第4話 因果応報説的「天狗のかくれみの」

序論


これは、熊本県八代地方に伝わる知恵者と知られる若者、彦一自身が引き起こした因果応報の寓話である。

「にほんごであそぼ」でオール熊本弁で野村萬斎さんが演じてらしたのを見た時には、


よくぞこのようなマニアックなネタを拾って下さったな…

と半ば嬉しく思い、半ば呆れた。


彦一とは?

日本三大とんち男の一人であり、京都府在住一休さんこと一休宗純。福岡在住の吉四六きっちょむさんと並び、知恵と笑いで長く愛されてきた。

そう、

「ゴジラvsガメラvsモスラ」の如く、とんち界でのオールスタンダードなのである。


童話では少年と思われていた彦一の実体は、肥後国八代藩に仕える下級武士で、妻帯もしており傘張りなどの内職をして生計を立てていた青年である。地元では案外個人情報知られている男なのだ。


本論・猪口才やつ彦一


猪口才やつ。とは、


お猪口を満たすレベルの才しかなく、それでも自分では誰よりも利口だと思ってやがる生意気なやつ。


という意味である。こういう奴にハリーのポッターうじが愛用する透明マント。りんごの好きな死神がくれる黒いノート等のふしぎアイテムを与えてしまったら…


悪用するに決まってるでしょうが。


さて、主人公彦一は毎日金が足りない。でもガキの頃から覚えた酒はやめらんねえ。何かタダで酒飲めねえかなあ…と思いを巡らせていた。


そんな時に「この頃山頂で天狗が現れるそうな」という噂を聞いた彦一は、いっちょうやってやろうか。と行動に出た。


天狗とは本来、孤高の生き物である…

高い鼻。赤い顔。一本足の下駄に羽根扇。

さて、この天狗は地方の山に修行に来た修験者がモデルという説が有力である。


俺はこの通り異形で怖がって誰も近寄らない。

だが、俺が背負っている隠れ蓑は他の誰も持っちゃいねえ…ふふん。


と一人悦に入ってらっしゃった時に、

「あー、この遠眼鏡は向こうの山までよく見えるなあー」と当時は超高級品であった青竹っぽい遠眼鏡を構える若者彦一に、天狗の心はときめいた。


「その遠眼鏡青竹モデル…くれない?」

「えーでもタダじゃないこと位分かってるよね?」

「よし、この隠れ蓑と交換だ!」


買い物の基本、製品の動作確認をしないまま天狗は隠れ蓑をタダの青竹一本と交換してしまった。


「おい、何も見えなくて真っ暗だぞ…やられた」

孤高とは、世間知らずの事であり案外騙されやすい。


さて、猪口才やつが隠れ蓑を被り透明人間になってまずした事は、

やはり一番の欲求である酒を盗みたい。酒屋に入った彦一は柄杓で樽から酒をすくい、たらふく飲んだ。

もちろん見えてないので誰が犯人かなんて分からない。


やった!これで一生タダ酒が飲める!

としたたかに酔った彦一は家に帰り、幸福な気持ちで眠ったが悲劇は朝起きた時に起こった。


気を付けよう、旦那のお宝嫁のゴミ。


俺がお小遣い貯めて買った漫画全巻。

アニメDVDの完パケ。

まだクリアしてないRPGのゲームソフト。

それに同級生のあの子から貰った袖を通していないブランド者のセーター。


嫁の

「あ、ヤ○オクとブック○フにぜーんぶ出したわよ」

の一言で全て失ってしまったことは無いかい?おいおい、売上金はワイフのサイフに行くんだろ?

HA-HA-HA-HA!なスタンダップコメディはこの際置いとこう。


さて夜が明けて、

「あなたが昨日持ってきたきったない簑、かまどに入れて燃やしといたから」


という嫁の非情な一言で彦一は目覚め、お宝を失ってしまった事を知った。

この時の彦一の絶望はお宝フィギュアを勝手に嫁に売られた場合より、深い。


しかし嫁とは、旦那のお宝なぞ「金をかけて集めたゴミ」か、「メ○カリの相場で3000円」しか思っていない生き物なのである。


ついでに言うと、自分の欲を充分満たしてくれない旦那すら棄ててしまいたい。という黒い本音を抱えていたりもする。


彦一よ、世の旦那がたよ。「これは捨てたらいかん!」と説明責任は果たしておこう。


ジタバタする彦一

「お前はなんて事をしてくれたんだ…!あれは大事なお宝で…」

「ふーん、どんなお宝?」

言えない。あれを被って酒を盗み飲みしたなんて知れたら。疚しい動機と手段で手に入れたものの説明責任すら果たせないダメ夫、彦一。


もうタダ酒は飲めないのか?と頭を抱えていたところに猪口才知恵が閃いた。


素っ裸になり、かまどから隠れ蓑の灰を体に塗りつける夫の姿を横目に見ながら、


やっぱりこの亭主、捨てたい。と思う彦一嫁であった。


思った通り灰にも透明人間になれる効果があり、再び透明になれた彦一は前日の酒屋に入って酒を盗み飲みし、


「かーっ、うまかあー」と舌なめずりした時、


唇だけが宙を浮いている!

と店主に目撃されて追いかけられ、逃げる彦一。走って逃げる内に汗で灰は流れ、自分が真っ裸のまま村中の人に笑われているのに気付いた時にはもう遅かった。


村人

「やーい、彦一のストリーキング野郎」


それを山の頂上から見ていた天狗、

「お前の醜態は遠眼鏡なんか無くてもまる見えだぞ!バーカ、バーカ(笑)」


結論


危ない道具を悪用した者の末路なぞ、たかが知れたものであり、猪口才知恵を用いて稼いだ成金のインターホンを押して来るのは、


綺麗な段ボールを持った地検の人だったりする。

































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