中世界物語 魔界の扉封印の旅

後藤 悠慈

プロローグ

 窓を開け、夜風に当たりながら城下街を見下ろしていた。生まれてから二十年間暮らしたこの街で寝るのも、しばらく出来そうにない。何気なく過ごしてきたけれど、いざ離れるとなると寂しい気持ちでいっぱいになる。武器屋のおじさんに万屋のおばさん、温泉施設の兄妹に娯楽施設の受付の学生たち。子どもの頃から様々な人たちとここで触れ合って育ってきた。だからこの街を守りたい、その一心で騎士になり、王女であり城主であり親友であるカトレアとの何気ない約束も果たした。そして今は、この街だけでなく、この国を守るために、明日には旅に出る。近年、この中世界を騒がしている魔物たちの異常な出現率の原因である魔界の扉を閉めるために。この扉を閉めることが出来れば、この街も魔物の群れに襲われる頻度も下がって、今までのような安定した暮らしをすることが出来るだろう。


 この旅に出るのは私だけではない。騎士養成学校の友人たちや騎士団を引退した知り合いのベテラン二人も一緒についてきてくれる。彼らも自ら部隊に加わると志願したらしく、私が会いに行ったときにはすでに準備は万端で、流石だなと思った。彼らが一緒にいるだけで心強いが、今回の旅は相当厳しい旅になるのは目に見えている。当然、犠牲になる人だって出てくると思う。だから、友人たちがいることは大きなプラスにもなるし、大きなマイナスにもなりえる。旅に出る前にはある程度の覚悟を決めていかなければならない。もしかしたら自分が尽きてしまう可能性だってある。むしろ今回の旅の仲間の中で私が一番弱いから、おそらくこの旅で息絶えるだろう。最低限みんなの役に立って死ぬつもりで行こう。当然、死に急ぐこともしない。状況をしっかりと見て判断しなければ、みんなに迷惑が掛かる。それだけはしたくない。

 魔界の扉を閉めようと動いている国が多数存在しているらしく、すでに動いているところもあるみたいだが、やはり近づくことは容易ではないらしい。近づけば近づくほどに強い個体や群れが多く出現し、足止めを食らうみたい。魔界の扉には意思があるらしく、獣道や山などの悪路から攻めようとしても、それを見越して多く魔物を配置しているという。現に険しい山に陣取っている部隊が苦戦しているらしく、なかなか一筋縄ではいかないらしい。そのような状況なため、様々な国に応援の要請がきた。この国からは私たちが、他の国からも部隊が出ていくことになっている。


 (そろそろ寝よう)


 私は窓を閉めてベッドに寝転んだ。出来れば生きて再びこの国、この街に戻りたい。生きて帰るのだと思いながら、目を閉じる。


 (そういえば、無事に帰ってこられたら話があるってカトレアが言ってたけど、なんだろう?)


 しばらくそのことを考えながら、私は眠りについた。

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