第21話

「そろそろ本格的にダンジョン攻略を進めようと思います」


 そんなある日、アイラ姉さんが全員を集めてそう言ってくる。


「えっ、今のままじゃ駄目なのかい?」


 若旦那……あんた何しにダンジョン来たのよ?


「あっ、そうだったね。いやなんかもう、こんだけ人に喜ばれてたらこれもいいかなって」


 良くないでしょ?

 アルーシャさんとはどうすんのよ。


「ふと想像してみたんだ。ここで焼鳥屋でも開いて、アルーシャと共に暮らしていくのを……」


 だから駆け落ちは禁止ですって。


「ぼっちゃん、覚悟がありすぎるってのも問題だが、覚悟が足りないってのはそもそも問題外じゃぞ」


 ヒュッケルさんが呆れたように言う。

 それを聞いて若旦那は両手で頬を叩く。


「うん! そうだな! すまなかった!」


 いい顔しているじゃないですか。

 なんかこのダンジョンに来て一皮も二皮も剥けた感じ。

 あれだけ険悪だった冒険者さん達とのわだかまりが解消して、相手の事を思って行動すれば、相手も自分の事を思って行動してくれる。そう気づいたようだ。もちろん例外はあるが。

 色々といい人生経験になったみたいだな。


「このダンジョンが未攻略なのはラスボスの強さ、これに尽きる」


 アイラ姉さんが話を戻してくる。

 これまで何度か最深部に辿り着いた冒険者はいたらしい。

 しかしながら、ラスボスには手も足も出ず、皆逃げ帰るしかなかったと。


「かといって道中もバカにならないじゃろ」


 ヒュッケルさんがそう言ってくる。

 その上、下に行けば行くほど敵が強力になり、ラスボスに辿り着けるパーティが出るのも数年に一度とか。


「今の私達に道中の敵は、敵じゃぁない」


 アイラ姉さんはオレを見ながらそう言ってくる。

 ここの強力な敵の大半は装甲が硬い、一発の攻撃力が高い、などというリザードマンやゴーレムなどが大半だ。

 しかしながらオレの劣化ウラン弾なら、その装甲を貫通出来る。開いた穴にホローポイントでも撃ち込みゃ大抵ノックアウトだ。

 ゴーレムなんてコアに当てれさえしたら終わりだし、最も楽な敵かもしれない。


 しかもだ、遠距離からの攻撃なので一発を貰う事もない。


 銃が利かないスライムやゴースト系は、アイラ姉さんやヒュッケルさんで十分だ。若旦那の魔法もあるしな。

 バルドック兄貴が最近、やることねえやって呟いていた。


「水の確保についても、セイジがいれば問題はないだろう」


 ダンジョンの探索で最も重要なのが水と火だ。

 ダンジョン内では水の確保は非常に困難。湧き水があったとしても、飲めるかどうか怪しいものだ。

 しかしながらオレ達にはミズデッポウがある。水で困る事はまずない。


 また、ポーションなどの回復アイテムも尽きれば終わりだが、オレは威力は薄くてもポーションが出せる。

 若旦那も多少なら回復魔法が使えるとの事。


 次に火だ、松明が消えれば真っ暗闇。うちには若旦那の魔法があるので問題はないが、魔法使いのいないパーティならそれが消えれば死活問題。

 火打石で火をおこし、燃えやすいものに火をつけてって、その間に襲われればイチコロである。


 食料については倒したモンスターを炙ればなんとかなるのだが。


「ボス戦から逃げ帰ってきた奴の話では、ラスボスは2体のゴーレムと1体の……ドラゴンだ」


 出たなファンタジーボスの定番、ドラゴン。

 見た目はただのでかいトカゲらしい。翼もなく、空を飛ぶ訳ではないが、とにかくでかい。少々ばっさりいってもダメージになりゃしない。

 それとゴーレムとの同時戦闘か? そりゃ普通の人なら厳しいだろ。


「若旦那とセイジの魔法が戦闘の肝となるだろうが、気になるのは、最下層に辿り着けるほどの猛者が敗走しているということだ」


 姉さんの話では、オレや若旦那クラスの攻撃が可能な者はそこそこいるとのこと。中にはもちろんそれ以上の人もいただろう。

 なのに、そのラスボスを倒すことができていない。

 これは何かあるだろうと。


「行ってみないと分からない。ということか」

「一度で倒せる、とは思わないほうがいい。最初は様子見ぐらいで挑戦したほうがいいな」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「若旦那、行くのか?」

「ああ」


 いざダンジョン攻略に向かおうとした時、ダンジョンの入り口で複数の冒険者が道を塞いでいた。

 中にはオレ達がここに着いたとき散々嘲笑ってた人もいる。

 あれ? とうせんぼされてるの?


「ちっ、あ~あ~、これで初攻略も夢も泡カー」

「何、言ってんだが、お前ここ最近、近場で魔石稼ぎしかしてなかっただろが」

「ちげえねえ」


 ん、でも皆、険悪な態度じゃなく、笑顔で俺達に話しかけてくる。


「俺達にも一枚かまさせてくれ、道中護衛してやるよ」

「えっ……」

「まあ、俺達の実力じゃ中級層までぐらいだがな、がっはっは!」


 この人達、オレ達を手伝ってくれるのか?

 あっ、若旦那の目から水が。


「期待してるぜ! 俺達の領土にも英雄が現れるのを!」

「英雄となった日にゃ、俺達も少しは思い出してくれや」


 若旦那が冒険者達に囲まれている。

 ここに辿り着いた日には思いもよらなかった光景だ。


「ありがとう! 必ず! 必ずだ! 僕はこのダンジョンを、攻略してみせる!」


 ちょっと若旦那、最初は様子見ですよ? ちゃんと分かっていますか?

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