ANNA 異世界よりの聖女
澁谷晴
1 聖女、降臨する
神聖リンダリア帝国。
千年に渡り覇権を握ってきたこの大国にも翳りが見え始めた。魔導機械の発達によって社会が栄えると、人々の信仰心は薄れ、人心は荒み、犯罪が蔓延った。その多くはわけのわからない動機によるものだった。ただいらいらして、むしゃくしゃして、気候のせい、あるいは理由もなく、暴力・殺人・窃盗に若年層が手を染めていたのだが、「主神ローギルの啓示によって」と述べる犯罪者も多くいた。
事態を重く見た教皇アデレード五世は、この混沌の世のともし火、標とするべく〈聖女〉を広く募った。
しかし、もちろん面倒そうなので誰もこれに立候補することはなく、仮聖女として藁でこしらえたカカシが本拠地アルデバラン大聖堂に安置され、信者が日々記念撮影を行っていた。
ところがこのカカシの聖女もある日、失業で自棄になった人物の手によって火を着けられ焼失。一刻も早い新聖女が求められていた。
そんな帝国暦一〇一五年四の月、帝都デレキアに嵐が吹き荒れ、メインストリートに落雷があった。
ミストラルビールの看板と煙草屋を破壊したこの雷とともに、一人の黒髪の少女が出現、かけつけた警官に「プリンが食べたい」などと話しているところに司祭が訪れ、この少女こそ聖女であると主張した。
少女は浪人生の
ローギル教会の首脳会議によって、彼女はこれまでの歴史上二十五人しかいない、異世界よりの転移者であると断定され、同時に聖女に認定された。本人の証言、落雷とともに出現したという事実、そして建国時代に初代皇帝デレクを導いた聖女クローディアと同じく、聖衣たるしゃれこうべの描かれた黒いパーカーを纏っていたのが決め手となった。
〈ローギルの炬火〉アンナ・アッカーマンという洗礼名を与えられた少女はアルデバラン大聖堂に住まうこととなった。
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