第6話 対グリーズリー戦

 などと、余裕をこいていたのも熊と出会うまでであった。


『装填・ホローポイント!』


 って、かっこよく叫びながら熊に連射した訳だが、


 ―――ポトッ、ポトッ、・・


 って、当たった端から地面に落ちる。

 どうやら熊さんの皮膚を貫通できてない模様。

 つかえねーーーじゃん!


 あの熊、つらの皮厚すぎだろぉおお!


 隣の姉さんが、それみたことかって目で見てくるッス。

 とはいえ、姉さんの弓も刺さってない訳ですが。


「あんの行商人、良く見とけよぉお! これは熊は熊でも、グリズリーっていう魔物だ!」


 どうやら普通の熊でなかった模様。

 斧とか剣とか弾いてるッス。

 あれ、どうやって倒すんスか?


「これは俺たちの手に負えねえなあ」

「逃げますわよ!」


 だがしかし、回り込まれてしまった。大きな図体の割りに意外とすばしっこいですね。


『装填・通常弾!』


 オレは通常弾に戻して熊にハンドガンを連射する。

 確かホローポイントは貫通力が低いって聞いたことがある。


「おっ、なんか効いてるみたいだぞ」


 熊のやわらかいとこに何発が入ったようで、怯んで防御の体勢をとっている。


「目を狙うのよ!」


 無茶いうなや。

 そんな器用な事できたら最初からやっとるわ。

 目なんか狙ったら頭にすらあたりゃしねーよ。


「このまま後退するぞ!」


 オレはひたすら、ハンドガンで牽制しながら熊から距離をとる。

 しかしながら所詮ハンドガン、距離が開けば開くほど威力が弱くなる。

 熊は、貫通しないほどの距離を保ってオレ達を追いかけてくる。


「どこまでついてくんだあんにゃろう」

「まずい、銃、いや、魔力、尽きる」


 だんだん意識が遠くなってくる。

 これはまずい、精神力? らしきものが尽きはじめている。


「こうなりゃいちかばちか……セイジ、オレとヒュッケルで奴の足を止める。アイラ、お前は走って街へ応援を呼んできてくれ」

「くっ……分かりましたわ。……死なないでよね」

「分かっておるわ!」


 そう言いながらも、なかなか姉さんもその場から動かない。


「セイジ、もしダメだと思ったらお前も逃げろ。オレとヒュッケルがいりゃあ、あいつも満腹になるだろ」

「ハハハ、ちげえねえ!」


 そう言って笑いあう二人はとても逞しく思えた。

 バルドック兄貴、残念だがオレは、あんたを置いて逃げるつもりはねえぜ!

 なんたってオレは勇者? らしいんだぜ。勇者が恩人を犠牲にして逃げる訳にはいかねえ。


「アイラ、セイジを連れて行け」


 オレのその目を見て、何を思ったかバルドックさんがそう言ってくる。

 えっ、何言ってるんですか!?


「死を覚悟した奴は戦場にはいらねえ」


 えっ、それはあんた達も同じじゃないッスか!


「いくぞっ!」

「うぉおおおお!」


 二人が熊に突っ込んでいく。

 待って、待ってよ! アイラ姉さん! 離してよ!

 オレの目の前でバルドック兄貴が宙に浮く。

 オレの目の前でヒュッケルさんが地面を転がっていく。

 くそっ、何か! 何かないのか!


 それはそのとき訪れた。そう、オレの持つ銃が光り始めたのだった!


 レベルアップか! 何だ! 何が増えた!?

 オレは急いでレベルアップの内容を確かめる。

 これはっ! よしっ!


 隣の姉さんは、急にファンファーレが鳴り響いたのに驚いて硬直している。

 そして握力が、ふと弱くなっていた。

 オレはその隙に姉さんを振りほどく。


 いくぜっ!


『装填・劣化ウラン弾!』


◇◆◇◆◇◆◇◆


 劣化ウラン弾、それは比重が重く硬い、戦車の装甲などを貫通させる為に用いられたと聞く。

 ならばあの熊はどうだ、戦車ほど分厚い装甲ではあるまい。

 そして追加能力、今回の内容はこうだ!


 能力値上昇:威力・回転数アップ


 弾選択:劣化ウラン弾


 しかも劣化ウラン弾には焼夷効果までつく筈だ。

 大きく腕を振り上げて、今にもバルドック兄貴を切り裂こうとしている熊の正面に立つ。

 その瞬間、熊は素早く後ろに下がり防御の体勢をとる。


 オレは、その熊に向かってハンドガンを突きつける。


 試させてもらうぜ! あんたの装甲で!

 引き金を引いた瞬間、ボンッという、いい音と共に熊の背後から血しぶきが噴出する。

 どうやら、その防御を貫き、軽々と背後まで貫通したようだ。


 熊野郎が大きな咆哮を上げる。

 オレは構わず、どんどんハンドガンを撃ちまわる。

 その度に熊野郎の体に穴が空いてく。


 防御が意味ないと知った熊野郎は、大きく口を開け咆哮を上げながら迫ってくる。

 そのときを待っていたぜ!


『装填・ホローポイント!』


 そしてオレは、その大きく開いた口に向かってホローポイント弾をぶち込んでやった。

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