3-10:染戦2
三人はリッカの家に着くと、妙な雰囲気を感じた。
「あれ、この感じ、どこかで……」
「心理世界の深いところに行く時の感覚に似てるわね」
「おそらく、此処から先は、誰かの心理世界に直接繋がっている。それがリッカちゃんのものなのか、あるいはヨーイチのものなのかは分からないけどね」
ライチは続けて忠告する。
「いいかい?いつもは体を残して心理世界に入るけど、今回は体ごと持っていかれるだろう。中で魔力を使い果たすことは、存在そのものの消滅となる。気をつけることだ」
「はい」
「ま、気をつけていきましょ」
三人は玄関の扉を開けると、光りに包まれた。
◆心理世界侵入◆
三人が飛ばされたのは、魔法領域とかした現実世界の公園だ。
「やはり、か」
ライチの想像は当たっていた。一度完全位封鎖した公園に飛ばされること。そして、そこにヨーイチが待ち構えていること。
「ようこそ。オレの、いや、オレたちの心理世界へ」
三人を出迎えたのは、黒魔法使いヨーイチ。見慣れた黒ローブだが、手に持つのは黒い水が入った小瓶だ。
「オレたちのってのは、どういうことだ?」
ライチの問に、ヨーイチはしれっと答える。
「オレとリッカ、二人で作った心理世界ってことさ。ただまあ、まだ不完全ではあるがね」
「リッカ……?リッカはどこだ!?」
今にも飛び出しそうなミライだが、すんでのところでこらえている。
「ああ、リッカなら、ほら。あそこにいるよ」
ヨーイチが指差す方向には、うつろな目でベンチに座るリッカがいた。
「安心してくれ。まだ安全さ」
「まだ、ですって?」
ミライ以上に飛び出しそうなマモリも、こらえて問う。
「オレはね、リッカとの約束を守らなきゃいけない。そのためには、まず、お前が持つリッカの魔力を取り戻す」
「取り戻して、どうするつもりだ……?」
「リッカは悪い魔法使いになって、オレが倒す。それで、約束は守られる」
「……やはりそうか。キミは、その約束に縛られて黒魔法使いになったのだな」
ライチの指摘は、あながち間違いではなかった。守ると倒す、この二つの約束の打ち、何かがきっかけで、倒すことが強くなり、そして、黒に染まった。
「ご名答、と言ったところか。オレはこの力で、約束を果たす。お前はどうなんだ?ミライ?約束も何もないお前が、オレを止める必要はないだろう?」
「そ、そんなこと……」
ミライはまだ、迷っていた。
「そんなこと、あるわけ無いでしょ!だいたい、ヨーイチはアンタの命を狙ってるようなもんなのよ!それに、このままじゃこの町だって”
「そう……そうだよね……」
マモリの言葉が、ミライの迷いを少しだけ吹き飛ばしたか。
「僕は、やるよ。僕が、自分を、この町を、そしてリッカを、全部守る」
ミライはカードを構える。
「それじゃあ仕方ねえな。守ると倒す、どっちが果たされるか、決着付けようじゃねえか!!」
◆染戦開戦◆
「”瞬間強化脚力『活性』!”」
まず飛び出したのはマモリ!赤のビー玉を踏み砕き、一直線にヨーイチに突っ込んだ!
(ぐっ、コイツ、速い!!)
予想以上の突進スピードに魔法展開が間に合わず、ヨーイチはその一撃を受けて吹っ飛んだ!赤、黄、緑の魔力が飛び散る!
「”一撃よ『増殖』し、仮初の騎士となれ!”」
すかさずライチが追撃を仕掛ける。紫の筆で描かれた絵の具がマモリの形を取り、再びヨーイチに突撃!
「同じ手を二度も食うか!」
ヨーイチが小瓶を地面に叩きつけると、黒い水が沼のように溢れ、ヨーイチの姿を地中へと隠す。
「隠れたか……?」
「ライチさん!後ろ」
「しまっ……グワーッ!」
ライチの後ろに現れたヨーイチが、黒弾を打ち込んだ!ライチの防御は間に合わず、緑の魔力が飛び散り、地面に吸われていく!
「お前の方はこんなもんか」
「いいのかい?キミこそ油断していて?」
「どういうことだ?」
「”覆い凍れ!『水』!”」
ライチの青いカードが噴水に飛び込むと、水がヨーイチの体を覆い、凍り始めた!
「よし、このまま……!」
だが、完全に凍る前に、その氷は内側から破られた!音を立てて周囲に砕け散る氷!このままではミライに直撃だ!
「”氷よ『留まれ』!”」
ライチの”
「なるほど、リッカから預かった魔力もそれなりに使いこなしているみたいじゃねえか」
ヨーイチは一見すると余裕に振る舞っているが、先程の氷の傷からは赤と紫の魔力が漏れ出している。
「だが、そんなもんじゃ、リッカは守れない」
ヨーイチの足元から黒い水がボコボコと煮えるように湧き出す。
「おとなしく、その力をリッカに返すんだな!!」
煮える黒水が、三人に一斉に襲いかかる!
ライチは『停滞』のカベで完全にガード!マモリは体力『解放』
でどうにか耐えた。だが、ミライは。
「しまった!」
「アタシたちへの攻撃は囮!?」
黒い波が、ミライを襲う。
「が、がああああっ!!」
体からは魔力が溶け出し、波に飲まれていく。そして、波が引けた時、ミライの姿はそこにはなかった。
「なんだ。こんなものか。強がってた割には大したことなかったじゃないか」
しかし、ヨーイチは警戒を解かなかった。
(妙だ。ミライが消滅すれば、リッカに力が戻るはず。だが、その力はどこだ?リッカの様子も変わりない。ということは……)
「”姿を取り戻せ『記憶』”」
ミライの呪文だ。だが、その姿はない。代わりに、マモリのポケットにある橙色のカードが光りだした!
「な、なんなのよ!?」
ポケットから飛び出した橙色のカードはミライの姿になった。
「うまく行ったっぽいね……」
「もしかして、ミライ……あんたそれ……」
「うん、僕の記憶を”
満身創痍であることには変わらないが、その存在は間違いなくミライであった。
「はははっ!!それだ!その力だよ!『記憶』!強すぎる力!オレにはそんな力を持つリッカを守りきることはできなかった!」
ヨースケの狂った笑いが響きわたる。
「だから、倒そうとしたのか?」
「ああ、そうだとも!最初の約束は果たせなかった。だから、もう一つの約束は絶対に果たす。そのためだったら、リッカを悪い魔法使いにしてもいい!それがオレの覚悟だ!」
「ふざけるな!リッカを守れなかったお前が、リッカを倒せるわけがないだろう!」
「ああ、昔のオレなら無理だった。だが、黒魔法使いとなったオレなら、できる」
ヨーイチの足元で再び黒水が湧き上がる。
「ミライ、お前を倒し、それを証明しようじゃないか。飲み込め!」
黒水がミライめがけて襲いかかる!
「”『磁力』反発斥力結界!”」
マモリの魔法が黒い波からミライを守る!
「マモリ!ありがとう!」
「長く持たないから、アタシが抑えてる間に一気に決めちゃって!」
「でも、どうやって……」
ミライに残されたカードは一枚。失敗は許されない。
「……一か八かだ!”飲み込み帰れ『水』!”」
ミライが最後の一枚の青いカードを黒水に投げ込んだ。
黒水の一部が、ミライの意志に従い動き、ヨーイチに襲いかかった!だが、圧倒的に量が足りない!
「よく考えたといいたいところだが、力が足りねえんだよ!」
「だったら、足せば良い。”ミライの領域を『増やして』全てを飲み込め”」
ライチが紫の筆を黒水に投げ入れる。黒水の色が、段々と青に変わっていく!
「これなら、押せる!」
青い水の渦が、ヨーイチに跳ね返った!
「……ああ、また約束を守れなかったなあ」
ヨーイチは渦に巻き込まれて、そして、動かなくなった。
◆染戦閉染◆
青い渦が晴れた後、そこには消えかけたヨーイチがいた。
「なあ、ミライ。オレの代わりに、リッカとの約束、守ってやってくれよ……」
「うん。最後まで、守りきるよ」
「頼んだぞ……」
それだけ言うと、ヨーイチの存在は消滅した。そして、魔法空間も消え去った。
◆心理世界脱出◆
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