31話 災害時の避難誘導って難しい

『まもなく目標地点。対飛来兵器特別攻撃隊は出撃準備をせよ』

 ヘッドセットからパイロットの声が聞こえてくる。本部空港を発ってから二時間強、ハクトたちを乗せた軍用ヘリは福岡市上空付近にいた。

「了解」

 ハクト含む対飛来兵器特別攻撃隊のメンバーは機械類の点検を始めた。


 最初の戦闘ののちすぐ、ハクトたちのチーム名が対飛来兵器特別攻撃隊に正式に決まり、本格的に活動を始めた。それまで倒されることのなかった兵器が三機も続けて破壊され、敵方も焦ったのだろうか、全国各地に次々と兵器が到来した。旭川、高松、金沢、仙台、福知山……一度に来る兵器の数も回数を重ねる毎に増えていき、今回に至っては12体もの兵器が福岡市内を暴れ回っているという。


『投下30秒前』

 再びパイロットの声が聞こえる。五人全員、機器の点検を終え、装置の電源も入れ、投下される準備が整った。

『投下まで、5、4、3……』

 カウントダウンが始まったところでヘッドセットを外し、壁に備え付けられたフックへかける。

 次の瞬間、床が一気に開き、450km/hオーバーで空中に放り出された。最初こそ怖すぎて戦闘の際に縮みあがっていたが、流石に十数回も繰り返すと慣れて来るものだ。

 空気抵抗が身体を襲う中、スピードが落ちるのを待つ。200km/hほどになったところで浮遊装置を点火、いよいよ目的地を目指す。

『兵器は博多駅前から西10km内に12体。いつものように私とハクトは先に避難誘導する。他三人は逃げ遅れた市民に気を付けて攻撃を頼む』

 エルの指示で攻撃組と避難誘導組に別れる。何せ、九州一の都市であるだけに人口密度が他の地方都市と比にならない。建物も大きく破壊するわけにはいかないのでミサイルなどは撃つわけにもいかない。

 ハクトは博多駅前のビルの中を流し目で一階一階確認していく。兵器が変電設備か何かを破壊したのか、一帯は明かりが一切見受けられない。

 博多ではリニア地下ホームがシェルターになっていて、今頃は避難者たちはトンネル内を本州方面に歩いている所だろう。そういうわけで、駅前の人はすぐにシェルターせ逃げこめてしまえるのだが、問題は駅から遠い場所だ。10km離れているとなるとわざわざ駅に逃げるわけにもいかず、取り残されている可能性が高い。

 更に言えば、博多には地下鉄が通っており、そのトンネル内に人がいた場合、トンネルが崩落しないよう、より慎重に戦闘を進めなければならない。

 ビル群の確認を一通り終え、下町情緒溢れる繁華街を覗く。今までの経験上、こうしたところには店主などが残って様子を見ている可能性が高い。今回も案の定、細い路地に数人歩いているのを発見した。

「早く逃げて下さい!兵器がそこまで来ています!」

 ハクトが必死に呼びかけると、彼らは「えー」「うそー」などと口々に言いながらも、停まっていた軽自動車に乗り込んだ。

「こっちですこっち!」

 誤って兵器のいる方向へ進まないように、ハクトが誘導をする。

 こうして呼び掛けに応じてくれれば面倒はないのだが、無視をされてしまっては諦める他ない。おばあさん一人なら担いで行けるかも分からないが、こういう都市での大規模な災害となると、その人数はあまりにも多い。対飛来兵器特別攻撃隊は大人数を一度に避難させる術がないのだ。

『ハクト、私は地下を見てくる。ハクトは引き続き地上を頼む』

 エルは無線でそれだけハクトに伝えると、博多駅のがれきに埋もれた、いつにもまして狭い地下の入口に高速で突っ込んでいった。

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