第13話

 王都を目指して移動中の竜人たちは、順調な旅が続いていた。時折魔物たちの襲撃があったが、幻獣や竜人、そしてゴブリンのような弱いものはエリスも棒術を使い倒されていった。


 馬車の操縦は竜人とエリスが交代で行っており、ミーナは御者席の隣で運転をみたり、時折実際に手綱を握らせて貰うこともあった。あとは、馬車の中で動物たちとゆったりと戯れたりして過ごしていた。


 そんなある日、今夜の野営の場所を確保して夕食を済ますと、竜人は二人に手に持っているものを見せて言った。

「じゃじゃーん」

「兄さん、これは何ですか?」「何これ?」

 不思議そうに差し出されたものを見てエリスとミーナが質問する。

「これはオセロと言って俺の世界での遊び道具なんだ」


 竜人はアテルナの町の雑貨屋で、何か使えそうな物はないかと探していたとき、おはじきのようなガラス製の飾り物を見つけ、それを片側に色付けをすることでオセロの石の代わりにした。


 板のほうは四角い木の板をインクで升目を書いて、即席オセロ板を作った。この他にもトランプや将棋、囲碁何かも作ろうとは考えていたのだが、手間を考えて取り敢えずオセロのみを先に作ることにした。


 竜人はよく祖父と囲碁、将棋の対戦をしていた。将棋については、昨今ではコンピューターによってプロ棋士を倒したというニュースがよく流れていた。

 

囲碁も海外のプロが負けたとのニュースはたまに見かけたが、未だにプロ棋士が牙城を守っている。

 コンピューターを持ってしても手筋が数え切れないほど可能性のある囲碁は、人類史上最も難しいボードゲームとも言われることもある。


 (将棋や囲碁はかなり難しいゲームだからな。エリスはともかくミーナには厳しいだろう。まあ、挟み将棋や五目並べとかなら大丈夫そうだからそのうち作りたいとは思っているが。)


 姉妹はオセロを興味深げに見つめていた。竜人はゲームのルール説明のために、まず一人でプレイをして見せた。

 その様子を真剣に見ていた二人は、取り敢えずそれぞれ竜人と対戦することになり、竜人はアドバイスをしながらギリギリ負けないくらいに調整して二人とプレイした。


 その内、熱中しだしたエリスとミーナで何回か対戦して(勝敗は三対二くらいの割合だった)、そろそろ休もうと促す竜人の声にもあと一回が何度か続いた。

 また、新しいゲームの用意をするとの約束にどうにか今日のところは終わることにした。


 (まさかここまで二人がハマるとは思わなかったな。それだけこの世界には娯楽というものが少ないんだろう。二人に喜んでもらえる物をもっと用意しないとな)。

 相変わらずのシスコンぶりの竜人であった。


 三人は馬車のなかに布団を敷くと、ミーナを真ん中に挟んで川の字のようにして寝ることになった。

 端から見たらまるで夫婦と子供の様な配置で、隆司だったらリア充爆発しろと言うこと間違いなしな状況であった。

 ミーナの足元の方にはアルが寝そべっており、クーとピピはミーナの布団の上で休んでいた。


「お兄ちゃん!」

 ミーナの機嫌はとてもよく、竜人の方を向くと笑顔を見せていた。

「ミーナ、今日は随分と機嫌がいいな。」

「何でもなーい。」


 ミーナは両親が居なくなってからは家族の団欒と言うものを体験できなかったので、今日みんなでゲームをしたことから昔を思い出していたのだ。

 エリスは何となくミーナの気持ちが理解できていたため、ミーナを笑顔で見つめていた。


 その夜は激しい雨が振り翌朝にはすっきりとした晴れ空が広がっていたが、道は昨夜の雨でぬかるんでいて馬車を走らせるのが難しくなっていた。

 今日の移動を早々に諦めた竜人は、近くに湖があるのをピピの偵察で知って今日はみんなで釣りでもしようということになった。


 湖に着いた一行は、アイテム袋から釣竿を取り出すと三人で並んで釣りをすることにした。竜人は釣りをするのが好きだったので、よく川釣りをしていた。

 (さすがに異世界にはルアーはなかったな。まあ、初心者には餌で釣った方がやり易いか。)


「どんな魚がいるのかな? 魚が釣れたらムニエルにして食べたいな。」

「アルの分まで頑張って釣るからね。」

 ミーナがそう言うと、アルは嬉しそうに「ワン!」と吠えた。それを見てエリスは笑いながら、「後でクーとピピの分の木の実も探そうね。」と話しかけ、二匹はエリスに体を擦りながら喜びを表した。


 そして、竜人はエリスやミーナに釣りのアドバイスをしながらしばらくすると、合計二十匹を超える魚(鑑定で食べられることを確認済)を釣ることができた。

 釣りを終了したあとは、三人で辺りの散策をして木の実や果物を採ったり、竜人は使えそうな木を少しだけ切り倒してアイテム袋に収納していた。


 昼食は宣言した通りムニエルにすると、姉妹からは驚きの声が上がった。

「兄さん、この魚料理とっても美味しいです。これは兄さんの世界の料理何ですか?」

「お兄ちゃん美味しー。」

「ああ、ムニエルって言う魚料理だな。あー、でも米が食べたくなってくるなー。」


 竜人の実家は、基本的に三食主食は米を食べている。今ではパン食の家庭も増えてきている日本だが、家が古風なだけにご飯と味噌汁は毎朝必ず食べていた。


 そんな竜人が、異世界に来て一ヶ月も経とうとしている。その大半が移動に費やされているため、保存食などで賄っていることから余計に日本での食事が恋しくなっていた。

 (せめてこの世界にも米かそれに似たようなものがあればいいんだが。)


 その事を姉妹に話した竜人。

「お米ですか? 私は知りませんがもしかしたらこの世界の何処かに有るかもしれませんね。私も兄さんの世界の料理をもっと食べてみたいです。」

「ミーナも食べたいな。アルもそうだって言ってるよ。」

「そうだな。こっちの材料で何処までやれるか挑戦してみるか?」

 そう言うとみんなに笑いかける竜人。


 散策も終わり今日は早めに野営場所を見つけて休むことにした三人。夕食を済まして、昨日と同様オセロゲームを楽しんでいた。


「お兄ちゃん、またお話聞かせて!」

「しょうがないな。どんなお話が良いんだい?」

 やがて夜になりミーナにせがまれた竜人は白雪姫の話をすることになった。

 ミーナは物語のなかでも、お姫様が出てくる話を好んでいた。みんなが揃って竜人を見つめているなか、竜人は話し始めた。


 こんな幸せな時間が続けばいい。そう思いながら今の時間を噛み締める竜人であった。

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