第33話 不穏な動き
「ただいま戻りました」
リガルナ討伐の為、遠征に出掛けていたセトンヌがレグリアナ城に戻ってきた。
謁見の間にいたエレニアは目を細め、朗報を期待いるかのようにセトンヌをじっと見据えている。
「よう戻った。して、リガルナは仕留めたか?」
「いえ。それが、この所何の動きも見せず落ち着きを払っているせいか、手掛かりどころか拠点場所も何も分からない状態が続いており、今だ討伐に至っておりません」
リガルナを仕留めて帰ってくる事を望んでいたエレニアはどこか残念そうに溜息を漏らす。
「そうか。やはりな……。一筋縄ではいかぬか」
エレニアは隣に立っていたグルータスを見上げ、溜息を一つ零す。
「一体奴はどうしたの言うのだろうな? ここ数ヶ月なんの動きも見せないとは……」
「さようでございますね。こうもパッタリと何もしなくなったと言うのは、気味が悪うございます」
たっぷりとした顎鬚を撫で付けながら、訝しい表情を浮かべるグルータスを見てエレニアも怪訝そうに顔を顰める。
「そうであろう? 私もそう思っておった。何か良からぬ事が起きる前触れではないかと、勘ぐってしまうのだ」
「はい。誠に仰る通りで……」
エレニアは大きな溜息を吐くと再び目の前に跪いているセトンヌをみやった。
頭を垂れたまま微動だにしない彼もまた、悔しげなオーラを放っている。
本来であれば、今回の遠征で全てのカタをつけるつもりだった。これまで背負ってきた重荷の全てを解放し、家族の敵を打って無念を晴らせたと言うのに、リガルナの動きが途絶えてしまったが故にその願いは叶わずに終わってしまったのだ。
彼の無念を思いながら、エレニアは目を細めて声をかける。
「セトンヌ。此度はご苦労であったな。しばらくは奴の僅かな情報や対策の為体制を整えるが良い。またいつ奴が動き出すとも分からぬ」
「はい。エレニア様の仰せの通りに……」
セトンヌは今一度深く頭を垂れると、颯爽と身を翻してその場から立ち去って行った。
エレニアはそんなセトンヌの背を見送り、そして再びグルータスを見上げる。
「そう言えばグルータス。東の大陸であったと言う暴動はどうなっておる?」
「は。レドリスでの暴動でございますね。あれにはサルダンを向かわせましたが……」
その名を聞いたエレニアの眉がピクリと動く。
「ほう。サルダンか。遠征に出すには打ってつけな者を派遣したな」
サルダン・ボッシュメント。この国の一兵士でありながら王家や国に対する忠誠心がまるでなく、ただ自分の感情のままやりたい放題やると言う、レグリアナ軍切っての問題児であり、セトンヌだけではなくグルータスにとっても頭の痛い人物だった。
何かしらの理由をつけてどこかへ追いやろうと常々考えていたのは、エレニアだけでなくグルータスも同じだった。
「はい。ただ、遠征に向かわせたのは良いのですが、何せあらゆる暴挙を繰り返す問題児ですし、返って暴動が大きくなりはしないかと……」
「その為の見張り役を何名か供につけたのであろう? あまり滅多な事を仕出かすようであれば捨て置けば良い」
厄介払いが出来たのならそれでいいと言わんばかりに涼しげな表情で答えるエレニアに、グルータスもまた深く頷き返す。
「はい。そのように供の者には申し付けてあります」
「なら良い。どのような結果を持ち帰るか……それとも……。まぁ、楽しみに待っていようではないか」
エレニアはくっくっと不敵に笑みを零していた。
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