第15話
竜人は男たちが全員生き絶えているのを確認すると、馬車の周囲で倒れている人たちの元に駆け付ける。生存者を探していると母親と見られる女性が微かに息をしていることが確認できた。
「しっかりしてください。」
そう言うと竜人は手持ちの回復薬を使用する。恐らくはもう助からないだろうほどの出血をしていたが、せめて苦しみからだけでも解放したいとの想いで使用した。
回復薬を使うと僅かながらに意識を取り戻した女性は竜人にすがるように話し掛けた。
「お願いします、一人娘が居るんです。何処かに逃げている筈なんです。助けてください。」
竜人は直ぐにあの少女の事であろうと理解する。自分が死ぬ間際まで娘のことを心配する母親を見て、とても真実を告げることが出来なかった竜人は母親の手を握るとこう告げることにした。
「大丈夫です。娘さんは我々が保護しました。心配入りません。」
竜人は精一杯の嘘を突き通す覚悟をした。
「ああ良かった。ありがとうございます、娘をよろしくお願いします。」
そう告げると穏やかな表情になり息を引きととっていった。竜人は拳を握り締めると地面に叩きつけ、ただ目の前の光景を見つめていた。
やがて竜人の背後から馬車の音が聞こえてきて、エリスとミーナがこちらにやって来た。
「二人ともさっきの場所で待っているように言っただろ。」
力なくそう言う竜人にエリスとミーナが抱きついてきた。
「兄さん」「お兄ちゃん」と涙を流し竜人を包み込むようにして、ただ何かから守るようにして抱き締めていた。
「兄さん、自分一人で抱え込まないでください。私たちは家族です。苦しみも悲しみも私たちが一緒に背負っていきます。」
エリスがそう言うと、ミーナは抱きついた手に力を込めて同意の意思を示した。その周りには動物たちが心配そうにしていた。
しばらくすると竜人は「ありがとう」とみんなに呟くと、やがて立ち上がり周りを見渡してみんなに言う。
「この人たちをちゃんと弔ってやらないとな。」
竜人は二人に救われた想いを感じていた。初めて人を手にかけたことに対してはあまり感慨は沸いてこなかった。
それよりも、人を殺したことについて姉妹にどう思われるかの方が怖かった。
でも、姉妹はただ竜人の身を案じるだけで恐怖の感情を現さなかったことに安堵を覚えていた。
そして、約束を守れなかった少女に対する贖罪の念も一緒に背負ってくれると言ってくれている。
竜人の独り善がりの想いを受け止めてくれた姉妹に心から感謝をする。
馬車の周りで息絶えた家族と見られる人たちを一ヶ所に運ぶと、少女も同じ場所に並べた。遺体から身分証を取り出すと墓穴を掘ると遺体を一人ずつ埋葬していく。
墓標となるように石を乗せると供養をする。エリスやミーナも黙って祈りを捧げていると、エリスから光が差しお墓へと優しい光がつ包まれていた。
エリス
○セイクリッドライト
セイクリッドライト・・・死者の魂に安らぎを与えアンデッド化を防ぐ。神聖魔法の一つ。
「エリス、今の光はなんだい?」
「祈りを捧げていたら神聖魔法を習得したようです。この方たちが安らかに眠れるように願っていたら魔法が発動したようです。」
「そうか、ありがとうエリス」
そう言うと竜人はエリスを優しく見つめていた。
獣人一家の埋葬が終わると、次は襲撃者の処理に入った。襲撃者の持ち物を確認するとマジックバッグを入手することができた。
○マジックバッグ・・・アイテム袋の上位互換。10トンまで収納することができ、内部の時間は止まっている。
マジックバッグの中を確認すると暗殺に使われる毒や武器があり、鑑定を使い危険なものは取り出すと、襲撃者の遺体と一緒に少し遠くにまとめるとピピの炎で跡形もなく消滅させた。
襲撃者を埋葬する気はないが、アンデッド化を防ぐための処置であった。
「みんな協力してくれてありがとう。血の臭いに惹かれた魔物たちが集まってくるかもしれないから、そろそろここから離れたいと思う。」
「そうですね、まだ明るいですしもう少し移動をしましょう。」
「さんせー。」
二人の同意を得て竜人たちは馬車まで戻るとこの場を後にする。もうこんなことはさせないと心に誓いながら墓の前を通りすぎていった。
もし竜人が一人で旅をしていて、今回のことに遭遇していたら暗い感情に支配され、怒りに身を支配されていたかも知れなかった。
エリスやミーナとの出会いは、この世界で生きていく上で竜人にとってはなくてはならない存在だった。
竜人は馬車を操縦しながらエリスに獣人について話を聞いた。この世界には様々な種類の獣人やエルフ、ドワーフなどの人種が居り表立っての迫害はされてはいなかった。
しかし、場所によっては差別等は以前残っており、人間史上主義の狂信的なカルト集団も存在しているとのことだった。
竜人の世界にも当然差別や迫害は純然と存在しており、神の名の元に人殺しが行われてきた。
世界が代わっても人間は変わらないのだと思うとともに、それでも慈しむ心もまた変わらずに存在していることに希望を持っている。
ただ、あの襲撃者の神という言葉に引っ掛かりを受けた。竜人の世界には考えられないものが存在している。
もしかしたら、神も実在している可能性も考えていた。
(神なんて存在が実在しているとしたら、その力はいったいどれ程のものなのだろう。そして、なぜこのようなことをさせているのかその意図を知る必要があるな。)
竜人たちは今日の移動を終えた。あれから姉妹たちは妙に明るく振る舞っていて、竜人はその心遣いに甘えることにした。
馬車で寝るときに、いつもとは違い竜人が真ん中で仰向けに寝ると左右から姉妹が腕を抱きつくようにして眠りについていた。
(ねーちゃん、今日初めて人を殺してしまったよ。もう昔の自分ではいられないかもしれない。ねーちゃんは無事だよね? 早くねーちゃんに会いたいよ。)
竜人はいつになく弱気な気持ちを振り払うように、左右から感じる温もりを感じながら眠りにつくことになった。
柳竜人 人間 17歳 異世界人
能力値
○力A ○魔力A+ ○俊敏A+↑up ○賢さB+ ○生命力A-↑up ○魔法防御B+↑up
装備
○神刀「暁」、○アースドラゴンの鎧new
特殊技能
○気闘陣 ○気闘陣(
異能
○仁義八行
所属
眷族 ○エリス ○ミーナ
気闘陣(焔)・・・怒りにより気闘陣の性質変化を起こしたもの。通常の気闘陣と違い、その能力上昇を力と俊敏に特化したもの。生命力と魔法防御の強化を捨てることで行われる。
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