ふつおたのコーナー@勇者からの手紙
~~~♪
(ここで音楽が徐々にミュートされていく)
はい。というわけで、HELLMASTERの「CHAOS」でした!
いやぁ、いい曲だったねえ! ギターがジャギジャギかき鳴らされて、ベースの重低音がどてっぱらに良く響く! これから先が期待のバンドだよ! ライブ、いや演奏会が開かれたら絶対にマオウ行くからな!
「テンションも上がった所で次のコーナーに行きましょう、マオウ様」
了解!
では参りましょう。毎回恒例のコーナー!
『ふつうのおたより! 略してふつおたのコーナーコーナーコーナーコーナー!』(エコー)
はい、このコーナーだけども名前からして説明は不要だよね? でも一応説明すると、この放送を聞いてくれているリスナーの皆さんからのお便りを紹介するコーナーです。
「本日も多くのお便りがリスナーの皆様より届けられて仕分けるのが大変でした」
ラジオでジェスチャーしても伝わらないよユミルさん。
そうだね。ハガキと封筒の山がたくさんできて、机の上からなだれ落ちるくらいには届いたかなぁ?
「マオウ様、嘘はおやめください。せいぜい数十通と言った所です」
あんまり正直に言うのもやめて?
とはいえ、ラジオ開始時と比較すればかなりハガキ、お手紙、そして直接のメッセージによるお便りも続々と届いてきて、マオウ大感激ですよ!
「この放送の受信に使われる、いわゆるラジオと呼ばれるモノは、実は双方向通信が可能なのです。ラジオの中に入っている輝水晶という特別な鉱石がそれを実現させていて、スイッチをこう、切り替えることによって受信モードから送信モードに切り替わるのです。実に画期的な試みです」
輝水晶は裏世界ではありふれた物質で、魔力を増幅させてくれる効果があるんだけど、まさかこうやって通信に使える代物になるとは思ってもなかったねー。
ラジオなるものを初めて知った時は電波? っていう物が使われてるらしいけどこっちではそんなものなかったから、何か代わりになるものは無いかって考えてたんだけど、魔力を波として飛ばす事が出来たら同じ働きさせられるんじゃない? って思いついた僕天才だね。
「そのおかげで水晶玉による通信にも輝水晶が使われるようになり、通信の品質が非常に上がって洞窟や山の中でも途切れることなく通話が可能になりました」
これによって我が魔王軍は人間達に対して数で多少劣っていても、有利に事を運べるんだよね。どうやら地上には輝水晶や水晶玉が希少らしく、持っているのは大軍を率いる将の通信部隊くらいらしいんだなこれが。
まあこの手のお話しは横に置いとくとして。
こういう便利なものがあるからお手紙やハガキが廃れたかというと、べつにそういうことは全くないのね。魔物の中には喋れないのも居るからね。
ともあれ、こうやって皆さんからお便りが届くのは大変に嬉しい。
今回はお便りが結構来たので、方向性を絞ってお便りを紹介したいと思うよ。
前回は裏世界の魔物の方々のお便りを紹介したから、今回は表の世界、人間達が支配する世界で活動している魔物の方々のお便りを紹介するね。
最初の一通行きましょう。ユミルさん、読み上げお願いします。
「はい。投稿者、グリーンスライムさんからです。お住まいは、表世界の世界的首都、ヴァルディア王国の平原ですね」
グリーンスライム君か。
ぷにぷにした不定形の可愛らしい魔物だね。
「マオウ様、結構可愛い造形の魔物作ってますよね。動物をモチーフにしたのが多数ありますが」
それはね、相手を油断させるためのデザインなんだよ。決して趣味なんかじゃないから。
「本当ですか?」
ホントホント。
例えば、ウサギを元にしたキラーラビットっていう魔物が居るんだけど、見た目はもう本当に元のウサギと何も変わらないくらい愛らしいんだ。
だけどね、キュートな見た目からは想像もできないような、鋭い爪と牙を隠し持っている。うっかり冒険者が可愛さに見とれて不用意に近づいた所を、こう、ズバッとやっちゃうわけよ。
キラーラビットの存在が知れても一定数の冒険者はこれでやられてる。
つまり、効果がかなりあるって事だよ。
「なるほど。話が脱線したのでスライムさんのお手紙に戻りますが、今地上の季節は春?とかいう季節です。小動物や虫が出てきて餌が増えてきて嬉しい、ですって」
こういう言い方はなんだけど所詮スライム君なんだよなあ。
もっと風雅を感じてほしいね。魔物とはいえ、即物的な感性でばかり生きていたら潤いがないだろう。
「スライムですからね。彼らの知性には限界があります」
仕方ない、か。いずれスライムたちももっと上位の存在になれるよう啓蒙しなければいかんかもな。
そうそう、ユミルさんは地上に行ったことがないからわからないかもしれないけど、あそこは季節が4つあるんだよ。春、夏、秋、冬って。
それぞれの季節に趣があって実に楽しいんだ。特に今の春は花が咲き乱れて美しいんだよ。一度行ってみてよ。
「我々の住む世界は乾季と雨季しか基本ないですからね。一応昼夜の区別もありますが、空に浮かぶ混沌の太陽と骸骨の月は禍々しく不気味です。私は嫌いではありませんが。植物も地上と同じく存在しますけど、造形や植生がかなり違いますね」
今地上ではサクラってのが見ごろらしいね。僕は一度見たことがあるんだけど、ヴァルディア王国の街道沿いにずらっと並んで植えられていて、ちょうど満開の時期に当たったのか花が咲き乱れていたんだ。その風景はまるでこの世の終わりか、それとも天上世界にでも来たかと思うくらい優美だったよ。散った花弁も街道を敷き詰める絨毯の様に埋め尽くされてて、これは誰であろうと一目見る価値があると思うね。
「ところでマオウ様、サクラとやらを見に行ったのは何時なんですか?」
ユミルさん、睨みつけるのはやめて。
「私たちは仕事で城の中をどたばた駆け巡っているというのに、自分だけ悠々と地上観光ですか。良い御身分ですね。大魔王様だけに」
いやほら、お土産といったらアレだけど、ちゃんとその時の風景を紫水晶に記録してきたんだよ! 皆に見てもらいたくてさ。ほら、見てみて! 綺麗でしょ?
「綺麗は綺麗ですが……。私はもっと儚いものが好きですね。マンドラゴラとか」
マンドラゴラが儚いとかちょっとよくわからないんだけど。
「あれの花は早朝のわずかな時間にしか咲かないんです。キレイですよ。人面を模した花がパッと咲いて、あっという間にドロドロに溶けてなくなるんです。人の命の短さ、儚さを思い浮かべますよね」
そりゃ、魔族の寿命は10万年くらいあるからね。わずか数十年で死ぬ人間と比較したらほぼ永遠みたいなもんでしょう。でもやっぱりマンドラゴラ、キモくない?
なんで抜く時叫び声上げるんだろうね。あの叫び声、生物なら種族を問わず殺すから厄介なんだよね。流石に魔族は耐性あるけど、それでもあの叫び声聞いたら一日寝込むみたいだし。
マンドラゴラを造ったのは父さんみたいだけど、本当に何を考えてたんだろうな。頭イカれてたんだろうか。
「魔族の感性で言えば、あれは愛でるものなんですけどね。こういうのは何ですが、マオウ様の感性は魔族や裏世界の魔物とはかなり離れてると思います。どちらかと言えば人間に近いですね」
そうなんだよね。
僕も一応魔王であるからには、魔物的な感性、素養があるはずなんだけどね。謎だ。まあ、今度は魔族の皆さんと一緒に地上に行きたいね。侵攻とか制圧とかじゃなしに、純粋に観光に行きたい。サクラの咲く時期に、花見とやらをやりたいし。
「まず私達が大手を振って歩ける状態を作らないといけませんが、ね」
おお、視線と耳が痛い。
じゃあ次の手紙いきましょ。
えーと次のお便りは……おや?
「投稿者名……勇者ハッシー@レベル15さん、より……?」
お名前から推測するに、これはもしかして魔物や魔族ではない感じだな。
本当に勇者様がこのラジオの存在に気づいて投稿しに来たんだろうか?
だとしたらかなり酔狂な勇者様だね!!
「……」
おやどうしましたユミルさん。浮かない顔だね。
「人間がどうやってこのラジオを知って受信してるのかはわかりませんが、もしこれを聞いているのなら由々しき問題じゃないですか? このラジオを足掛かり、もしくは情報収集の為の手段として使われたらかなりの問題だと思いますが」
んー……。それはそれで面白いんじゃないか?
「マオウ様!?」
だって今まで、冒険者達がこっちに来たこと何回あると思う?
「それは、マオウ様が10万年ほど前に大魔王として継いでから、わずか10回程度ですが……」
でしょ? それも前王アゼルから継いだばかりの、人間どもが一番殺気立ってた頃に連続で5回くらい来た後は散発的に来てたくらいで、ここ1000年くらいはこっちに来るための次元の扉すら見つけられない有様だ。
実に退屈だよ。大魔王、退屈してます!
「マオウ様、あなた戦いが嫌いだとか言ってませんでした? それと、わざわざ敵に塩を送る様な真似は慎むべきでは?」
戦いは嫌いだけど、それ以上に退屈はもっと嫌いなのさ! あとユミルさんはまだ戦ってる僕を見たことがないから知らないだろうけど、僕めっちゃ強いからね!!
いざとなったらそこらの山ひとつ、火球くらいでも消せるんだよ?
そこらの勇者なんか赤ん坊の腕をひねるようなもんだよ!
「ええ……」
何より、勇者さんがどういう内容を書いてきたのか、気にならない?
「そりゃ気にはなりますが」
じゃあもう僕が読んじゃうよ! 気になってしょうがないんだ!
改めまして投稿者名、勇者ハッシー@レベル15さんより!
* * * * *
こんにちはマオー様。
――はいこんにちは。
様々な偶然があって、このラジオを聞くことが出来てボクは感激しております。
ボクは元々は違う世界の人間だったのですが、まさか異世界に召喚されるとは思っても居ませんでした。
――へぇ、異世界から来たんだ。最近そういう事してるとは聞いたけど、いよいよ地上の方々も余裕がなくなってきたんかな?
勇者になるまでに紆余曲折があったのですが……まあ今は名前の通り、勇者として大魔王を倒すための旅を続けています。
とはいえ、まだまだレベルが低く大魔王を倒すどころか、ヴァルディア王国周辺のモンスターにさえ苦労する有様です。
また、一癖も二癖もあるパーティメンバーをまとめ、時にはなだめすかしながらの旅は正直な所、かなりしんどいです。
――うんうん、わかるよ。僕は大魔王としての仕事だから単純には比較できないけど、言う事聞かない部下やら、先走って勝手をする部下やらが一杯いて、人を率いるというのは大変だなって何年経っても思うよ。
この気持ちを吐露する場所もなく、悶々としながら旅を続けていたのですが、もう限界です。この気持ちをどこかにぶつけたい!
そう思ってこちらに投稿させていただきました。ご迷惑でなければよろしくお付き合いください。
――いいね! ぜひ投稿続けてほしいね!
今現在の悩みとしては、戦士のイリーナについてです。
彼女は女性で、前からボクの事が好きなのは気づいてました。
最近はより露骨な態度を示してきています。
ボクも男なんで、そりゃ女の人が好意を示してくれるのは嬉しいんですが……。
残念ながら戦士なんで、筋肉モリモリのマッチョウーマンなんですよね。ちょっと巨人族の血が入っているからか身長も250cm? いやそれ以上あるのかな。
しかも下手な男の戦士よりもはるかに鍛え上げられた体です。
戦士としては非常に頼りになるんですけど、僕マッチョ属性ないんですよね。
センサーの範囲外です。ピコーンと来ません。
まあ別にそれはいいんですが、旅の最中ことあるごとに筋肉ダルマにすり寄られるのはウザイ事この上ないんですよ。暑苦しい。
戦ってるわけでもないのにHP/MPが削られていきます。
見た目は屈強そのものでも、性格もその通りと限らないのがまた辛い所です。
ちょっとでも雑に扱うとすぐにスネたり、戦闘に参加しなかったりどこかに消えたりと面倒で仕方ないです。パーティの盾として戦士にはいてもらわないと困るので、必死にボクが機嫌を取る羽目になります。自分の気持ちの整理くらい自分でやってほしい。
――僕は魔王なんで、性別を超越してるのでそこら辺よくわからないですがご機嫌取りのしんどさもよくわかる。わかり手になれそう。
そしてついこないだ、イリーナに襲われかけました。
危うく貞操の危機だったのですが、なんとかしのぐ事が出来ましたよ……。
あんな大きな女に襲われたら力では勝てないので、窓から逃げました。逆に体格があり過ぎるのも考え物ですね。ボクの体ならすんなり窓から出れても、彼女はデカすぎて逆に引っかかるんです。しょっちゅうドアの上とかにも頭ぶつけてますしね。
――あー、体格差ね。うちらなんか、種族の差が広すぎるから基本大きな種族に合わせて建物とか造ってるから、どうしても建物自体が大きくなるんだよね。にしても助かってホントに良かったねぇ。
この先冒険を続けられるのか、不安で胸が一杯です。
次はヴァルディア王国を抜けてドニ=アーデン連合国の試練の洞窟に向かう予定です。色々と感情が溜まったら、またこちらに投稿させていただきます。
ありがとうございました。
* * * * *
えー、何といえばいいのかわかんないけど、苦労してんねえ。
まず異世界からこっちに転移してきたってのにビックリしたけど。
僕も世界を統べる大魔王としての責務が両肩にずっしりかかってるけど、勇者として、大魔王を倒し世界を平和にするという責務も、負けないくらい重いものなんだろうね。
「本当に責任感じてますか?」
本当本当。もう肩がゴリゴリに凝っちゃうくらい。
「マオウ様。嘘をつくのはおやめください」
うん、嘘。本当は自由を愛し、自由に愛される魔王だからね。仕方ないね。
「ぶちころがしますよ」
そんなに怒ると将来小じわ増えますよってあいた!!
スネを蹴るのはやめて! 骨が折れる!
にしても、異世界から勇者として召喚される……ね。
大丈夫なんかね。
「さあ? 私達は異世界から誰かを召喚したことないですからね」
過去にも勇者が別の世界からやってきた、って事はありますけども、事例が少なすぎてそこらへんよくわからないんだよね。
資料を漁ってみても元々別世界でも勇者やそれに準ずることやってる人材が来てるケースばっかりで。でも今回お手紙送ってくれた勇者は、勇者になる前にも紆余曲折あったっていうから多分戦いとは無縁の生活を送ってたと思うんだ。
ただ、別世界からやってきた人々は一説にはこの世界とは違う霊力だとか、精神力だとかを持ってるらしい。それで、この世界の人々よりもはるかに成長が速いとかそんな話を聞いたことはある。
しかし可哀想だね。元の世界での生活もあっただろうに、問答無用で呼ばれて戦いに身を投じなければならない。
選択の余地がない状況。想像するに辛い、つらみが僕を襲います。
「どうもこの別世界から勇者を呼び込むという手法、今は更に流行しているとの情報を掴みました。いや、もはや一大ジャンルにまで成長しているらしいです」
ユミルさんメタ的発言は控えて。
「マオウ様がラジオDJやる事自体がそれを言ったらメタだと思いますが」
まあそれは良いでしょう。
それにしても、これだけの真に迫るエピソードの数々、作り話とはちょっと思えないですね。魔物の誰かのいたずらとは考えにくい。
「私はまだ疑ってますが、ここまで面白い話を投稿できる人は中々居ません。どちらにしても常連になってくれると嬉しいです」
はい。そういう訳なので勇者ハッシーさん! 今後の投稿もお待ちしております!
ふつおたのコーナーですが宛先は、
{混沌の裏世界・大魔王の城地下666階、DJマオウのデッドオブナイトラジオ・ふつおたの係}
までよろしくお願いします!
ハガキ、お手紙、FAXあるいは直接の音声によるメッセージをお待ちしております!!
「ブースに山になるくらいのお便りお待ちしております」
以上! ふつおたのコーナーでした!
では曲紹介に参りましょう。
アーティストはダークナイト、曲は「アイアンセイバー」です。
ではよろしくお願いします。
(オーセンティックなメタル曲が流れ始める――)
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