第31話
竜人は自分の見ている光景が信じられなかった。ここには居るはずのない姉が、ゲイルードの放った魔法を相殺し結界を蹴りで破ると、ゲイルードが壁まで水平に吹き飛んでいった。
「ねーちゃん、どうしてここに居るんだ?」
思わず問い掛けてしまった竜人。
「竜人、随分と久しぶりね。ちょっと待っててね、先にあいつの方の片を付けてくるから。」
ちょっと、そこまで出掛けてくるような軽い口調で話し掛けてくる姉。
「それと、そこのあなた竜人を守ってくれてありがとうね。後は休んでて良いから。」
姉はラビアにそう言うと、ゲイルードのほうに歩いていく。
竜人はこれで助かったとほっとしていた。姉から感じる気配はゲイルードと比較しても、更にとんでもないほどの力を感じた。
(やっぱりねーちゃんこっちに来てから更に強くなっているな。地球にいた頃より更に差が開いちゃったな。)
竜人は姉の背中を見つめながらそう考えていた。
サイド~柳舞~
(しかし、キマイラを倒したまでは良かったけど、さすがの竜人もボス級の連戦はまだ早いわね。六魔将軍なんて大層な肩書きを持ってるみたいだし。)
ゲイルードに向かって歩きながらいろいろ考える舞。
(でも、竜人を弄んだこいつはどうしてくれようか。ほんとだったら私の手で始末したいところなんだけど?)
竜人がやられているところを見せられて若干キレ気味の舞は、それでも今はまだ勝てなくてもいずれ自分の手で倒さなくては、竜人のためにもならないしと思い直した。
○柳舞
気闘陣(
能力値
○力EX ○魔力unknown ○俊敏EX ○賢さEX ○生命力EX ○魔法防御EX
装備
○神刀「月光」
異能
○
本来異能の発現は一人一つが原則だが、必要とのことでもう一つ発現させた舞。
恐らく、天界ではこの光景を呆れた様子で女神メーナスが眺めていることだろう。
ゲイルードの元までたどり着いた舞は足を止めて様子を窺っていた。
「ガハ、ゴホ・・・」
めり込んだ壁から抜け出したゲイルードは舞の存在に気が付く。
「お前は・・・何者だ?」
ゲイルードは目の前の人間がただ者ではないことを理解し、警戒を強め問い掛けた。
「私? 私はさっきまであんたが弄んでいた竜人の姉よ。随分と愉快なことをしてくれてたみたいじゃない。お礼に私がちょっと遊んで上げるわ。」
ドン!
そう言った舞は、ゲイルードの前までまるで瞬間移動したかのような速度で現れ、腹を蹴る。
再び吹き飛ばされたゲイルードの先に先回りした舞は、今度は垂直に蹴り上げ、空中に舞い上がるゲイルードを追いかけ飛び上がると地面へと叩きつけた。
「ゴボバァ!」
ゲイルードはあまりの早さに自分がどうなっているのかも理解できず、ただ体の痛みだけが襲いかかってきていた。
あまりのことに竜人たちはただ呆然とその様子を見ていた。
「あらあら、どうしたのかしら? 六魔将軍なんて立派な肩書きの方がまさかこの程度なんてことはないのでしょう?」
舞は実に楽しそうにゲイルードへと問い掛ける。
(ば・・・ばかな。この私がなにもできずに良いようにされているだと。ふざけるな。)
ゲイルードは舞から距離を取ると、魔力を極限まで込め始める。
その様子をただ眺めているだけの舞。
「バカが、その油断が命取りだ。くらえ『
ゲイルードから放たれた漆黒の業火が舞に襲い掛かると、炎は舞を飲み込んでいった。
「ねーちゃん!」
竜人が思わず叫ぶもそれに答える声はなかった。
「ふははははは、私を舐めるからそういうことになるんだ。さて、後始末をとっとと付けるか。」
ゲイルードが竜人たちの方を振り向くと歩き出そうとした。
「あら、何か楽しいことでもあったの?」
漆黒の業火がだんだん小さくなっていき、やがて舞の姿が表れてくるとその炎が舞の体へと吸収されていく様子が見てとれる。
舞は先程と同じ場所で、一歩も動くことなくその場にいた。
「バカな!我が最強の魔法を受けて無傷でいられるはずがない。そんなことが出来るのはあの御方以外にいるはずが・・・。」
ゲイルードの叫びを聞きながら舞は一歩一歩近づいていく。
その迫力に後退りしていくゲイルード。
「もう飽きてきちゃったし、そろそろ終わりにしましょうか?」
先程のゲイルードの台詞をそのまま返していく舞。竜人のことで逆鱗に触れてしまったゲイルードには、最早なにもすることができなかった。
(この強さ。こいつはまさか魔王様にも匹敵するというのか。そんなことがあってたまるか。)
ゲイルードは後退りしながらポケットから一つの玉を取り出すと、舞と自分の間に投げ付けた。
その玉が割れると地面に魔方陣が出現し、竜人たちがやっとの思いで倒したキマイラと同じものが現れる。
「そいつの足止めをしろ!」
「ガアアアー」
キマイラが舞へと襲いかかってきた。
舞は無限収納から「月光」を取り出すと一瞬でキマイラとすれ違った。キマイラは地面へと着地をする前にその体は細切れにされると煙のように消えてしまった。
「
舞は「月光」を鞘に納める。
(やはり大した足止めにもならないか。だがこれで間に合った。)
ゲイルードはわずかな時間稼ぎの間に転移魔法を完成させていた。
「今日のところはここで引かせてもらう。だが、いずれこの借りは必ず返させてもらうぞ。」
その言葉を最後にゲイルードは消えていった。
舞はその様子を確認すると溜め息をついた。
(はぁ、どうにか
舞は必死にゲイルードへの殺意を押さえ込んでいた。そうでなければ最初の一撃の段階で、跡形もなく消滅をさせてしまっていただろう。
片が付いた舞は竜人の元へと戻っていった。
竜人の元には仲間たちが集まっており、竜人には二人の少女が泣きながら抱き付いていた。
「兄さんのバカ。兄さんを犠牲にしてまで生き残ったって嬉しくありません。」
「お兄ちゃんのばかー。」
二人に抱きつかれた竜人は、困った表情を浮かべながら舞の方を向くと話し掛けてくる。
「ねーちゃん、ごめん助かったよ。でも今まで何処で何をしていたんだ? というかどうしてここに居るんだ?」
「まあ、あちこち旅をしていたんだけどちょっと魔族の情報を入手してね。調査していたのよ。」
舞は
「それにしても竜人、随分とモテモテのようね。なんか同行者も全員女の子ばかりで、しかも奴隷とかハーレムなのかしら?」
舞がジト目で竜人の方を見つめている。
「ち、違うんだ。これは成り行きでこうなっただけで、決して疚しいことはなにもないんだ。」
竜人は必死で舞へと弁解を始めた。
(やっぱりこうなった~。だから奴隷とか嫌だったんだよ。)
竜人はどうやって姉の誤解を解こうか悩みながら、姉にこれまでのことについて説明をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます