僕は君の瞳が好きだった。
芳香サクト
少年少女は大人になり、やがて成長していく
俺はある夏の日、花火を見ていた。それは夜空いっぱいに点々として、どこまでも透き通るような花火だった。
みんなはそれに感動し、ついには、ローカルテレビの生放送まで取り上げるくらいだった。そんな中、一人の少年が俺に声をかけた。
「お兄さん、どうして花火がきれいなのに泣いているの?」と言われた俺は最初、その少年の言っている意味が分からなかった。ハッと我に返ると確かに俺の頬には涙が流れ続けていた。
「お兄さんの気持ちも少しだけどわかるよ。」
少年の一言で俺は疑問点が浮かび上がった。
そして聞いてみた、「どうして、俺が泣いていることに納得がいくんだい?」と聞くと少年は少し俺から目をそらした後、こう言った。
「僕も…お兄さんと同じで大切な人をなくしてしまったから…」
そういうと少年は「じゃあね」といって俺から離れていこうとした。
俺はこの時、この少年は俺と同じ気持ちなんだ、これは同じ気分になった俺じゃないと分かってあげられないなと思い、俺はつい言ってしまった。「よかったら、話してくれないかな?」
少年は最初は驚いた表情をしていたが、すぐに「良いよ、特別にお兄さんにだけ話してあげる」と言った。
そして少年は口を開きこうつぶやいた「あれは…そう今のように花火がとてもきれいな日だった。」
◆
僕は、昔はとてもやんちゃで人のことなんか気にしないような人だった。
そもそも人間そのものに嫌気を感じていた。つまりは自分が嫌いだったのだ。
ある日、いつものように一人でいた僕に一人の少女が話しかけてくれた「どうして、君は人とお話したり、遊んだりしないの?」って言われたときは驚いた。
僕はすぐに「人とかかわるのが嫌なだけなんだ。」って言ったら、「じゃあ、私があなたのお友達になってあげる」なんて返してくるんだ。
僕はその時に、聞いてなかったことを聞いた「お前、名前は?」と…ありきたりだと思ったけど「私の名前は、遥、近江遥だよ。よろしくね。君の名前は?」って言ってくるもんだから、しょうがなく「僕は、優太、東ヶ崎優太だよ。」って答えた。
後になって思うと、僕はこんな奴が僕のこれからの人生を大きく変えてしまうなんて思ってもみなかった。
遥と話してから一週間、だんだんと僕に対する周囲の嫌悪の目が弱くなっていった。
これも遥が僕のいないところで頑張ってくれたんだなと思った。
ある日、僕はいつもより早く学校に登校した。
どうせ今日も遥が僕に付きまとってくるのだろう…と考えながら教室のドアを開けた。するとそこにはいつも僕より先に来て本を読んでいた遥の姿はなく、代わりに教卓の上にこんな紙があるのを発見した。『近江の娘は預かった。返してほしかったら一人で校舎裏の空き倉庫に放課後来い、間違っても警察や学校のみんなには話すんじゃないぞ。話したら近江の娘を殺すからな』
その瞬間、僕は何も考えていなかったというより頭が真っ白になった。何を思ったのか僕はダッシュで家に戻り、鉛でできた練習用の剣を一本、腰に担いで校舎裏の空き倉庫に向かった。
空き倉庫の中を開けて「遥、助けに来たぞ!いたら返事をしてくれ!」と呼び掛けてみた。すると、少し遅れて「私はここだよぉ~」と情けない声が響いたかと思うと、突然照明が明るくなり遥を誘拐した犯人らしき人が出てきた。
そいつは覆面をしていたので素顔が見えなかったが…そしてそいつは僕が一人であることを確かめてから話した。
『約束通り一人で来てくれたね、もちろん近江の娘は傷つけない、だけど君には代償として死んでもらうしかないね。』
◆
死んでもらう…そんなセリフなんて小説や映画の中だけばかりだと思っていた。だけど現実的に言われることになるとは思ってなかった。
そして、そいつは指を鳴らしどこからいたのか奥からぞろぞろとそいつの手下らしき人が出てきた。そいつは一言『やれ』と言って僕に襲い掛かってきた。
僕はとっさに腰についていた鉛の剣を抜き立ち向かった。手下たちと僕のやり取りはすぐに決着がついた。僕は教えてもらった師匠の真似をして二本目の剣を襲い掛かってきた相手から奪い取ると師匠のをただみているだけだった、《剣技 薔薇姫》を見よう見まねで相手に向かって奮った。手下たちは『そ、そんな、バカな…』と一言つぶやき意識を失ったようにガクッと倒れた。
リーダーみたいなやつは僕が手下たちを倒したのに納得がいくような表情をして、「流石だ、かつての神童は伊達じゃないようだね。今回は引かせてもらうけど、次に会ったときは容赦はしないよ。」といい、身を翻した。
僕は、そいつを追いかけようとしたが遥の方が優先と思い、遥のいる場所に行った。
遥は、空き倉庫の片隅にロープで縛られながら泣いていた。僕はそっと遥に近づき、「もう大丈夫、怖かったよね。」とこれしか声をかけることができなかった。
すぐに僕は、ロープに手を伸ばしロープを自分の剣で切った。そして遥にまだ微かに震えている手を伸ばして「帰ろう、僕たちがここで起ったことはほかの人には言っちゃダメだから」遥は頷くだけだったが僕にはそれだけで充分だった。
外に出ると夕日が見えていた。来た時にはまだ朝だったのに、時間がたつのが早いなと思った。
僕は遥に「今日は送って帰るよ。」と言った。
遥は「うん、ありがとう」と返事をした。
◆
『遥誘拐事件』は警察に伝わりはしたがマスコミが出ることはなかった、それもそのはず、僕の親父が警察署の刑事だから俺が頼んで内密にしてもらったのだ。
遥はそのあと一週間くらい学校を休み続けた。その間、僕は先生に、「遥は大丈夫ですのでみなさん心配しないでください」と言った。
それから一週間後、遥が学校に戻ってきた、遥は最初、僕の顔色を伺った後「なんて顔をしているのよ…せっかく私が帰ってきたのに…
もう、ただいま…優太。」と笑顔で話しかけてきた。
僕は「君が帰ってくるのを待っていたんだよ…おかえり、遥」と言い返した。
そして遥は僕に一歩近づき耳打ちで「助けてくれてありがとう…優太、大好き」とボソッと言った。僕は「ああ、もうこんな事に巻き込まれるんじゃないよ、え?遥、今、なんていった?」
後半、何を言われたのが最初分からないままポカンとしていて遥の顔を見たら鼻の先まで真っ赤に染まって去って行ってしまった。
僕はその瞬間に言葉の意味が分かり、遥の後を追いかけた。
足は僕のほうが断然に速いのですぐに追いついた。
僕は遥の肩をつかんで息切れしながら「あれ、どういう意味だよ。」と感情輸入してしまったのかつい強くいってしまった。
遥は少しびっくりして「ついてきて」と僕を強引に引っ張って体育館裏の倉庫に連れていかれた。そして遥は「まさか女の子に同じことを2回も言わせるの?」と小悪魔のような笑みを浮かべて「まあ、しょうがないか…私は、優太のことが好き、優太が私を助けてくれたとき私は恋に落ちたの。」と告白してくれた。
僕は、「遥、僕は正直戸惑っている。だからこの気持ちが治まったらちゃんと返事をするから待ってて。」僕は今のこの素直な気持ちを遥に話した。
遥は僕を強く抱きしめて「絶対だからね、約束だよ。」と言ってきた。
僕は戸惑いながらも「分かった」と頷き、抱きついてきた遥の頭を何度も何度も撫でた。
教室に戻った僕と遥は、友達(遥のおかげで出来た)に「お前、遥に何を言われたんだ?」と聞かれた。僕はチラッと遥の顔を見た、遥は(できれば言わないで)というのが表情で分かった。
だから僕は少し濁ったような表情をして、「前に、一週間くらい遥が休んでいたでしょ?その時のお礼を言ってもらっただけだよ。」と言った。
友達はそれで納得したのかそれ以上は追及しなかった。
◆
それから一か月たったある日のことだ。いつものように登校をし、学校に着いた僕はふと、違和感に気づいた。もう、1時間目が始まるというのに遥が来ていないのだった。
僕は、友達に「遥って今日学校にいたか?」と聞いた。友達は「いいや、遥は見ていない、普通に欠席じゃないか?」と回答した。
僕は「そ、そうだよな、悪いな」と言って席に着いたが、なんだかもやもやしたものがこみあげてきて嫌な予感を感じながら、先生が来るのを待った。入ってきた先生は僕の姿を見て「おい東ヶ崎、この後職員室に来てくれ」と僕を呼んだ。この瞬間から僕の中の嫌な予感は増幅しはじめていた。先生は職員室に来た僕を見て、「来たか、まあ、座ってくれや。これから話すことはとても重要なことなんだ」
そういうと先生はコーヒーを一口飲んで「さて、いいか東ヶ崎、落ち着いて聞いてくれ、実はな、近江が交通事故にあった。」と言った。
僕はその時、動揺もせずに落ち着き払った様子で「それで遥は大丈夫なんですか?」と聞くと、先生は「まだわからん、ただ大型車にはねられて意識不明で救急車に運び込まれたらしい。」僕は、そのことを聞いた瞬間「遥は、どこで事故に巻き込まれたんですか?」と事件を解決したい刑事の真似をして聞いた。
すると、先生は「倉庫の近くの交差点だ、赤信号を無視した暴走車が遥をはねたらしい、そいつは現在も逃走を続けているそうでこの付近では警察がうろうろしているらしい。」と悲しみに満ち溢れたのか少し籠った声で答えてくれた。
僕は持ち前の手帳にその情報を書き始めた。その光景を見た先生は「ちょ、ちょっと待て、優太、お前、まさか犯人を捕まえようなんて考えてないよな?」と質問してきたけど僕は「僕は、犯人を捕まえたいんです。遥が登校中にあの交差点に行く理由なんてめったにないことなのでその前にいた僕がしっかりしていたらこんなことにはならなかったのです。」と決意をあらわにして先生に言った。
すると、先生は「ダメだ、子供にこんなことなんて出来るわけない。それにもしも犯人を特定できても何をされるのかわかったもんじゃない、危険だ。」と当然のように言った。
僕は俯きながら「僕は…今まで友達がいなかった。でも遥のおかげで僕は強くなったし、友達もできた。今回のことは今まで僕に手を差し伸べてくれた遥のお礼と感謝の気持ちで事件を解決したいんです。それに僕は警視庁刑事の一人息子です。そう簡単には死ぬほどのヤワじゃないですよ。」と言った。
先生は「はあ…全く、お前という奴は…しょうがない、今回は早退という形で学校には提出しておく。だがな、そこまで言ったのなら必ず犯人を特定し、逮捕して見せろ。」と言われたので、僕は勢いよく
「はい、絶対に捕まえて見せますよ。」と胸を張ってそういった。
さっそく僕は教室に戻りみんなが僕に質問をする前に「悪いけど、僕は早退するって先生に言ってきたから、じゃ」と言って、ダッシュで家に戻り、持ち前のケータイと2本の剣を持って県警へと自転車を走らせた。
◆
県警についた僕は、「親父はいますか?重要なことがあるんです。」と受付の人に聞くと「東ヶ崎刑事は今朝発生した事件に向かっています。なんでもこの付近で交通事故があったらしく…」と受付の人が言った時には県警を後にし、事件現場の場所へと自転車を走らせた。
事件現場の交差点は交通規制が掛かっているらしく、最初は簡単には入らせてくれなかった。
でも父さんの姿を見つけたとき、僕は「親父」と一言、父さんに言っただけで、中に入れさせてくれた。
僕は普段『父さん』と呼んでいる。だけど『親父』と呼ぶときは僕が特別に参加させてくれているということを父さんに知らせる合図だ。実際に僕は父さんが参加している部署にはお世話になっているし、裏情報の要、とも呼ばれているくらいの腕もあった。
父さんは僕を見て何かを悟ったらしく「頑張れよ、今回もまたお前の力が必要なんだ。」と言ってくれた。僕は「任せといて、今回の事件は絶対に僕が解いて見せるから」と言った。
さっそく僕は事件周辺の聞き込みを開始した。とはいっても時間帯が時間帯なだけであって目撃情報はほとんどなかった。それでも遥がこの交差点に来たことは確証ができた。
僕はさっそく親父に「そこまでの情報はもらえなかった。そっちはどう?」と聞いた。
すると親父が「いいか、よく聞け、今回の犯人の目星がついた。」と自信にあふれたような目で僕を見た。僕は「本当?そいつはどんな奴?」と親父に尋ねた、すると「意外なことに、こいつは以前にも被害者を襲っている人物だ。」と静かな声で言った。
その瞬間、僕は犯人が分かってしまった、というか思い出した。といったほうが正しいか。親父は続けざまに「そいつの自宅の場所もわかっている。今から乗り込むが…ついてくるか?」と僕の腰の剣を見て言った。僕は「ああ、今回の事件は絶対に負けるわけには行かないんだ。」と闘志をむき出しにして言った。
◆
それから数時間後、僕と親父は犯人の自宅へとたどり着いた。僕は持ち前の2本の剣を腰に差し、親父は拳銃をホルスターにしまって犯人が出てくるのを待っていた。
この時の僕は遥の仇を打つことだけを考えて待っていただろう、しかしそれとは違ってもう1つ別の思いがあった。それは遥が僕のことを少なからず好きと言ってくれたことのあとに起きた悲劇だからやるせないような気持ちで僕は刀を構えていた。
それから10分犯人が一向に出てくる気配がない、もしかしたらこの行動がバレているんじゃいかという不安もあった。
だけどこの捜査にまだ子供の僕がいることなんて知る由もないだろう。と考えていたら親父につつかれた。「おい、緊張しているか?これから起きることは下手をしたら俺もお前も死ぬだろう、だが、生きて帰ってくることを考えていたら判断が鈍る。もしどうしてもだめな時は自分を信じろ。最終的には自分で何とかしていかないといけないんだ。」そういった親父の目は僕なんかよりもずっと、ずっとずっと真剣な目をしていたような気がした。
それからしばらくして、サングラスをかけた一人の男が出てきた。僕と親父はそいつの後を追いかけて後ろに警備隊がいることを確認してから親父が僕を見て軽くうなずく、僕もそれにあわせて頷いた。やがてサングラスの男は尾行されていると気が付いたのか大通りではなく細い素地裏に歩いて行った。僕は親父に「バレているんじゃないか?これ以上は危険だよ。」と促したが親父は「だからいいんだよ。バレているかもしれないから奴は細い道に行ったんだろ?そうなれば後は、お前がなんとかすればいい、遥ちゃんの仇を打ちたいんだろ?それにあんまり言いたくないんだが、今回、お前は『薔薇剣』を持ってきている。これも遥ちゃんの仇という意味なんだろ?でもな、薔薇剣は最悪肉体も滅んでしまうものなんだ、緊急時以外は使うんじゃないぞ。」と言ってにっこり笑ったような気がした。
僕は心の中でなんでも分かってしまうなぁと思ってしまっていたのであった。
僕たちはサングラスの男を追いかけていた。しばらくたつとサングラスの男が誰かと話しているのが目に入った。親父は「今かもしれない、もし何かされそうになったら その時は…頼んだぞ」と言い親父は目の前の2人に話しかけようと前に出たその時、「動くな!」と親父に向かってサングラスの男がピストルを向けていたのだ。「お前たちの行動は最初からバレていたんだよ。久しぶりだな、そこの坊主、この前はよくも俺の大切な部下たちをコテンパンにしてくれたな。礼を言うぜ。お前に負けてから俺の連中はもっと強くなった。今ならお前にも勝てる、ついてきな。」と犯人は僕に向かって脅しのようなことを言ってきた。
親父は「行くんじゃない、お前はまだ幼い、どんなことをされるか分からないんだぞ」と言った。
僕は少し考えたが、「分かった。お前たちがどのくらい強くなっているのか僕が見てやる。」と犯人に向けて言い放った。
それから目線を親父に向けて「親父、悪いな、今回ばっかりはちっとわがままを言わせてくれ。」と謝った。
サングラスの男はそんな僕を見てうれしそうなのかへらへら笑いながら「いいぜ、こっちだ」と言われた。
サングラスの男は僕を連れてきて言った。「ここだ。決闘はこの体育館で行う。あの時と同じくらいの体育館を用意させてもらったぜ。それと、もう1つ、今回はうちの部下は本気でお前を殺すようになっている。お前も本気を出しな、警視庁の最強の剣士『妖精の騎士』さんよ。」その名が出た瞬間、僕はサングラスの男を見た。
僕はサングラスの男を睨んで「どこで知った?その名を知っているのは警察の連中だけのはず…まさかお前、以前、警察にいたのか?」と言ったとき、「ボス、早く殺りましょうや」と声がした。
サングラスの男は「わりぃが、ここからは勝った後に聞きな、それじゃ始めるぜぇ」
こうして僕は犯人たち率いるチームに戦いを挑まれたのであった。
◆
「なるほど、そんな過去が君にあったんだね。そういえば俺も同じような経験をしたことがあるなぁ、その時は…あれ、どうなっていたっけな」俺は、疑問を持ちながら隣で今まで話してくれていた少年のほうを向いた。
その時、俺は「おや?」と不快にも思ってしまったのである、その少年は俺と同じ傷跡があった。ただ違っていたのは少年のほうが乾き方がそこまで乾いていなかったことだ。俺は少年に聞いてみた。
「そういえば、名前を聞いていなかったね。君はなんて言うんだい?」と言った。
少年は「僕かい?僕の名前は東ヶ崎優太だよ」そういった少年の目は何かに気づいてニコッと見る目だった。
俺は、今、少年が言った一言を信じられないような気持ちで聞いていた。そして、掠めるような声をしながら俺は「嘘…だろ?じゃあ、お前は…」後半は少年にも俺にも何を言っているのか聞き取れなかった。少年は首を傾げ「どうしたの?」と声をかけた。俺は「大丈夫だ、さあ…続きを話してくれ」と少年に話を催促した。
その時の花火はまだ続いていてもうじきクライマックスの大きい花火が上がろうとしていた時だった。
◆
サングラスの男に勝負を挑まれてからすでにかすかな時間が経過していた。僕は心の中で遥に対する自分の情けなさとそれにより起こった怒りをこいつらにぶつけてやろうと思い、「さあ、どこからかかってくるんだ?」と影の中に潜んでいる連中に向かって声をかけた。
「ここだぁ」と背後から声がした。だけど僕は背後にいるのは分かっていたから「甘い…」と一言、背後にいたやつを一突きで殺してしまった。
初めて人を殺してしまった感覚はとても何とも言えないくらいの心地よさだった。
その時から僕は呪われた2本目の剣『薔薇剣』に取りつかれ、自分自身の自我が見えていなかったのだろう、連中に向かって「もっとだ…もっとカカッテコイ」と2本目の剣を取り出しながら歩いていた。 その間も襲い掛かってくる連中を片っ端から殺していった。中には逃げ出すような人もいた。
僕は「ニゲルンジャナイ」と逃げようとしていたやつも地面に置いてあった剣を投げて殺してしまった。
そして僕の体は連中の返り血で服が真っ赤に染まっていた。
サングラスの男は「こ、これがフェアリーナイトの本当の実力…ええい、お前たち相手は1人なんだ。どんな方法でもいいから殺すんだ、殺せぇー」と悲鳴に満ちたような言葉を発しながら僕から遠ざかろうとしていた。
僕は「勝負を仕掛けてきたのはオマエタチダ、それなのにこっちは全力を出していないんだ。もっと楽しもうぜ。」といいドアを剣で刺し開けないようにした。
逃げ場を失ったサングラスの男は完全に我を忘れて、「くっそぉぉぉぉぉ」と逆に僕に襲い掛かってきた。
僕は「呆れたやつだ…この程度の力で僕にかかってくるなんて、少し現実を見たらどうなんだ」と言いながらサングラスの男の剣をはじき、遥か彼方に吹き飛ばした。
サングラスの男は僕に膝をつき「完敗だ、フェアリーナイトの実力がこれほどまでの力があるなんて思っていなかった。」と敗北の宣言をした。僕は「分かった。その前にお前の素顔を見せてもらおう。」とサングラスをとろうとした時だった。
「フハハハハハ、甘い、甘いんだよ。」と腰に隠しておいたのだろうナイフを僕の腹に突き付けてきた。「フェアリーナイト…お前はすごく強かった。だがなその信じようとしない心がこれからも後悔することになるぞ、現に遥が生きている保証はない、うっ」その瞬間、ダーンとピストルの音がして、男は動けなくなっていた。
僕はびっくりして背後を見た、そこには拳銃を構えた親父が立っていた。
「おい、大丈夫か、優太」この時、親父は初めて僕の名前を呼んだ。
僕はその瞬間に我に返り「親父、僕は生きているよ。」と安堵の表情で言った。
そしたら親父は「バカ、あれほど『薔薇剣』を使うなと言っただろう、もう少しで自分が壊れてしまう所だったんだぞ、今、自分が保てているのが奇跡なくらいだ。」と親父は僕を怒り、「それでも、生きてくれて良かった。」と僕を抱きしめた。
僕はその瞬間に全身から力が抜け、倒れこむように意識を失った。
◆
「優太、優太、起きてよ…優太、ねえ、起きて、遅いよ。」どこからか声がする。
僕はそれに反応するかのように体を起き上がらせた。「ちょっと、待ってくれよ。僕を置いて行かないでくれよ。」でもその声の主は僕の呼びかけに構わず、どんどん先に行ってしまう。僕は必死に「行かないでくれ、僕を一人にしないでくれよ。」と言い続けた。やがて、その声は遠くなっていき、遂には、何も聞こえなくなった。僕は寂しさのあまり「うわぁぁぁぁー」と叫び、力が抜けたように膝をついた。
そして僕は… 僕は…
◆
「ハッ…なんだ夢か」僕はかばっと起き上がった。どうやら眠っていたらしい、朝日が立ち上っていた。
そしてキョロキョロと周囲を見た、「ここは…?どこだ?確か、僕はこの付近で会った交通事故に巻き込まれて…それでどうなったんだっけ?」
そこまで考えたところでふと気が付いた。
見知らぬ女の子が僕のそばですやすやと寝息を立てているということに…
その女の子は僕が起きたことに気づいて「大丈夫?けがはない?」と僕に話しかけてくれた。僕は少しかしこまった表情をして「あのさ、僕たち、どこかで会いましたか?」と聞いた。
その女の子は少し驚いた表情をして「そっか…おじさんが言っていたことは嘘じゃなかったんだ。」と呟いた。
あの事件の後、私はおじさんに事件の全貌を聞かされた。優太が呪われた2本目の剣『薔薇剣』を使って私を助けてくれたこと、その影響で優太の記憶が無くなってしまったということ…事件の犯人が私をよく知ってくれていた人だったということも…
僕は「分からないんだ、何もかも…自分がなぜここにいるのか、どうして君が僕のそばにいるのかも…」と申し訳なさそうに言った。
その女の子はニコッと笑い「それじゃあ教えてあげる、君の名前は『東ヶ崎優太』っていうんだ。そして私は『近江遥』忘れちゃっているかもしれないけど私は君に告白したんだ。そして君は…」
◆
最後の大きい花火も終わり、少年の話を聞いていた俺はふと、疑問に思った。
「君は記憶がなくなったんだよね?じゃあ何で今までの事を話したりすることができるんだ?」当たり前の質問だったと俺は思う、ふと少年を見るとニヤッと笑い、答えを言った。
「もちろん、遥と名乗る少女が僕にこれまでのいきさつをすべて話してくれたんだ。これまでの話はそれを軽くまとめた話だよ。ついでに言うと、遥はその後、親の仕事の影響で転校してしまって連絡がついてない状態なんだ。それじゃあ花火も終わったし僕は行くよ。それじゃあね、お兄さん、今日は話を聞いてくれてありがとう。」
少年はそういうと人ごみの中に紛れて行った。一人残された俺は少し考え事をしていた。
「ん、でも待てよ。サングラスの男が出てきた話…あの時の遥は確か、重症だったはずだ。じゃあ、どうして遥はそれを覚えているんだ?一回もあの話の中では出てきていなかったはずなのに…まさか…」
俺は一つの真実にたどり着きそしてその答えで納得しようとしていた。
その時、背後から声がした。
『ねぇ、どうして、君は人とお話をしたり、遊んだりしないの?』
その瞬間、俺は声のした方向を向いた。するとそこにはかすかだが、見覚えのある女性が立っていた。
「まさか…君が遥なのか?」
俺は声にならない声を出してその女性に向かってしゃべった。その女性は涙ぐみながらもはっきりとした声で言った。
「そうじゃないでしょ?優太。昔のまんまの答え方をして?」
その言葉に俺も涙を流しながらこう答えた。
『僕は…僕は、人と関わるのが嫌なだけなんだ。』
その瞬間、遥は俺が優太だと確信したのか俺に抱き着いてきた、俺はそんな遥をしっかりと受け止めた。
「優太!!優太!!よかった!思い出してくれたんだ!」
「遥!!遥!!ようやく、君を見つけることができた。」
その時、花火が終わった星空に一人の少年と少女が仲良く手を繋いで星空の向こうへ歩いて行ったのが俺には見えたような気がした。
◆
「ねえ、優太?私、優太に約束をしたの覚えている?」
遥は帰り際、そんなことを言い出した。
「約束?」俺は全く、ピンとこなかった。
「むー、優太の鈍感、ばーか。」
遥はふてくされたようにぶーっと頬を膨らませた。
「そんなこと言ったって、覚えてないものは覚えてないんだもん。」
苦し紛れの言い訳だった。
遥はそんな俺を見てニコッとしてあの時と同じように言った。
「覚えてないならいいか、あのね、優太。私は優太の事が好き、あの時からずっと、あの時の事件で私を助けてくれただけじゃなくて私の心も助けてくれたの。だからね、優太、私と付き合ってください。」
遥は少々顔を赤くしながら、自分で頬を隠していた。
俺はそんな遥を見て言った。
「何だ、約束ってそんなことだったんだ、それならずっと答えは決まっている。勿論、OKに決まっているよ。」
この言葉を言った後に、俺は優しく遥を抱きしめた。
それはもう、まるでこうすることをずっとずっと待っていたかのように…
僕は君の瞳が好きだった。 芳香サクト @03132205
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