10話「これ、もしかして?」


「え? 炎が無いのに沸騰してる?」

「ああ、きっと赤珠……灼熱宝珠が埋め込まれてたんじゃろ」

「それはおかしいね。色々試してどこも熱くなんてなかったんだからね!」


 ミコナの疑問にゴルゴンが答えるも、グランがそれを否定する。

 これがIH……つまり電磁調理器だとしたら当然そうなるだろう。

 それよりもタケルには灼熱宝珠という単語の方が気になった。


「ん? 灼熱宝珠っちゅーのは、魔力を流し込むと熱を持つ宝珠じゃ。魔導騎士鎧装の飛行システムである、蒸気推進装置はこの灼熱宝珠と、水を無限に生み出す湧水宝珠でなりたっておる」

「え? それってとんでもなく凄くない?」

「うむ。そりゃあ魔導騎士鎧装が古代文明の塊じゃからな」

「そういう意味じゃないんだけど……」


 あの巨体を空に飛ばせるほどの蒸気を生み出すシステム?

 それってある意味、原子力発電にも匹敵するシステムじゃないのか?


 細かい話は抜きにして、原子力発電というシステムは、ようは巨大なヤカン・・・なのだ。核分裂で生じた熱で水を湧かし、蒸気を生み、その力でタービンを回す。少々乱暴な言い方だが、原子力発電というのは本当にただのヤカンなのだ。


 それが魔力を注ぎ込むだけで水を一瞬で沸騰させられるシステムだ。その応用範囲は無限大だろう。

 つい考え込もうとしてしまったタケルの背中を、バーンとグランがひっぱたいた。


「おがぁ!?」

「タケル! 何ぼーっとしてるんだい!? 早く使い方を教えておくれよ! どうせ魔導の事なんてあたしにゃさっぱりなんだ! 使い方だけ教えてくれれば十分さね!」

「わ、わかったから叩かないで!」


 タケルは慌てて、金属が過熱されるという事を、専門用語を避けて説明した。

 そもそもタケル自身、電磁波についての知識はほとんど無い。


「へえ、つまり金属の鍋やフライパンなら、調理できるんだね?」

「そうです。この世界の金属特性とかはわからないので、そこは色々試してください」

「土鍋は使えるのかい?」

「無理ですね」

「なんてこったい……わかったよ! あとはこっちで試してみるさね! ご苦労だったねタケル!」

「いえいえ……ってだから叩かないでおばちゃん!」


 そこからさらに冷蔵庫を見つけて説明したり、なんと食洗機を見つけたのでそれも説明したりした。グランは「これで美味しいご飯を作れるよ!」とご機嫌であった。

 その様子を横で見ていたゴルゴンがタケルの肩を掴んだ。


「なるほど……どうやらタケルはこの要塞の事を色々と知っていそうじゃな。よし! ミコナ! タケルとシャル嬢ちゃんを借りるぞ! 思いつく限り、調べられる限り機能を説明してもらおうか!」

「わかる範囲なら協力するぜ!」

「……は、はい」


 今までミコナに隠れていたシャルだったが、今度は俺の背中に隠れるシャル。

 ゴルゴンが怖いのかも知れない。


「じゃあ二人の事は頼むわね。私は別の用事を済ませてくるから、お昼にここ食堂で会いましょう」

「OK」


 そんな感じで二人は丸一日要塞中を見て回ることになった。

 幸い現代日本的な設備が多く、目に付く物に関しては可能なだけタケルはゴルゴンに説明した。一部操作のわかりづらい物もあったが、その都度シャルが端末で調べる事で解決した。

 コインランドリーの様な洗濯乾燥機が並んでいる部屋があったのには驚いた。文明の利器が揃っている。

 昼食を食べて、夕食を食べて、割と遅い時間まで要塞中を駆け回ったので、シャルはへろへろになっていた。タケルは……さすが自称アクティブオタクなだけあって、まだまだ元気だった。

 だが、特にやることも無いのでその日は寝ることにした。


 ◆


「タケル、今度はこれを見てくれ!」


 次の日もゴルゴンに呼び出され、タケルとシャルは要塞中を巡ることになった。

 魔導鎧装が屹立し、ワイバーンやグリフォンが闊歩する広い格納庫の壁際だった。


「へいへい……うーん? 良くわからないなぁ。シャル頼むよ」

「……はい」


 ずっと一緒にいたからか、タケルに対してはあまり隠れることの無くなったシャルに、謎のパネルを刺す。

 シャルは直ぐに魔導の説明書を確認して答える。


「……ハッチと……エレベーター?」

「うん? ハッチは正面にあるけど、エレベーターらしきものはどこにもないな」


 タケルは頭を捻りつつ、とりあえず動かしてみようとハッチの開閉スイッチを押してみた。

 すると正面の巨大なハッチがゆっくりと開いていく。


「うん。ハッチだ」


 前回、帝國の騎士を撃退するために飛び出たハッチとはまた別のハッチだった。

 覗き込むと今要塞は深い森の上を飛行している。高さは木々のすぐ上くらいで、やはり高度は取れないようだった。


「よくわからないけど、エレベーターのスイッチも押してみよう」

「そうじゃな」


 ゴルゴンも賛同したので、巨大なスイッチを捻ると、ゴウンゴウンと腹に響く音と共に、ハッチの外が暗くなった。

 何だろうとハッチからを見てみると、なんと天上の一部が降りて来るでは無いか。


「うわっ! 危ない! みんなハッチから離れて!」


 タケルが叫ぶと、同じように野次馬していた人間がわっとハッチから逃げ出した。

 何が起こるのかと距離を置いて見ていたら、なんとが降りてきたのだ。

 分厚い金属板の上に乗った土の上に茂る木々。


「……もしかして」


 タケルはようやくその意味に気付いて、急いで魔導鎧装へ走った。

 マニュアルを見ながら魔導鎧装を整備していた人達が何事かとタケルに視線をやった。


「すまない! ちょっと動かすぞ!」

「それは構わないけどどうしたんだ?」

「確認したいことがあって!」


 タケルは返事もそこそこにタラップを駆け上がると、整備の人たちが気を利かせてタラップをどかしてくれた。

 魔導鎧装に乗り込んだタケルは、ゆっくりと魔導鎧装を動かす。

 格納庫を見渡すと、資材として詰んであるのだろう、分厚い鉄板を見つけた。


「ちょっとこれ借りるよ!」

『それは構わないが何をするんだ!?』

「こうするんだ!」


 魔導騎士鎧装は自分の身長ほどの鉄板を持ち上げると、それをスコップの様に使って、降りてきた小さな森を外に掻き出した。

 大まかに土をどかすと、金属の床が見える。


「ゴルゴンさん、エレベーターを上に上げてくれ」

『わかった』


 再び上昇する金属の塊。上に乗っていた魔導鎧装ごと上に運ぶ。

 船の側面にせり出していた金属の塊が、音を立てて上昇すると、浮遊要塞の甲板までせり上がった。


「きっと、たぶんそうだ」


 タケルは浮遊要塞の甲板に積もったを、シャベルで掻き出すように、要塞の外へと捨てていった。

 するとそこに見えるのは真っ平らな金属面。


「間違い無い!」


 タケルは無我夢中で周囲の土を眼下の森へと投げ捨てていく。

 しばらくして、要塞の甲板に積もっていた森の2/3ほどを掃除していた。

 目測で400m近い真っ平らな甲板。巨大なエレベーター。


「やっぱりそうだ……」


 甲板の横にそびえる高い艦橋。

 タケルは直線に刻まれた溝を確認して呟いた。


「これ……空母だ」


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