第4話

 ――チョロチョロチョロ・・


 うん、水鉄砲だな。

 しかもモロおもちゃの。


 どないっせーちゅーんねん!


 思わず水鉄砲を地面に叩きつける。ハアハァ……ハァァアアア。


 どうしよう……


 オレはマシンガンを選択しようとして腕を上げたところ、どうやらそのパネルに触れてしまったらしい。

 で、下側にグレードBの選択肢があったもんだから……

 つ~か、普通にタッチして選択じゃねーのかよ!


 マジどうしよう、水鉄砲であのウサ公やれるかな? まあ、無理か。

 オレは真夜中の宿屋の裏庭で頭を抱えて座り込む。

 なんか喉が渇いたな。この水飲めるか? オレ、これで水屋さんでも始めようかなあ……


 現実逃避をしながら夜空を見上げる。

 ああ、オレの家族達、今頃なにやってるかな~、なんで、こんな事になってんだろうなあ~。

 ああ、なんか目から水が。今日は水の日だな。


 せめて、元のハンドガンに戻らねえかなあ。

 と、水鉄砲が光ったかと思うと、元のハンドガンに戻った。

 おおっ! これ、選択出来るのか!

 今度は水鉄砲になるように念じる。するとまた光ると水鉄砲に。


 おおっ、こりゃええ! ……マシンガンだったらもっと良かったんだが。

 いやまてよ、どこでも水の調達が出来るってのは、かなり便利なのでは?

 現代日本では、そりゃ~、水はあって当然だが、こっちの世界では水はすべて有料だ。

 しかも、だ。濁っていらっしゃる。


 体を洗ったはずなのに、泥のような物がこびり付いている事もざらにある。

 それなのに、この水はとても綺麗で澄んでいる。

 これは……お姉様に喜ばれるのでは? さっき、ポロッと考えた水屋さんって結構いけるのでは?


 さっそくオレは翌朝、宿屋の姉さんに、


「あねさん、お水、買って下さい」


 って言ってみた。


 ん、なんか食堂のみんなが唖然としてこっちを見てるぞ。

 姉さん、なんか真っ赤になってプルプル震えてどうしたんスか? 寒いんスか?

 えっ、その拳なに?


 ―――ゴスッ!


◇◆◇◆◇◆◇◆


 どうやら、お水買って下さいには隠語があったらしく、その意味は……体を買って下さいという、所謂、娼婦の掛け声なんだとか。

 ということはオレは姉さんに、オレの体、買わないか? って言ったことになって……

 そりゃ~、皆も唖然とするわ。しかも朝の食事時に。


「まったく、紛らわしい言い方しやがって……」


 姉さんはブツブツと呟いていらっしゃる。


「オレ、オオカミやっつけた。そしたら、水、出せるようになった」


 姉さんは、おもむろに桶のような物を机に置く。ここに出せってことかな?

 オレはその中に水鉄砲からチョロチョロと水を注いでいく。うん、遅いな。

 ちょっと水商売は無理かもしれない。


 姉さんは水を掬って感嘆の声を上げている。


「飲んでも大丈夫かい?」

「大丈夫」


 姉さんは掬った水を飲み干していく。


「ほう、こりゃいい」


 そう言うと姉さんは裏方へ引っ込んでいく。

 そして暫くして戻って来た姉さんが担いでいた物は……

 えっ、それどうするの? えっ、なに指差しているの? えっ、マジで!?


 人一人、入れそうなほどの大きな水瓶だった。


「ムリムリ絶対無理!」


 逃げ出そうとしたオレの肩をガシッと姉さんが掴む。いや~、相変わらずの握力ッスね。痛いんで離してもらえませんでしょうか?


「どうだい、宿代と食事代を無料にしてやろう」

「ウスッ! オレ、頑張るッス!」


 頑張ってみた……なんとか半日で水瓶はいっぱいになりました。途中2度ほど気絶しましたが。

 オレが気絶したら、姉さん、フンッって蘇らすんだよね。スパルタッス。これ毎日続くんスかね?

 姉さんはいい笑顔で水瓶を覗いている。毎日続きそうだなあ……


 そんな日々が何日か続いたある日、突然、水鉄砲が光り始めた。

 あれ? 今はなんにもモンスター倒していないけど、この水瓶の中に何か入ってたのか?

 覗きこむも何もない。菌とかやっつけていたのだろうか?


 何はともあれ、これレベルアップだよな?

 今度こそ間違わないようにしないとな。

 オレは小声で『レベルアップ』と唱える。


 すると前と同じように半透明なウィンドウが開いた。

 ん、今回は選択肢がないぞ。

 なになに『ミズデッポウがレベルアップいたしました。以下の能力が追加されます』って書かれている。


 能力値上昇:水流アップ


 弾選択:ポーション(効果・極小)


 …………うん、水流アップは嬉しいな。これで水を出している時間が少なくなる。

 だが、弾選択は何だ? なんだよポーションって、えっ、ポーションってたまぁなのぉ?

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