小生とシン・ゴジラ

サンカク

小生、感動したの巻

『シン・ゴジラ』(BD版) 感想のようなモノ

 小生は『物語を楽しんだ感想は自分のモノ』と考えている。

 

 それは数多くの物語を楽しんだことにより、小生の『物語容量』が増えた結果である。この『物語容量』が増えると、見た(読んだ)物語を他者と共有することなく、自分の中に抱え込むこと、つまり、物語に対して他者の意見に左右されること無く、自分だけで完結することできるようになるのだ。


 一旦、自分の中で完結させてしまえば、残ったものは『余熱』であり、後はそれを使って別の楽しみ方をすることもできる。


 自分の感想を公開したり、他人の感想を読んだり、製作者のインタビューを聞いたり、まあ、いろいろである。例え、他者の意見を読んだとしても、『自分の中に完結した形』があるため、それが揺らぐことは無いのだ。


 だが、物語を楽しんだ後、稀に自分の中に抱え込みきれない作品があり、この『シン・ゴジラ』もそういう作品の一つとなった。


 圧倒的な熱量は小生を内側から焼き殺し、余熱などと言う生易しい表現は存在しない。いつかそれを抱え込むことはできるかもしれないが、今すぐには無理だろう。


 これから小生なりに、感想を書こうと努力するが、これはもうネタバレとか、ネタバレじゃないとか、そういう問題では無い。


 自分の中で消化し切れない作品に対して、どこまで手加減を許されるのか分からないからである。手加減と言う言葉すら、おこがましいかもしれないが、まあ、許してちょんまげ(渾身のギャグ)


 と、場が和んだところで、本格的に感想を書きます。


 正直なところ『シン・ゴジラ』に関しては。各自自分で判断すべき作品だと思います。面白いと思う方の気持ちも、面白くないと思う方の気持ちも分かるからです。この作品に関しては、その理由も明白でしょう。たぶん。


 それでもお付き合いくださる方は、どうぞご勝手に。

 自己責任だよーん。


 それでは覚悟を決めて参りましょう。

 レッツトラーイ(さん)



――――


 

『シン・ゴジラ』を観賞するにあたって、小生の中に大きな油断があったことは否定できない。『大ヒットした映画』という思い込みは確実にあった。


 最初の幾つかのシーンが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな演出だなーという感想も得た。よく分からない作品が始まったぞ。小生の中で『もしかしたら面白くないかもしれない』という疑惑がちょこっとだけ浮上した。


 だが、その浮上した疑惑はそれ以上浮上することなく、ゆっくりと沈んでいった。最後まで見終えた今考えると、そういった小生の心の動きも、全て『製作者』によって計算しつくされたものだったような気がする。


 物語の基礎として『起承転結』という言葉があるが、まさにこの作品がそうだったように思える。ゆっくりと動き出した物語は、じわじわと視聴者の心へと染み込んで行く。


 それは日本が『ゴジラ』に追い詰められていく過程と同じだった。

 物語の登場人物と視聴者が同調する。


 起から承。承から転。転から結。

 次から次へと変化していく物語に、ただ圧倒されてしまう。


 この作品の『ゴジラ』があのような存在だったのも、そういう演出を盛り込んだ結果だと思う。単調じゃない。物語がどんどんと変化していく。まるで『ゴジラ』という素材を使ったフルコースのようだと思った。


 この作品に人類を助けてくれる『ヒーロー(怪獣)』は存在しない。人類を守る『地球防衛軍』もいない。怪獣を担当する『(国内)組織』も設立されていない。日本は日本のまま、『ゴジラ』という未知の存在と向き合わなければならないのだ。

 前例の無い事態にどうすればいいか誰にも分からない。これはそういう物語だ。


『シン・ゴジラのどこが面白かったの?』


 単純な質問だが、小生はその問い掛けに対して、上手く答えることができない。以前別の場所で、作品の感想で至上なのは『面白かった』と書いた記憶があるが、これはそういう作品では無いのだ。


 多くの物語は、一つの結末へと収束していく。

 それは答えがはっきりとしている、という意味でもある。

 綺麗に閉じられた物語を前に、ただ一言『面白かった』と呟く。

 それが物語の終わり。後は素敵な時間だったことを噛み締めるだけ。


 だが、この作品は違う。

 物語が一つに収束していない。見た人の数だけ違う解釈が成り立ってしまうかもしれない、恐るべき物語。それが『シン・ゴジラ』なのだ。


 だからこそ、一つだけ『シン・ゴジラ』の魅力を挙げるとしたら、それは『情報量』という言葉だと思う。


 これは『説明量』ではない。

 むしろこの作品に『説明』という言葉はあまり無い。もしかするとほとんど無いかもしれない。分かる人だけ分かればいい。


『読む前に消える肩書き』『名前だけしか紹介されない兵器』『役者の表情』『言葉の端々に見える人間性』『親子らしき写真』『ゴジラの目』『回転する椅子』『解説されない文字』などなど、ぽんっと情報だけが置かれている。


 それに対する説明は(ほぼ)無い。

 この『シン・ゴジラ』という作品は、そういった説明を放棄した作品だと思う。丁寧に作られた作品だが、親切に作られた作品ではないのだ。


 例えば、『シン・ゴジラ』には『人間ドラマ』が無いと言われている。それが無いから面白くないという感想もある。


 だが、小生は違うと思った。

『シン・ゴジラ』には『人間ドラマ』ある。ただこの映画ではそれを説明はしない。幾つかの情報をぽんっと提示するだけで、後は視聴者の想像に任せる。


 そして、その空いたスペースに別の情報を詰め込む。

 でも、説明はしない。だから、またスペースが空く。

 

 それを繰り返し、二時間という限られた時間の中に莫大な情報を詰め込んだ作品。それが『シン・ゴジラ』という作品の正体だと感じた。


 他にもネットでの感想に『もっとゴジラを暴れさせるべきだった』という意見もある。だが、『シン・ゴジラ』では『ゴジラ』が暴れるスペースすら圧縮したのではないか、と考えられる。


 削ったのではない。

『シン・ゴジラ』において『ゴジラが暴れるシーン』は特別なのだ。回数を減らし、内容を詰め込む。そのワンシーンを最高の瞬間とするために、人類(日本)側の準備をただひたすら描写していく。


 だからこそ『ゴジラ対人類』という構図が成り立つ。

 その結果があの『中盤の戦い』なのである。

 個人的には『シン・ゴジラ』中でも屈指の名シーンだと思う。


 そして、もう一つ注目しなければならないことは、『ゴジラ』と相対する人類側の対応もけっして一枚岩ではない、ということだろう。国によって考え方が違う。立場が違う。目的が違う。そして、国に暮らす個人個人の考え方も異なるのだ。

 

 この映画は『インデペンデンス・デイ』ではない。

 だからこそ、余計に考えさせられる。


 果たして、人類の選択は正しかったのか?


 分からない。情報はある。

 だが、それに対する答えは明確に示されていない。

 もしかすると――――。恐ろしい可能性まで考えられる。

 

 だからこそ、見終わった後も様々なことを考えてしまう。

 今の小生の容量では消化しきれない、恐るべき作品なのだ。


 もっとも、その恐るべき作品がヒットしたということが、一番恐ろしいことかもしれない。日本の視聴者に、この映画を受け止めきれるほどの容量があるということなのだから。


 恐るべし日本。



――――



 もっと書けるけど、今回はここまで。

 作風としては『ガンダム Gのレコンギスタ』に近いところがある作品だと思っています。いろんなファンから怒られそうですが(汗)


『Gのレコンギスタ』という作品も、詳しい説明しないで、情報をぽんっとだけ置いておく作品だと思っています。ただこちらの作品は、確か監督が失敗したというコメントを残しましたけど。


 技法としてはかなり難しい。というより完全に視聴者任せになってしまうので、視聴者が(本当の意味で)作品の最後のパーツという構造。本来はそこまで信頼しない。見ただけで(作品の多くを)理解できるように製作(説明)する。


 でも、それをしなかった。

 それが『シン・ゴジラ』という作品の大きな特徴の一つだと思う。


『シン・ゴジラ』の全ての要素を楽しむためには、特定の分野の専門的な知識が必要だと思う。でも、小生みたいな基本的なアホでも楽しめるので、あくまでも『もっと深く楽しみたい人』はという意味になる。深みがあるというのは、良い作品であることが多い。たぶん。


 もちろん『怪獣政治映画』として物語の表面だけを楽しんでもいいし、分からない部分はネットで調べてもいいだろう。視聴者が分からないことは、わりと簡単に調べられるため、もしかすると昔よりこういう作品が受け入れられる時代になったのかもしれませぬ。


 続編はたぶん無理でしょう。方向性を継承するだけならできるかも。

 スピンオフは可能かもしれませんが、後は視聴者の想像にお任せするというのが一番かな。ちょっと見てみたいですが、物語を付け足しても、それがただの『説明』になってしまうかもしれませんし。


 あー凄い作品でした。

 映画作品の底力を見せられた感じです。

 

<圧縮されたゴジラ映画でした> 

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