第40話 召喚魔法
フォルテがバナナ、バナナ言うのでいっぱい食わせてやった。
で、フォルテの奴、行儀が悪いもので、食ったあとの皮を地面に捨てていってた。
なので、オレ達の背後にはバナナの皮がいっぱい。ああ、バナナの皮ってやっぱり滑るんだなあ……
「「「………………」」」
オレ達と姫様の間にひたすら気まずい沈黙が流れる。
どうリアクションしたものか……とりあえず爆笑しとくか? いや、殺されそうだな。
「さ……」
さ?
「さすがは腐っても英雄ね、そんなトラップを仕掛けるなんて」
どうやら、そういう事にしたいらしい。
ギリギリと歯を軋らせながらそう言ってくる。
「フォルテ、お手柄」
「えっ、俺? えっ、なんかあの人、すげぇ睨んできてるんだけど!?」
オレはとっさにフォルテに罪をなすりつけてしまった。
大丈夫、どのみちオレ達は一蓮托生だし?
だがしかし、バナナ役に立ったじゃないか! ほら、アサシンさんを撃退! うむ、オレの選択肢に間違いはなかった!
……姫様の怒りゲージはマックスになったようですがね。
「良かったですわ、あなた達がみな家族思いの方ばかりで。ね、ハルシアさん」
ギリッと歯を食いしばるハルシアお嬢様。
姫様はゆっくりと立ち上がったかと思うと、おもむろに呪文を唱え始める。
すると、部屋の中心に魔方陣が浮かび上がってきた。
そんな悠長に魔法なんて使わすかよ!
オレが魔方陣に向けて銃をぶっぱなそうとしたところをハルシアお嬢様に止められる。
「姫様に武器を向けてはなりません。反逆罪で家族もろとも晒し首となります」
えっ、……それでさっき、あんなことを。
つ~か、それだと魔法が完成するのを待つしか出来ないって事かよ?
「私達に出来る事は、姫様が飽きるまでお相手差し上げる事しか……」
理不尽だな~。
「ふふ、案じる事はありませんわ。そこの英雄さんの領地も、ハルシアさんのお家も、私が上手く使って差し上げますから」
だんだん輝きを増していく魔方陣。
姫様は怪しげな微笑を湛えてオレ達を見回す。
「逃げるなら逃げてもよろしくてよ。これから逃げれるのでしたらね」
「悪魔召喚の魔法か……あいつらに距離は関係ない、どこに居ても所詮は同じだ」
「ならば、この広い場所が迎え撃つに最適かしらね」
オレは、いやがらせで魔法陣にバナナを幾つも放り込む。
出て来た瞬間に滑って自爆してくれないかなあ……
まず手が出て来た、その手は天井を突き破り上の階層まで貫く。
次に顔が出て来た、その顔は魔方陣いっぱいで出るのが窮屈そうだ。
次に目からビームを撃ってきた。そのビームは天井を消滅させ、さらに周りの壁をも、ことごとく壊していく。
最後に上半身が出て来た、すでに魔方陣以上の幅になっているようで、それ以上出られない模様。
姫様、とんでもないもの呼び出したな~。見上げる首がつらいッス。ああ、これはもう、どうしようもないような気がする。
ん、ところでその姫様、なんか腰抜かしていないッスか?
「ふうむ、女神の雫を出汁に我を召喚するなど、どれほどの者だと思えば、只の小娘ではないか?」
その巨人が野太い声で姫様に話しかける。
姫様はしりもちをついて、顔をブンブンと左右に振っている。
どうやら間違って別のお方を召喚した模様。
つ~か今、女神のなんたらとか言ってなかったか? もしかしてあのバナナ……
オレじゃない! オレはなにも悪くない! し~らねっと……
「ほれ、我と契約するのだろう。いいぞ、契約してやろう、お前の魔力が、この魔界の王たる我を内包出来るのであればな」
そう言って嗤う巨人。
内包出来ないとどうなるのでしょうか?
「そ、そこの英雄達! 私を助けなさい! こんなのと契約なんて、体が弾け飛びますわ!」
なるほど、そうなると。
「ハルシア様、アレ、放置、どうなる?」
「そうねえ、私達は何もしていないしねぇ。自爆なら罪はありませんよね」
なるほどなるほど。このままほっとけば、オレは明日から枕を高くして寝られるという事ですね。
「これは僕達にはどうする事も出来ない……契約が失敗すれば……召喚されたものは戻っていく……」
若旦那が苦渋の表情で呟く。
「な、なにを言うの! こいつは悪魔よ! 私がやられればあなた達だって!」
「別に態々、子虫ごときに構う事はないわ」
「ひぅ……」
絶望的な表情をするお姫様。
オレはゆっくりと、そのお姫様に向かって歩き出す。
「姫様、後悔しているか? もう、襲わない、約束」
コクコクと頷く。
「セイジ!」
オレは銃口を巨人に向ける。
巨人はそんなオレを興味深そうに見つめている。
『装填・劣化ウラン弾!』
銃口から飛び出した弾丸が巨人を貫く……こともなくポトリと落ちた。
うん、これは無理。
「姫様、グッドラック!」
オレは親指を立てて姫様を励ます。そして若旦那の方へ戻っていく。
あっけにとられた顔を向けてくる姫様。
「いったい何しに行ったんだいセイジ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます