第2話
世界の果ては日本のどこかにあり、そこに世界の端がある。日本を旅していて、ふと訪れた町が世界の果てであることもありえる話だ。
世界の果てには、弱弱しい人たちが集まっている。みんなで死を待っている。
ぼくは世界の果てを目指して旅に出た。
電車に乗って旅に出た。
日本の駅は数多くあるけれど、名駅珍駅数多くあるけれど、その中でも最も奇妙な駅は「世界の果て」だ。駅の路線図を見ていると、「世界の果て」と書かれた駅があるのが見つかる。毎年、何人かがこの駅を訪れる。駅名に「世界の果て」と書いてある。
ぼくは「世界の果て」を目指して、旅に出る。
「あなた、世界の果てを目指しているんですか」
乗り合わせた浮浪者が聞いてくる。この浮浪者は世界の果ての存在を知っている。ならば、ただものではないだろう。その叡智でもって、世界の果てへと転がり降る人類の姿を思い描いているはずだ。世界の果ては最後の駅。
「そうです」
ぼくは素直に肯定した。この浮浪者にとっては、世界の果てはどんな存在なのだろうか。ぼくにとっては、ぼくより弱い生き物がいる安息の地でしかないけど。
ぼくは願わくば、ぼくより弱い生き物だけがいる安息の地で残りの人生をすごしたい。だから、世界の果てに向かうのだ。
「怖くないですか? そこで世界が終わっているんですよ」
と浮浪者はいう。なんだ。この浮浪者は、世界の果てを恐れていたのか。世界の果てを忌み嫌い、そこから逃避し、逃げ出そうとしていたのか。それはそうだ。世界の果てには、希望も未来もない。世界の終わる世界の果てなのだから。
「終わっているってどういう風に?」
「わたしも行ったことがないのでわかりませんが、何でも世界の果てから先の世界はないんだそうです」
「それは、世界の果てだから当然です」
「平気なんですか?」
「はい。何を気にする必要があるのでしょうか」
ぼくが気にも留めないそぶりを見せると、浮浪者は黙った。
この浮浪者は世界の果てでは降りない。別の駅へ行くだろう。世界の果てで降りるのはぼくひとりなのだろう。ぼくひとりが、富士の樹海へ向かう自殺志願者のように、世界の果ての駅へ向かう。その先に何が待ち受けているのかも知らずに。
世界の果ては、日本のどこかにある。電車の路線図を開けば見つかる。世界の果てへは電車で行くのだ。そこに、世界の端がある。
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