20話「空戦」
「し……城が……鉄の城が飛んでやがる……」
それはフェロー連合の兵士の呟きであった。
港町モガムリブの山脈側には左右に切り立った岩山が存在し、その間には巨大な湿地林が存在する。魔物も多く存在し、誰も好んでそんな場所に行かない。冒険者と言われる、魔物専門の狩人達ですら、その地形的な問題から踏み込んでは行かない。
ただ、定期的に魔物があふれ出してくる関係から、森に向かって簡易な砦が存在していた。最果ての港町にまとまった軍隊が常駐している最大の理由であった。
また海上流通の要所でもあるため、フェロー連合の巨大な軍事練習が行われる場所でもあった。
その関係で、モガムリブに軍隊を集めるのはさほど苦労は無かった。諸処の理由で内海に大型船を入れる事は出来なかったが、外海に関しては問題無い。
大量の兵士によって、簡易的な砦は数日で堅牢な砦へと作り替えられ、町と砦の空間にも沢山の櫓や柵が敷かれた。
見渡す限りの兵力に加え、帝國の魔導騎士鎧装までもがそびえているのだ。
内心帝國に対する様々な思いはあれども、味方として一緒に立つその姿は頼もしいの一言だ。
事前に提示された情報は主に二つ。
敵は古代の移動要塞で攻めてくるだろう事と、そこに収容されていたであろう、異形の魔導騎士鎧装が1騎いるという情報だ。
もちろん他にもワイバーンやグリフォン、マンティコアなども確認されていると言うが、さすがにこれだけの大兵力であれば、問題にならない。フェロー連合が所有する、虎の子のワイバーン部隊もかき集められたのだ。
先の王国との戦争でその数が大幅に減っているため、ほぼ全てのワイバーンが集められたと言って過言では無い。さらに帝國のワイバーン部隊も合流している。
敵がいかに強大であろうと負けるわけが無い……そう、フェロー連合の兵士達は思っていた。
過剰戦力にもほどがある。恐らく帝國との大規模実戦演習としての意味合いの方が強いのだろう……そう、思い込んでも仕方の無い陣容だったのだ。
だから、森の奥から
少し分かりやすく例えると、東京ドーム二つ並べたサイズの鉄の塊が空を飛んでこちらに向かってくるのだ。それも大量のワイバーンを引き連れ、数え切れない魔導砲をぶっ放しまくりだ。
それでだけでは無い。とっくの昔に廃れたという、鉛の砲弾すら飛ばしながらジリジリと近寄ってくるそれに、剣と槍でどう立ち向かえと言うのか。
想像し辛かったら、是非近所のドーム球場に足を運んで欲しい。そしてその巨大な建築物が二つ分。高層マンションを横にしてもそのサイズには及ばない。
そんな巨大で圧倒的な質量が迫ってきているのだ。恐怖しない方がどうかしている。
しかも自分達を守ってくれる、魔導防壁を張る魔導士の一団を、実体弾が吹き飛ばしたのだ。
それが魔導士のごく一部であるという考えは吹っ飛んだ。
『こちら”キュウビ”! 敵軍は混乱している! 繰り返す、敵軍は混乱している!』
魔導戦闘空母アマテラスに届いたのは第90早期警戒飛行隊『キュウビ』のペガサス部隊隊長であるホース・ブランからだった。
もちろん空に上がったタケルにもその通信は届いていた。
……だが。
「それどころじゃねぇよ!」
今タケルの駈る魔導武士鎧装タケミカヅチは3騎を相手にしていた。1騎はズィーガー操る蒼白き魔導騎士鎧装で、ライフル状の魔導砲をぶっ放してきやがる。
だがタケルにとって厄介だったのは残りの2騎のワイバーンだった。
それまで対峙してきたワイバーンとは全てが違っていた。帝國のワイバーン部隊は今までの戦争がそうだったのか、連携という物をまったく取らなかった。戦功を焦る新兵の様に、全員が突出してくるのだ。飛び道具の無いタケルだが、相手にするのはさして難しいものでは無かった。もっとも飛び道具が無い事から、敵を墜とすところまではなかなか行かなかったのだが。
しかし今回の2騎は違った。この2騎同士の連携も完璧だが、ズィーガーの魔導鎧装を確実にフォローしてくるのだ。
今日はズィーガーを墜とす気だったタケルだったが、状況が一変していた。
空はワイバーンの大安売りだった。
ミコナの話ではワイバーンは貴重な戦力だと言っていたが、この場においてはまったくもって量産品レベルだった。
『くそっ! ちょこまかと!』
叫んだのはズィーガーだ。わざわざ魔導通信をつなげてくるのに理由があるのかわからなかったが、敵の状態がわかることは有益だ。タケルから刷れば聞くだけにしたいところだが、反応しないと通信を切られるので適当に相手をする。
「どうしたズィーガー! 今日は俺を地面にたたき落とすんじゃなかったのか!?」
『うるさい! 貴様は黙って墜とされろ!』
「無茶言うぜ!」
実際にはタケルはかなり押されていた。
理由は簡単だ。タケルの駈るタケミカヅチに飛び道具が無いのだ。アマテラスに積んであった魔導鎧装用のライフルを復旧できたのは数日前だった。徹夜で使えるようにしてくれた整備員達には悪いが、タケルはそれを使う事を拒んだ。
訓練する時間は殆ど無いし、ぶっつけ本番で飛び道具など使ったところで当たる気がしなかった。
タケミカヅチには当然火器管制機能が搭載されていたが、この数日でそれを使いこなせる自信は無かった。
それならばとタケルは戦闘攻撃飛行隊隊長スワロー・バイロンと、剣による模擬戦を磨いたのだ。
……ちっと判断を誤ったかな?
ワイバーン2騎に苦戦している理由がもう一つあった。
それはその搭乗員が爆裂魔法を使ってくるのだ。てっきりワイバーンの火炎弾攻撃が来ると思っていたタケルは二重の意味で予想を裏切られた。そもそも爆裂魔法は飛距離も無く使えない魔法として帝國では認識されていると聞いていた。
だがなるほど。飛距離が無ければ近づけば良い。
ワイバーンが同時に前後をすれ違う。そしてすれ違いざま爆裂魔法を放り込んでくるのだ。この2騎のワイバーンの連携は別格だった。
ズィーガーの砲撃を避けると、ワイバーンの爆裂魔法だ。魔導鎧装の魔導砲に比べれば威力は大したことは無いが、魔導防壁に回る魔力がガリガリと削られていく。
魔導鎧装はアマテラスと違い魔力は補充するしか無い。または魔力が充填された魔力宝珠を交換しなければならない。
魔導ディスプレイ(仮称)に表示される魔力残量は3割と言ったところだ。
『タケル! 俺らが援護に出る!』
魔導通信に飛び込んできたのはスワローだった。
「ダメだ! お前は作戦を守れ!」
『だがそのままじゃよ……!』
「大丈夫だ! 俺を信じろ!」
この圧倒的不利の状態でタケルは叫んだ。
壮絶な笑みをたたえて。
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