! 食事! 観光! 食事!」
相談どころじゃなくなってきたなこれ。
え、えーと、ひとまず投稿者の誘惑者さんのお願いについては、また今度結論を出したいと思います!
え? もう番組も〆ちゃえ?
わ、わかりました! DJマオウのデッドオブナイトラジオ66回目はここまでといたします! また次回お楽しみに! SEE YOU!
「休みをよこせええええええええええええええええええ!!」
あ、首の骨を掴んで揺らさないで! 頭が取れる取れる!
あーーーーーーーーーっ!!
(トランペットを主旋律としたBGMが流れ、徐々にミュート処理されていく)
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