第八話 剣聖


【ローランド・オルトレイン】


 三十三年前の魔族の大侵攻により滅んだ北の果て、クルム村の生き残り。


 当時の剣聖セイバー、アルビオ・オルトレインによってその生命を助けられたローランドは王国二大貴族の一つ、オルトレイン家の養子として迎えられる。


 勉学と剣術に励んだローランドは、騎士団の中でも名の知れる剣士として着実に成長した。魔法を使えなかったローランドではあったが、その剣技はそれを補って余りあるほどの実力を有し、彼の名を知らぬ者はいないほどであった。


 そして、彼が二十四になった年に北の大地を取り戻す大規模な作戦が実行された。後に【クルム雪原の戦い】と呼ばれるその戦いで、ローランドはその力をもって故郷である北の大地を取り戻した。そしてその功績が認められ剣聖セイバーとなり、養父の跡を継いだのが、今から十八年前のことである。


 だが、その戦いの代償は大きかった──


 その戦いでアルビオは討たれ、時期国王となるはずだった国王の一人息子も命を落とした。

 そして、ローランド自身も深手を負い、以前のように剣を振るうことができなくなった。


 そしてこの戦いの二年前、アルビオには産まれたばかりの双子の子供がいた。


 兄のアルフレッド、妹のアルフレイア、二人は顔も声もよく似た兄妹だった。


 ローランドは、アルビオに代わり親として二人を育て、鍛え始めた。かつて自分がアルビオにされた様に──


 兄のアルフレッドは誠実で真面目な少年だった。魔法の素養は待っていなかった。だが努力を惜しむこと無く剣術に励み、勇敢な騎士となるべく日々鍛錬を重ねていた。


 妹のアルフレイアは優しく、笑顔の絶えない少女だった。彼女は類希なる魔法の素養を持ち、歴代の魔導師ウィザードに名を連ねるのではないかと期待されていたが、彼女は戦いを好まず、花と平穏を愛していた。


 だが唐突に訪れた不幸が、三人に襲い掛かった──


 アルフレッドが十五歳、騎士団へと入隊できる年齢になった矢先、未知の病に侵された。


 身体が徐々に黒い鋼へと変貌していく病だった。その後、半年を待たずして、アルフレッドは自らその生命を絶った。


 その日を境に、アルフレイアは変わり始めた。


 花の代わりに剣を持ち、美飾服ドレスの代わりに鎧を纏った。


 平穏とは程遠い、厳しい剣術の鍛錬と魔法の修練に明け暮れる日々、そこにはもう、昔の様な笑顔を見せるアルフレイアの姿は無かった。


 そしてそれから数年後、ローランドは突如として王都から姿を消した──


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