強くなって人類を守るんですか?

イナロ

第1話 自称『神』

 俺の頭の中でサイレンのような音が鳴っている。

 ファーンファーンと言う音ではなく、ツーツーと言う感じの音だな。


 電話の通話後の音に近いか?


 何時からこの音が聞こえていたのだろう?

 今、突然急になった訳じゃない……。


 昨日? 一昨日?


 ……いや、もっと前からだ。

 それこそ数年前から俺の頭の中に聞こえていたはずだ。


 最初は気が付かない程の小さな音だった。


 日常の音にかき消されたから気が付かなっただけなんだ。

 ……違うな。


 俺は自分の異常を気が付かいなように意識していたんだ。

 そうじゃなければ、一日中イヤホンをしていないよな。


 でも、この音は何なのだろう?

 怖い気持ちもあるが、別に日常生活に支障があるレベルじゃない。


 ……耳鼻科に行ったけど異常なしだった。

 これは身体的な異常なのか?


 俺はネットの有名な掲示板で、それらしい情報を見かけた。


 掲示板を立てた人物は『ハナビ』という名前だった。

 その人物も頭の中に音が鳴って夜も怖くて眠れないらしい。


 俺は一日中イヤホンをしてる所為で音があっても眠る事が出来るから睡眠妨害にはならないが、普通はこうなるよな。


 症状は俺と同じように頭の中に音が鳴っていて病院に行っても異常はない。との事だ。

 その書き込みを見た人たちの反応は冷たかった。


 そもそも、あの掲示板に書き込みをしてる人にまともな人はいるのだろうか?


 それは良いとして、ストレスや自演などを疑われていた。

 ヒドイ書き込みは薬中なのでは?


 と言うモノで、これには俺も少しハラが立った。


 俺も書き込みをしたいと思ったが、『ハナビ』さんの対応が大人だった為に俺が書き込む事は無かった。


 そして、頭の音を俺が自覚し、ネットの書き込みを見る毎日が数か月過ぎた。


 頭の音は少しだけ大きくなったような気がする。

 音に気を散らされ、物事に集中する事は少々難しくなり始めていた。


 頭痛ではないから痛みはない。

 気が散るんだ。


 正直に言うと、イライラする。

 俺の温厚な性格に棘が生え始めている。


 頭の音以外に掲示板にも変化があった。

 それは頭の中に音が鳴ると言う者が数十人以上いた。

 俺のように書き込みをせずに、見るだけの人もいると思うから実際はもっといると思う。


 その者たちの共通の点は頭に音が鳴る、身体には異常が見られない。


 やはり、俺と一緒だ。


 掲示板ではみんなが不満を書き込んでいた。

 主に、睡眠不足や音の所為で集中力が散漫になる事、イライラして周りに八つ当たりしてしまった、等々だ。


 俺は睡眠は問題ないが、頭の音がウザいとは思う。


 うんうん。

 と、みんなと気持ちを共有していたら新たな書き込みが書き込まれた。


 名前は『神』。

 別にこういった名前で書き込むヤツはいるから、基本無視だが今回は無視できなかった。

 何故なら書き込みが異常だからだ。


『.;@[[[:::[@/.:p[[-^l],/@^50404^5\^l:]l;[o]:],:\,.\\[;[^5-0-4056320-65-p^l.\.[;n;:,@;@;@p@:];[.[@[:]@]@[];/[]l\.@.[]/\23^-450968769504-3,.:@[@:/:;:;@:[@,[[』


 文字化けしていた。


 だが、俺には目に見えないフィルターを通してみるように違う文字が見えていた。

 いや、読めていた。


『皆さん、初めまして。神です。このスレを見ている人の多くはこの文章がちゃんとした文字に見えるはずです。すいませんが、ここでは多くは語れません。なので日を改めて指定し、皆を招集したいと思います。日時は一週間後のこの時間に伝えます。なるべく多くの人を招集したいので、読めない方の文字を拡散して下さい。よろしくお願いします』


 ゾクリと背筋に感じる。


 だが、何もできない。


 掲示板では今日はもう寝ると書き込みをして去る人が大半だった。


 俺はこの時、狂ってたんだと思う。

 頭の音が大きくなってイライラしていたのかもしれない。


 自称『神』は読めない文字を拡散するように指定して来た。


 ふざけんな!!


 俺が!

 俺達が!!


 どんな思いで過ごしていると思ってんだ!!


 病院に行っても異常は見られない、常に頭の中に音が鳴ってる状態がどれだけの恐怖なのか分かるのか!!


 自殺したい、と言うヤツもいたんだぞ!?


 日常生活で支障が出て仕事をクビになった人もいた!

 睡眠不足があり、事故に遭いそうになった人もいる!


 誰がお前の言う事を聞くと思ってんだ!!


 俺は自分が持てる限りのツールを使って文章を拡散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る