19話 運動音痴、空を飛ぶ
朝から、ハクトと新入隊員のお三方、そしてエルは飛行場に来ていた。飛行場には見たことのある装置が五台並べられていた。今回は服とは分離して、飛行装置だけ身につけるようだ。最初の練習のときにもそうしてほしかった。
「さて、これからお前たちにはこの機械を付けて空を飛んでもらう」
エルがお三方に説明するも、あまり理解してもらえていないようだ。そこで、この前と同じようにエルが手本を見せることになった。つまり、またもハクトがエルの股下にコードを通さなければならない。
しかし、新入り3人に見られている手前、恥ずかしがったりしては格好が悪い。ハクトも意を決して一息にコードを繋ぎ、できるだけ何にもない風を装った。――実際はかなりカクカクした動きだったが。
そして、この前ハクトに見せた通り、エルが一瞬で上空へ行き、帰ってくる。3人は驚くというよりかは名人芸を見ているかのような反応である。
「ワーオ!とてもexciting!」
「こ、これを私たちもできるようになるんですか!?」
メッシャと美鈴はとても興味を持ったようだが、琴里だけは「ふーん」とジト目で見つめるだけだ。
「まずは低いところを飛べるようにしろ。話はそれからだ。ハクト、装着を手伝ってやれ」
……予想はしていたが、いざ言われるとなかなかつらいものがある。まだ三人とまともに話せてすらいないのに、その股下に手を伸ばすなんて恐れ多い。
ハクトが戸惑ってる間にエルはメッシャの装置を付け終えている。仕方がないのでハクトは近くにいた美鈴の元へ向かい、装着を手伝い始めた。装置に両足を通し、腰を固定するのは自分でやってもらう。
「後はこれを下に通すだけなんだけど、結構きついから我慢してね」
「あ、はい、了解です」
はにかむ美鈴を見て一瞬気が怯むが、すぐに邪念を振り払ってコードを精一杯引っ張って股下で接続した。
「んっ……」
美鈴は少し吐息を漏らしたが、特に恥ずかしがる様子もなく、ハクトに「ありがとうございます」と言ってエルのもとに向かった。
「さて、操作の仕方だが、つま先を下に伸ばせば浮上し、つま先を上げれば降下する。前後左右のバランスをうまくとらなければ転ぶぞ」
エルの合図でそれぞれ装置のスイッチを入れて練習を始める。最初に挑んだのはメッシャだった。慎重につま先を伸ばし、20cmくらい浮き上がる。最初はバランスを崩してあたふたしていたものの、すぐにコツを掴んだようで、一度も転ぶことなくホバリングをやってのけた。
「流石スポーツウーマンです!」
自身もスポーツウーマンである美鈴が拍手をしながらメッシャを褒める。メッシャはそのまま空中を自由自在に飛び回り、途中からは完全に使いこなしていた。
次に挑戦したのは弓道の名人美鈴。スイッチを入れて少し浮き上がるが、バランスを崩し、「あわわわっ」と手をじたばたさせ、ステーンと尻餅をついた。
「いったた……えへへ」
美鈴は舌を出して頭を掻いた。しかし、美鈴は体幹がしっかりしているので、苦戦しているのは最初のうちだけで、2、3回やっているうちに、メッシャのようにすっかり慣れて飛べるようになっていた。
そして問題の琴里。ゲームやプログラミングの技術は高いにしても、運動神経はどうなのか。琴里は先の二人を見てイケると思ったのか、相変わらずシガレットを咥えながら、躊躇いなく装置のスイッチを入れた。しかし、次の瞬間琴里は咥えていたシガレットを口から落とし、変な体勢で宙を舞い、背中から鈍い音を立てて落下した。
「だっ……大丈夫!?」
ハクトは慌てて駆け寄るが、すぐに目を逸らした。……固定用のコードが変な風に身体を締め付けていて、腰を浮かせて上向きにM字開脚している格好になっていたのだ。もちろん、ピンクのミニフレアスカートは完全にめくり上がり、太腿から上を覆うスパッツとその中の下着が丸見えになっていた。さらに、腰の固定器具の位置がずれたことで、股下を通していたコードがスパッツの上から琴里の大切な部分に食い込み、スパッツがギチギチと音を立てている。
「ちょっ……と……早くなんとかしてよ……んっ」
ハクトが直視できずにいると、琴里は羞恥に顔を歪めて助けを求めた。頼みの綱であるエルは美鈴たちを指導していて手が放せないようだ。
そのままにしておくわけにもいかないので、ハクトはゆっくり片目を瞑りながら近寄り、食い込んでいるコードに手を伸ばした。こいつさえ外してしまえば、この変な体勢からは解放されるはずだ。
「んっ……変なとこ触んないでよ」
「触ってない!触ってないよお!?」
ハクトは真っ赤になりながらも変に力を入れないよう、慎重にコード接続部位を押さえた。そこを人差し指と中指で中に押し込めばコードは外れる。ハクトは失敗しないように願いながら、震える手で指に力を入れた。
「あっ……」
琴里は微妙にピクッと身体を跳ねさせたが、コードはうまく外れ、宙に固定されていた足は解放されて地面に落ちた。自由になった琴里は起き上がってスカートを整えながら少し火照った顔でハクトを睨む。
「時間かかりすぎでしょ」
「ご、ごめん」
ハクトも精一杯やったつもりなのだが、まあそう言いたくなる琴里の気持ちは分からないでもない。
琴里はハクトにコードを付け直させると、「もう転びたくないから支えて」と頼んできた。ハクトももう琴里のあられもない姿を見たくはなかったので、喜んで承知した。
「いくよ」
「どうぞ」
琴里はハクトと手を繋ぎ、スイッチを入れて再び浮遊に挑戦する。途中まで安定して浮き上がり、二人とも成功を目の前に見たのだが、30cmほど行ったところでハクトの手が届かないところへ行ってしまい、ハクトの手に引っ張られる形となった琴里はそのままハクトの方へ突っ込んだ。琴里に巻き込まれる形となったハクトはそのまま後ろへ倒れ、二人は半回転した。
「いってて……大丈b」
ハクトは琴里を下敷きにしていたので、慌てて起き上がろうと思ったのだが、右手の感触に違和感を感じてそこへ視線をやった。あまり大きい方ではないが、手の中で柔らかに形を変えてフィットするそれは、間違いなく琴里の胸だった。
「ごっ、ごごごごごめん!!」
ハクトは驚いた猫のように飛び退く。真っ赤になるハクトを見て、琴里はニヤニヤと笑う。それはそう――おもちゃを見つけた子供のような……。
「よし、今日はここまでにするぞ!昼ご飯までゆっくり休んでろ」
エルの一声で、一同は色んな意味での汗を拭って、お喋りをしながら建物内へと戻ったのだった。
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