第34話
「それではシュマ嬢、首を長くしてお待ちしてます」
「待ってなくていいですのに」
ようやく若旦那の結婚式が終わり、王太子閣下が王都に帰ることとなった。
「お兄様、あまり本気になられるのは……」
「何を言うか! 私はすでに本気だぞ!」
「はぁ……ほんと死ねばいいのに」
お姫様がまたもや物騒なことを呟かれる。
本当にシュマお嬢様は王太子様に好かれてますなあ。
あれかな、今までの女性はみな、ちやほやしてくる人ばかりで、お嬢様の様なツン成分がなかったのかもしれない。
そんな新鮮なお嬢様をお気に召したと、そういうことかもしれない。
「しかし、はずれの固有神器というのもあるものですね」
お姫差がオレに向かってそう言ってくる。
ほんと、この世界の人達は銃の価値を分かってござらん。
またもや大木に向かってお試ししたのを、
「つかえね~」
の一言ですませやがった。その瞬間、ポーション水も化粧水も渡さんと決意した。
「いいのよ、セイジの凄さは私がちゃんと分かっていますから」
お嬢様! オレ頑張って、今後もお嬢様の美貌を磨いていきます!
「シュマ、王都に来たときは必ず、そのお肌の秘密を話してくださいね」
「あ~、はい」
なんでもお兄様がシュマお嬢様に実家に来て欲しいと強請ってきたようだ。
来ると約束するまで帰らない等と言うので、仕方なくこちらから出向く事になったみたいだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ううむ、有意義な日々であったな」
「なにが有意義ですか……さんざん遊びほうけて」
「だから有意義であったのだろう」
ハァ、とため息をつく妹君。
「そんなことよりも本気ですか? シュマ嬢を嫁に迎えたいなど」
「うむ、なかなかあのような娘はおらん」
呆れたような目を兄に向ける。
「彼女はあの使用人に夢中のようですがね」
「所詮は使用人であろう、さすがに身分が違いすぎる。兄のように英雄にでもならぬかぎり無理な話だ」
「さすがに兄妹で同時に英雄など過去に類をみませんしね……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あんちゃーーんっ!」
「ごふっ!」
王太子達が帰った後、若旦那が話があるというので部屋に向かうと、孤児の1人が飛び掛ってきた。
「兄ちゃん俺、今日からここで働ける事になったんだ」
そう言って一枚の札を見せてくる。
「あと、冒険者にもなったんだぜ」
この子は確か、身分証がなくてオレが身代わりになった子か。
確か名前はフォルテとかいってたか。
「えらい、頑張った」
オレはその子の頭を撫でてやる。
フォルテはオレにギュッとしがみ付いてくる。
「なんでも身分証が出来たからセイジを返してくれって言ってきてね。とはいえ今更セイジを返す訳にもいかない」
なので、それならばここで一緒に働かないかと持ちかけたらしい。
「セイジもほら、あれだろ。恋人と一緒の方がいいじゃないか?」
誰が恋人なんだよ?
フォルテは両手で自分の顔を挟んでフルフルと照れている。
お前もちゃんと誤解といとけよ。
「えっ、恋人じゃない? またまたぁ、恋人じゃないのに身代わりなんて……いやまてよ、セイジは底抜けのお人よし……もしかして僕は、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか」
オレが恋人じゃないと伝えると、若旦那が真っ青な顔をして考えこむ。
「いや大丈夫、大丈夫だ。なにせセイジはハーレム派。うむ、問題ない、そう何も問題ないんだ……しばらくシュマには近寄らないようにしよう」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえ、セイジ。お兄様を見ませんでした?」
なんだろう、今日のお嬢さまはやけに迫力満点だ。
まるで背中に炎を背負っているように見える。
オレはそっと若旦那が隠れている花壇を指さす。
「セイジっ! この裏切りもの~!」
なにか知りませんが、兄妹喧嘩にオレを巻き込まないで下さい。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっ、それじゃあお嬢様は英雄を目指しているので?」
「そうよ、私もお兄様と同じで英雄になって……そして、その、ごにょごにょ……」
フォルテはハハーンと思い当たる。きっとこのお嬢様もセイジ兄ちゃんにやられた口だなと。
「うすっ、俺も応援するッス」
フォルテは思わずセイジの口ぶりを真似して伝える。
「え~と、その……いいの?」
「いや~、今や兄ちゃんは英雄だろ? 俺なんかがどうこうできないさ」
「ありがとう!」
お嬢様に抱きしめられたフォルテは、ああ、いい匂いだな~って顔が上気していくのであった。
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