第34話 懺悔
謁見の間を離れ、自室へと戻ってきたセトンヌは腰に下げていた剣を机の上に置き、やや苛立ったようにベッドの縁に腰を掛けた。
「どういう事だ……なぜ急に何もしなくなった?」
イライラした面持ちで、しかしどうする事も出来ないセトンヌの中に苛立ちだけが積もっていく。
そこへコンコンとドアがノックされドアが開いて誰かが室内に入ってくる。苛立った表情のままのセトンヌは、その場に立ち上がって鬼のような形相で振り返った。
「誰だ!」
「……っ!」
突然怒鳴りつけられた事にビクッと体を震わせて身を竦ませた相手を見て、セトンヌはハッとなる。
そこにいたのはマーナリアだった。彼女は声を荒らげて振り返ったセトンヌに心底驚いたような表情を見せ、その場に立ち竦んでしまう。
そんなマーナリアを見て、セトンヌは肩から力が抜けた。
「ご、ごめんなさい……。あなたが帰ってきたと聞いたから……」
僅かに怯えたような声で話すマーナリアに、セトンヌは首を横に振る。
「申し訳ありませんでした……」
「い、いえ。構いません」
そう言いながらセトンヌの前まで歩み寄ってきたマーナリアは、セトンヌを見上げた。
「その様子では、リガルナの討伐は出来なかったようですね?」
「はい。奴の足取りが、今の状態では全く掴むことができません」
セトンヌのその言葉に、マーナリアは心の中でホッとしていた。
まだどこか苛立った様子のセトンヌを見やりながら、マーナリアは極力穏やかに声を掛ける。
「セトンヌ。焦っていては掴める情報も掴めず、見定めなければならない事が見えなくなってしまいます。落ち着いて下さい」
「マーナリア様……」
セトンヌは自分を気遣おうとするマーナリアの腕を掴むと、その体を翻して有無も言わさずベッドの上に押し倒した。
突然の事に驚きの色を隠せないマーナリアは自分の上に覆い被さるセトンヌを見上げた。
「セ、セトンヌ……?」
「あなたは、一体どちらの味方なんですか」
そう言うなり、セトンヌはマーナリアの首筋に唇を落とす。噛み付かれそうな勢いでキスをされ、マーナリアは無意識にも体を強ばらせた。
「ま、待って! セトンヌ!」
しかし、セトンヌはマーナリアの首筋にキスを落とし続け、やがてそれはゆっくりと下降し始める。
唇で首筋をなぞり、鎖骨にかけて何度も口づけされた。その間にも、セトンヌの手はマーナリアの衣服を紐解き、直接胸の膨らみに手を触れてくる。
「んんっ!」
「マリア……」
マーナリアのリガルナ討伐失敗の報告を聞き、安堵の色を見せた事にセトンヌは気付いていた。それが、更に苛立を掻き立ててくる。
いつもならもっと余裕のある抱き方をしていたが、この時ばかりはまるで獣のようだった。
忙しなく動くセトンヌの手の動きに、次第にマーナリアの息も上がっていく。
性急な行為に翻弄されながらも、マーナリアはセトンヌを受入れた。
嘘はつけない。戦場でも先陣きって誰よりも先を読み、相手の先手を取るセトンヌだ。僅かなことでもすぐに察知してしまうのだろう。
乱暴ながらも激しく求められ、まるで浮かされているかのような時間が過ぎた……。
「すみません……マリア」
マーナリアの白く柔らかな肌に額を押し付け、セトンヌは一言詫びの言葉を述べる。
セトンヌに背を向けていたマーナリアはそんな彼を振り返った。そしてその顔を抱き寄せるとそっと目を閉じる。
「いいえ……」
固く目を閉じて、悪いのは自分だと心の中で呟いた。
こうして目の前に愛すべき人がいて、その人の愛する者達を奪った相手を同じように憎むのではなく、ただひたすら気にかけてしまっている自分が悪いのだと。
後悔と罪悪感に胸を痛めていたマーナリアを強く抱きよせ、その唇にキスを落としたセトンヌはベッドから起き上がった。
「セトンヌ……?」
「……そろそろ公務に戻ります」
苛立ちが収まったのだろう。穏やかな声音でそう言ったセトンヌは脱ぎ捨てていた軍服に袖を通していた。
マーナリアはベッドから身を起こし、ベッドサイドで着替えているセトンヌの背に寄りそう。
「マリア……?」
「ごめんなさい。セトンヌ……」
何を言いたいのか大体分かったセトンヌは、マーナリアの額にキスを落とし部屋を後にした。
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