ビストロ・クエスト ~ラ・ファエルへようこそ!
騎士誠一郎
第1話 ゲーマーで見習い料理人
何処までも広がる草原。
吹き渡る風が草花を揺らす。
その上を吹き荒らすかのように駆け抜ける人影。
「今回のクエスト、タクがいなかったら、どうなっていたか……」
どうやら、何かのクエストの最中のようだ
長剣を手にした男が、別の男に声をかける。
「ああ。 この為にレアものの≪神弓・アルテュメス≫を用意しておいたんだ」
声をかけられた男は、持っている白銀の弓をパーティーメンバーに見せる。
「マジかよ!」
「羨ましいぜ‼」
様々な言葉が飛び交う中、弓使いの視界に警告メッセージが表示される。
「お、早速お出ましだ!」
と、双剣を手にした男が眼前を睨む。
その視線の先にいたのは、彼らよりはるかな巨体のゴブリンだった。
「タイタン・ゴブリン、コイツが今回の討伐対象だ‼」
「なるほど、これは狩り応えが有りそうだ!」
パーティーメンバー達が士気を高める。
「よっしゃ、やりますか!」
ハンマーを持った女が覇気を出す。
それに呼応するかのようにメンバー達が雄叫びを上げ、果敢にゴブリンに挑む。
ゴブリンも、やられてなるものか言わんばかりに持っていた棍棒を振り下ろす。
「散れ!」
パーティーが散会すると同時に、棍棒が地面を叩く。
ゴブリンが持ち上げた跡を見ると、そこには大きな穴が空いていた。
かなりの凄まじいパワーだ。
「こりゃ、まともに喰らったらゲームオーバー確定だな」
弓使いの男は、少し戦慄した。
「アタシに任せて!」
ハンマー使いの女が先陣を切る。
それを迎え討つかのように、ゴブリンの渾身の一振りが迫る。
「やらせるか!」
弓使いが、ゴブリンの右手に向けて一矢を放つ。
それは、見事にゴブリンの右手に命中、苦痛の咆哮を上げさせた。
「サンキュー、タク!」
「どう致しまして!」
ハンマー使いの感謝に、タクと呼ばれる男がサムズアップをする。
「うおおおぉぉっ‼」
ゴブリンが怒り狂い、タクに目掛けて突っ込んで来た。
「タク、そっちに行ったぞ!」
双剣使いの男が叫ぶ。
タクは、至って冷静に矢を引き絞る。
ゴブリンが迫る。
その口から悪臭と唾液を撒き散らす。
その刹那、
「喰らえ!」
タクが必殺の一矢を放つ。
それは、まるで一筋の光の如く空を切る。
そして、ゴブリンの眉間を見事に貫いた。
空気が震えんばかりの断末魔を上げながら、ゴブリンは絶命した。
「「「「やったーーっ‼」」」」
タク達が喜びを上げながら、ゴブリンの体に近づく。
「設定じゃ、コイツの肉は食えたもんじゃないな」
そんな事言いながら、ゴブリンから素材を剥ぎ取っていく。
そうこうしている内に、クエストクリアの文字が表示される。
同時に、
「拓哉、少し手伝って!」
下の方から女性の声が響く。
「おぅ! じゃあ、みんなまたな」
その声を聞いたタクは、仲間に挨拶すると、直ぐにログアウトした。
「さて、やりますか!」
タクは、いそいそと下へと降りて行った。
更衣室で白いコックコートに着替えると、直ぐに厨房へ向かった。
鏡に映った姿の身長はそこそこ高く、顔立ちは凛としている。
「今日はプレミアムフライデーだから、忙しくなるぞ」
オーナーシェフを務めるタクの父が注意を促す。
「ああ。 世の中、こんなに楽しいと思うのは、この時間なんだな」
タクは手洗いを済ませ、目の前のスープ鍋をかき混ぜた。
ここは、東京都内のとある住宅街に構える隠れ家的な名店「ラ・ファエル」。
日本のみならず、海外のセレブがお忍びで通う創作ビストロ。
旬や四季を取り入れた料理は、海外のグルメサイトなどで最高ランクを獲得し、国内でも知る人ぞ知る店である。
「拓哉、3番テーブルにメインを運んでくれ!」
「わかった!」
父に言われ、タクはこの日のメインをトレイに乗せ、ホールへ歩き出した。
ホールは、大勢の客で賑わっていた。
いつもの常連客から、口コミで知って初めて訪れる客まで様々。
この場にいる誰もが、最高の味に舌鼓を打っていた。
「お待たせしました。 ≪舌ビラメのムニエル・瀬戸内レモンソースを添えて≫です」
タクが料理を待っている客のテーブルにメイン料理を置く。
「ありがとね、タクちゃん。 やっぱりここのお料理は、いつ来ても飽きないわね」
常連客の女性は、タクにそう言った。
「いやぁ、それ程でも……」
「そう言えば、ニュースで話題になってる人気レストランへの連続放火を知ってる?」
照れるタクに、女性はこの日のニュースについて尋ねた。
「あぁ、今朝のニュースで杉並区のフレンチがやられたって……」
タクは、朝のニュースで放火事件を知っているようだ。
「警察も、犯人を捕まえるのに必死になってるらしいわ。 どうしてなのかしら?」
女性が首を傾げると、
「心配しないで。 家には防犯カメラがあるから」
タクがウィンクする。
その時、
「拓哉、ついでに6番テーブルの皿を片付けてくれ!」
父の声が厨房から響く。
「おぅ!」
タクは元気良く返事をすると、直ぐに客が去った席へと向かう。
「タクちゃんは、働きものだね」
常連客の女性は、そんなタクを見て感心する。
その様子を店の外から見つめる怪しい男。
その目は、人気レストランへの逆恨みを湛えていた。
「この店は、大人気感丸出しだな」
男は、そう呟く。
「この前食って見たが、まず過ぎる。 なのに、海外のセレブもご用達とは……」
悪態を付く男は、
「口コミなんて、嘘っぱちだ。 この店は、裁きを受けるべきだな」
そう言いながら店の裏手へと進んだ。
次回へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます