第69話

「だから言いましたのに……セイジ様には、からめ手よりストレートに表現をぶつけたほうがいいと」

「うっ、わ、わたくしだって頑張りましたのよ。ベットに押し倒したり……」


 姫様の侍女の方が頭を抑えてため息をつく。そうりゃあ逆効果だろ、とか呟きながら。


「それでセイジは今どこに?」


 シュマお嬢様が姫様に問う。


「……デートに行きました」

「なぜ、お止めにならなかったので?」


 侍女が呆れたように言う。止めろよお前、とかこそっと呟いている。


「き、昨日は少々、興奮して夜更かししてしまいまして……」


 昨日の今日で突然早朝から押しかけてくるだなんて、ほら、思わないでしょ? と言っている。

 侍女は呆れたような目でそんな姫様を見ている。

 どうやらこの姫様、政治的手腕はともかく、こと恋愛面では少々奥手のご様子。


「セイジ様には自分が居るぐらいは言えなかったので?」

「バカ言いなさい、相手は大国の大貴族ですよ。その領地はわたくしの国を凌ぐほど。そんなのに嘘をついてる事がバレたらどうなることか」


 自分とシュマには婚約者が居る設定になっている。しかも相手は身分が上の王侯貴族。これが偽装だとバレると少々問題となるということらしい。


「ですからフォルテ、あなただけが頼りですよ」

「えっ、また俺? もうカンベンしてくれよぉ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「うぉっ……何、ソレ?」

「あんちゃ~ん……」


 今日は朝からレミカ様が訪ねれ来られた。どうやら街を案内してくれるそうな。

 昨日あんな事があったので期待して付いて行きましたとも。

 もしかしてオレもついに、恋人とデート、なんてことに!?


 と、思ってたら遠くからえらい派手なかっこの人物が。

 よくよく見てみるとフォルテではありませんか。

 どこのお姫様だよ? みたいなフリフリのドレスに、天を突くほどの鳥の尾の冠。

 背中には羽まで装備しているでござる。

 これからコスプレ会場にでも行くのか?


「レミカ様、彼の物がセイジの婚約者であるフォルテでございます」

「ん、あ~、なんというか、凄いな?」


 レミカ様もそんなフォルテを呆れて見ている。


「どうですかこの溺愛ぶり、これらはすべてセイジが贈られた物ですよ」


 ま~た口からでまかせを。

 頼みますから、せっかくのいい雰囲気を壊さないでください。

 と、シュマお嬢様がオレとレミカ様の間にむりやり体を押し込んでくる。

 そしてレミカ様に向かってフシャーッと威嚇されてござる。


「ふっ、アハハハ。セイジ様は随分みなに愛されていますね。ああ、昨日言った件はまあ、私も少々ダンジョン攻略で興奮しすぎていたとこもありますし」


 それを聞いてホッとした顔を見せる姫様。


「とはいえ、セイジ様を狙っているのは本当ですけどね」

「あっ!」


 そう言ってシュマお嬢様のブロックをかいくぐりオレを背中から抱きしめてくるレミカ様。

 うぉう、背中にマシュマロが当たってますやん。ここは天国カ~。デヘデヘ。


「あだ、あだだだ」


 そんなニヤついたオレの顔をシュマお嬢様がつねってくる。

 うぉっ、いつの間にか姫様まで隣に。


「レミカ様、婚約者がいる殿方に対して行う行動ではありませんわね」

「おっとそうでしたね。フフフ」


 つっと体を離しながら微笑む。どうやら全部ばれてるご様子ですがね?

 もう止めましょうや姫様。


「ほらフォルテ、あなたからも何か言いなさい」

「兄ちゃん」


 フォルテがオレの正面に走り寄る。


「バナナくれ」


 うん、フォルテはどこまで行ってもフォルテだな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あそこでバナナくれはないでしょう!?」

「いやだって、久しぶりに兄ちゃんの顔見たら、さ」

「なんでセイジの顔見たらバナナなのよ?」


 バナナは栄養満点なんだぜってフォルテは言ってるが、栄養満点がどうセイジと結びつくのか。

 その栄養満点のセイジは現在、カリュリーンさんが来て王子が話があるとかで王宮に戻っている。


「ねえ、あなたはセイジのいったいどこが気に入ったの?」


 シュマがレミカにそう問いかけている。


「あえて言うなら……見た目? ですか」


 なんでも自分は子供大好きなんだと。性的な意味でも。

 そこへ現れたドストライクな見た目、しかもこれ以上成長しないときた。

 これはもう逃すべきではないと。


「……あなたの性癖はともかく、セイジは私のものなのです! 手を出さないでください!」

「あなたには王太子がいらっしゃるのでは」

「あんなのはどうでもいい! 私はセイジさえ居ればそれでいいですのっ!」


 ちょっ、ちょっとシュマ、人の兄を掴まえて、あんなのはないんじゃないと姫様が抗議の声を上げる。

 しかし、シュマはそんな抗議はなんのそのって顔をしている。


「そんなことを言ってもよろしいので? 仮にも婚約者でしょう」

「婚約者と好きな人が同じであるとは限りませんっ! むしろ、そうでない方が多いのではありませんか」


 よく言ったシュマお嬢様、ほら、姫様もあれくらい言えるようにならないと。と侍女の方が姫様に耳打ちしている。

 その姫様は、あの子は意外と強敵かもしれませんわねと呟いている。


「そんなに幼い見た目がよければもっと小さくで可愛い子がいますわよ」

「それは真ですか!?」


 ただし性別は……と聞こえないような小さな声で呟くシュマであった。

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