第32話
竜人は姉にこれまでの体験したことを順序だてて説明を始めた。舞は竜人のあらかたの行動については把握していたのだが、一から説明を受けていた。
「ふ~ん、竜人も大変だったのね。でもこんな可愛い妹が二人も出来たなんて、私も嬉しいわ。」
舞はエリスとミーナをみつめると微笑んでいた。二人は「舞姉さん」「舞お姉ちゃん」と呼んでいた。
「それでねーちゃんは今までどうしていたんだ。というか誰に召喚されたか分かってるの?」
舞は竜人の質問に、召喚されたときにメーナスに聞かされたことを伝えることにした。
「この世界の神様に呼ばれたなんて、やっぱねーちゃんはすごいな。」
「まあ、それはどうでも良いんだけど、帰るためにはその神の力が戻るまでは無理みたいなのよね。その間暇だし旅のついでに魔王の件もどうにかしようかなあって。」
「ねーちゃん、さすがに魔王相手にその扱いはどうかと思うよ。ねーちゃんなら出来そうだけど・・・。」
舞の言葉に周りの人たちも半ば呆れた様子で聞いていた。ただ先程の戦いを見せられたメンバーには、それに突っ込むことはできなかった。
「でも結局あのゲイルードが持っていった玉は一体なんだったんだ?」
竜人の疑問に舞が答える。
「あーあれね。昔勇者が魔王を封印するために使った宝玉よ。魔王の封印には八つの宝玉が用いられた様なんだけど、その後は各地にそれぞれ隠されていたらしいの。魔王の封印解除にはその宝玉が必要なのよ。」
さらっと説明する舞。
「大変じゃないか。ねーちゃんそれ知っててゲイルードを見逃したのか。」
「まあ、あれ回収して魔族に常に付け狙われても面倒だし、魔王が復活するなら封印なんて面倒なことしないで今度は倒せば良いし。」
相変わらずの爆弾発言に竜人も突っ込めなくなった。
「はぁ、もういいや。なんかいろいろ疲れてきた。」
竜人の意見に同意だと言うように皆も頷いていた。
「それでねーちゃん。この後はどうする予定なんだ?」
竜人が聞く。
「うん? それはこれまで通り一人で旅を続けるけど。」
その答えを聞いた竜人は叫んでしまった。
「どーしてだよ、ねーちゃん。折角会えたのに、どうしてまた別行動する必要があるんだよ?」
竜人は納得ができないように舞に問い掛けた。
「竜人。私はこれからも魔族と戦うことになるのよ。それなのに足手まといになる貴方を連れていってどうするの?」
舞の言葉にエリスたちが反応した。
「そんな、舞姉さん酷い!兄さんは命懸けで頑張っていたのに。」
「舞姉ちゃんひどいよ。」
二人が舞に抗議の声を上げる。
だが、竜人は舞の言葉を聞くと項垂れてしまった。
「二人とも優しいのね。でも、これは大切なことなの。竜人、貴方の目的はなに? 私に護られながら旅をすることなの?」
「違う!俺はねーちゃんの横に並び立てるような男になることが・・・。」
舞は竜人に微笑みかける。
「そうね。だったら今の貴方では役者不足よ。」
はっきりと宣言され竜人は、溜め息を着くと姉との旅は諦めることにした。
「分かったよ、ねーちゃん。」
「竜人、私のところを目指すのならばもっと強くなりなさい。あんな魔族なんか簡単に蹴散らせるほど強く!」
舞は竜人を見つめると、力強く告げた。
「わかってるよ、ねーちゃん。俺は必ずねーちゃんの隣に立って見せる。だからもう少し待っていてくれ。」
竜人の力強い宣言を聞き満足そうに頷くと、エリスとミーナに向き自分の方へと呼び寄せる。
エリスとミーナが舞のところに着くと、舞は二人を抱き締めて頭を撫でた。
「二人とも、竜人のことを宜しくね。普段はしっかりしているように見えるけど、時々危なっかしいところもあるから。二人でお兄ちゃんのことを支えてあげてね。」
「舞姉さん。」「舞お姉ちゃん。」
二人は舞に抱き付くとしばらく頭を撫でられていた。
やがて舞が二人を離すと皆に告げる。
「さて、私はそろそろ行くわね。そこの貴方たちも竜人のことよろしく頼むね。」
ラビアたちにもそう告げると、アルやピピ、クーの頭も撫でていき気持ち良さそうに鳴くアルたちを後にして、広間の中央に行くと転移魔法を発動させる。
「それじゃあ、またね竜人。ハーレムもほどほどにしなきゃ駄目よ。」
「ねーちゃん!だからそれは誤解だって!」
竜人の叫びも虚しく、舞は転移していった。
しばらくの間、竜人たちを沈黙の時間が支配していた。
「なんかすごい人でしたね。」
エリスが竜人に尋ねる。
「そうだろ。まあ地球に居たときよりもなんか楽しそうではあったな。」
竜人はエリスに同意すると、とりあえず迷宮からの脱出をすることにした。
竜人とラビアは特に疲労していたことから、前衛をリジィーとアルに頼むと後衛に着くことにした。
地図を便りに最短ルートで二十階層の転移装置まで戻った一行は、迷宮から出ると外はとっくに日が暮れており、竜人の判断でギルドへの報告は明日にして宿へ戻ることになった。
翌朝、昨日の戦闘の疲れからか目が覚めると十時を回っており、部屋にはエリスやラビアが待機していた。
「おはよう、と言ってももうこんな時間か。起こしてくれればよかったのに。」
「いえ、兄さんはお疲れですから無理をしないでください。それでは仕度をしたら朝食にしましょう。」
竜人が起きるのを待っていた皆は、揃って遅い朝食を済ませると調査報告のためギルドへと向かって行った。
ギルドに着いた竜人は、ベラを探してギルドマスターへの報告を告げると部屋へと案内をされた。
竜人はギルドマスターにゲイルードと姉のこと、宝玉については言わずにザルモの死体と魔物の使役について説明をした。
魔族がいたこと、それも目的が不明と言うことでギルド内は慌ただしくなっていた。
竜人には依頼ランクを越えた難易度という事で、特別報酬として白金貨二枚が王都のギルドにて支払われることとなった。
更にこの事はしばらく箝口令が敷かれることとなった。
竜人たちは、迷宮にはもう用がないとばかりに宿を引き払うと、馬車に乗って王都を目指した。
幸いラビアたちは馬車の操縦も可能とのことだったので、竜人は任せることにして馬車の中でエリスやミーナとともに待ったりと過ごすことができた。
朝食が遅かったため昼食も少し遅めにとることになった。
竜人は皆へのお詫びもかねて、昼食の用意をするとピラフを作ることに決めた。
新しいお米の料理に皆にも笑顔が戻り、ラビアたちはお代わりを要求していた。
そして日が暮れて少しした頃に竜人たちは王都に戻ることができた。
夕暮れの宿り木亭に帰って来た竜人たちは、マリーに笑顔で迎えられ後で部屋で遊ぶ約束をミーナとすると、二部屋を一週間前料金を支払い久しぶりにクライブの料理を堪能することができた。
夜になるとラビアたちも交えたオセロ大会に盛り上がっていたマリーは、深夜近くまでつい遊んでしまいクライブさんが連れ戻しに来るという一幕も見られたが、久しぶりの平和な時間を皆が堪能していた。
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