サイケデリック エンジェル。
後藤りせ
第1話 サイケデリック。
爆音で流れるEDMが、あたしの脳内に存在していた理性を引き千切る。
プレイルームのクリスタルのシャンデリアの明かりがキラキラとだらんと座り込むあたしの身体を包んでいる。
湿ったバスタオル。
咽るほどに湯気が溢れたシャワールーム。
使用済みの破れたコンドーム。
人間の匂いがする生温い精液。
ベッドの上にローションでずぶ濡れになった8人の諭吉。
こんなにも淫靡な行為が繰り返されたプレイルームが、今夜はとても愛おしく感じるのは、きっとあたしへのプレゼントだろう。
だらしなく放り出した両手両足を囲む、数え切れないほどのショッキングピンクのベゲタミンA錠。
あたしの首に、引き千切ったパソコンのLANケーブルが食い込んでいく。
プレイルームのアルミ製のドアノブはLANケーブルがぐるりと巻き付けられ合体して、無機質に淡々とあたしの28年間の人生を呆気なく終わらせようとしている。
青みがかったピンクのグロスをのせぽってりとした口唇の端からそっと涎が流れて、淫らに開いたふたつの胸を覆うようにぽつりと落ちた。
あたしの太腿にギラリと鋭い眼をした鳳凰の刺青が、さっき果てぶちまかれた男の精液で生温く潤っていやらしいほどに濡れていく。
鳳凰はまるで生きているかのように、あたしの呼吸とともに蠢いている。
あたしと共に生きた、その人生をそっと睨み付けている。
あたしはそっと指先を胸に這わせた。
先端が欠けたスカルプチュアネイルの指先は氷のように冷たい温度だった。
ヘーゼル色のカラコンの奥がとても熱く潤っていく。
首を傾ければさらにLANケーブルはあたしの皮膚を圧迫する。
あたしの首にぶら下がった華奢なルビーのクロスがトップになっているピンクゴールドのネックレスがぷつんと切れて、這わせたままの指先に絡んだ。
この身体が、終わりを告げる。
小さな吐息が混ざった、糸のような声はもうすぐ千切れてしまう。
「バイバイ。ルカ。」
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