第6話
白く光り続けるスマホに、グループラインに入っているメンバーの名前が繰り返し表示されている。ゆりか、みすず、かなめ、さとこ。スタンプの応酬に慣れていない私は既読をつけるのが怖くて、鳴り止まない通知をただただ見つめていた。
いつの間にか眠ってしまっていたようで、目が醒めて枕元に置いてある目覚まし時計を手元に寄せると針は深夜の3時を指していた。携帯の白い画面には一通のメッセージが表示されていた。
「きえちゃん、寝ちゃった?今、話せないかな」
ゆりかからのメッセージがきていたのは2分前だった。私はベッドからそろそろと上体を起こした。ときめきとも胸騒ぎともつかない、不思議な感覚が胸を襲っている。
お母さんを起こさないようにこっそりと部屋から抜け出して、玄関にあるパイプハンガーから薄手のコートを手に取った。外はこわいくらいの暗闇に包まれていた。街灯のぼんやりした光を頼りに、徒歩5分のところにある公園に向かう。夜風に吹かれて揺れるブランコに腰掛けて、携帯のリダイヤルボタンを押した。無機質な電子音の後に、ゆりかの声がか細く聞こえた。
「きえちゃん?…きえちゃん?」
その声に涙が混じっていることに気づいて、慌てて「どうしたの」と返す。
ゆりかの鼻をすするような音が耳の近くにした。
「ねえ、きえちゃん。今日はごめんね。無理矢理グループに入ってもらっちゃったみたいで。ゆりか、そのこと考えたら眠れなくなっちゃったの」
舌ったらずな声がほんの少し上ずっている。ゆりかの精神状態が安定していないことに私はすぐに気づいた。
「ごめんね、ごめんね」とくりかえすゆりかにいくら「大丈夫だから気にしないで」と受話器越しに話しかけても、一向に泣き止む気配がない。私は今にもこなごなに壊れてしまいそうな女の子の声に黙って耳を傾けつづけた
ゆりかがようやく電話を切ったのは2時間後だった。見上げると空と溶け合いそうなぼんやりとした朝日が私を見下ろしていた。ジャージをまとったランニング中の若い女性が訝しげな顔をこちらに向けていたので重い腰をあげる。家に帰ると幸い、お母さんはまだ起きていなかった。目覚ましが鳴る15分前に寝床に潜り込んで、私は重くなった瞼を閉じた。
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