3話 廊下にて
真っ白な味気ない廊下を歩くのは退屈だろうとハクトは会話を交わすことにした。
「あの、エルエールさんは実際のところ何歳なのですか?失礼ながら見た目からは中学生くらいに見えるのですが」
エルエールは驚いた表情を見せたが、すぐ無表情になる。
「お前は堅苦しいヤツだな。敬語でなくていい。あと、私のことはエルとよんでくれて構わん。星ではそう呼ばれていたからな」
「はあ」
「それと、ハクトだったな?お前はなかなか人を見る目があるな。私は14歳。地球で言うところの中学生だ」
ハクトには目の前を歩く14歳が本当に宇宙人なのか見当もつかない。
「それにしては言動といいますか、仕草とかがそれらしくないといいますか」
「だから、敬語はやめ。ほれ、言い直し」
エルエールは下からハクトをじっと見上げている。
「えと、言動というか、仕草が子供っぽくないなって」
なれない言い方にハクトは言いながら顔が熱くなってくる。それを見るとエルは満足そうな表情を浮かべる。
「そうだな。私の星では機械で勉学を頭にインプットするのだ。幼い子は物を覚えるのが早いから一日中内容を画面で見せ、聞かせることで9歳になるころには地球の成人男性の50倍の知能は持つ」
「そんなことをしてるんですか」
またも敬語を使ったハクトをエルは睨みつけたが今度は言い直しはさせなかった。
「0.05秒ごとに一つの漢字や一つの数式を見せてるんだ。幼子はそれだけ早く映しても理解してしまうものだ」
「すごい」
ハクトは思わず思った言葉をそのまま口にした。
すると、エルは急に表情を変え、廊下の奥を見つめた。
「お前にも少しばかり聞きたいことがある」
改まった声色だったものだから、ハクトもなんとなく背筋を伸ばした。
「何故お前はあの時私をかばった?」
「え?」
ハクトはキョトンとエルの顔を見た。
「私が銃を向けられたときだ。お前はどういうつもりで私をかばったのだ?私にはその精神がどうにもわからん」
エルエールは首を振って再び廊下の奥を見つめた。
「それは、その、エルが子供だから、かな。宇宙人といっても子供を殺すのは許せないと思ったんだ」
本心を口にしたところ敬語ではなくなり、ハクトは違和感を感じた。
「でも私は同じような子供を何十人も殺めた殺人鬼だぞ」
ハクトもそこを突かれると痛い。確かに目の前にいるのは殺人鬼なのだ。でもこうして話してても何も違和感はない。
「不思議だなあ」
ハクトは天井を見上げた。もちろん、天井も味気ないだけなのだが。
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