復讐少年と剣霊少女

雪野 那珂

第1話復讐のはじまり

国王が殺害された。負けたのだ。ジープ帝国が、総力をあげて負けたのだ。たった数人の反乱軍に!


国王が殺害されたということは、直属護衛隊の隊長である父が負けた、ということを表していた。


リオは戦意を喪失してしまった。

糸の切れた人形のように倒れている。


あたりを覆う血と肉の臭いが鼻を刺激する。


見回すと騎士団の仲間8人が、ある人は目を開けたまま、ある人は腕や脚ををありえない方向へと曲げピクリとも動かず倒れていた。


だがジープ帝国騎士団団長、ファティオ・レイトルは怯まない。生き残るために必死に戦っている。


「リオ!なにやってる!早く逃げろ!お前はまだ12才、若いんだ!こんなところで死んでる場合じゃないぞ!」


団長は喉が潰れる勢いで叫ぶ。


しかしリオは座り俯いたまま動こうともしない。


黒いコートを着た1人の男がリオ達にトドメであろう魔法を連続詠唱してきた。

そしてリオ達へと無数の矢が放たれる。


この状況では防げはしない、仮に防げたとしても魔力切れで次の攻撃には耐えられないだろう。リオは死を覚悟した。

しかし、団長は防護魔法を唱える。


リオと団長は魔力がほとんど無い。団長は立っているのでやっとだった。


「ちっ、しょうがない...リオ!」


団長は防げないと悟ったのだろう。

防護魔法を唱えるのを止め、リオに向かって何やら魔法を唱え始めた。


〈空間を裂き この者を...〉


リオは団長が今唱えている魔法が転移魔法だということがわかった。リオを逃がすためだ。


「っ!団長!やめて下さい!団長!早く逃げて下さい!」


やっとリオが反応した。


止めるように言われるが団長は迷いなく魔法を唱え続ける。

〈──彼方へと運び給たまえ!〉


唱え終わるのと同時に団長は言った。


「この手紙を読め、お前の父親からだ。必要な時に渡せと伝えられている」


そして団長は一枚の手紙をリオへと放り投げ、最後の....一粒の涙をこぼした。


空間がぐにょりと歪んでくる。


周りの音がほとんど聞こえなくなり、視界がどんどん薄れていく。


団長は最後に言った。


───強く生きろ......


聞こえなかったが口が確かにそう動いたように見えた。


「団長!」


団長を庇いに向かおうとするが無駄だった。


唱えられた魔法がリオをたくさんの光で覆う。


リオはそのまま、隣国のネハル王国へと転移させられるのであった。


「さあ、最後の足掻きだ!」


団長はそのまま怪しく笑いながら炎の雨を大量に浴びたのだった。














目が覚めると森の中で、仰向あおむけに倒れていた。


あたりにはたくさんの木が生い茂っていて緑の匂いがする。空は全然見えない。暗さからして、もう夜中だろう。


胸の上には[〜リオへ〜]と、書かれた手紙が乗っていた。


死にたい。最初にそう思った。しかし、団長が救ってくれた命だ、そう簡単に投げ捨てるわけにもいかない。強く生きろ。そう言われたのだ。


しばらくみんなの事を考え泣きじゃくった後、リオは渡された手紙を呼んだ。


[〜リオへ〜]

いやぁ、この手紙を渡されたってことは俺、死んだな!いろいろと書くのは面倒だから手短に終わらせる。

ネハル王国の別荘覚えてるな、そこに行って入口に入って左側にある宝箱の中から錆びれた剣が入ってるからそれをお前に託す。俺が15才まで使ってた大切な剣だ。なんか、遺品みたいだが必ずお前の力になるだろう。そんじゃ、またどこかで会おう。

[〜クロオス・ファミエ〜]


そんな頼りなさそうな手紙にリオは思わず笑ってしまった。


相変わらずの父だ、こんな状況でも、いつもの元気な父親でいてくれる。


しかし、リオは一瞬にして現実に戻される。


今は頼りになる人が誰1人いない。


全員死んでしまった。


団長や、父親、騎士団の仲間、近所のおじさん、おばさん、友達。みんな死んでしまった。


『殺す!殺す!!殺す!!!殺す!!!!』


恨みがどんどんリオを支配していく。


『復讐する!もっと強くなって、反乱軍をひとり残らず始末してやる!』


一人の少年の復讐劇が始まった。














──一夜を外で明かした、夏だったためさほど外は寒くなかった。


リオは手紙に書いてあったとおり、別荘へと一直線に向かった。

周りの人は見慣れない騎士団の格好をしたリオをジロジロと怪しげに見てくる。

ネハル王国は林の場所が少ないため現在地が限られ、迷わずにすぐ別荘へと向かえた。


別荘には父が言った通り、入って左側に宝箱があった。鍵は一切閉まっていない。


(宝箱って、カタチは確かにそうだけどもっと厳重に扱えよ....)


リオはゆっくりと箱を開ける。

そこには大量の思い出の品やら、大量の金貨やらが入っている。


投映機で撮った写真や、小さい頃に父にあげたプレゼントが入っている。


リオは泣きそうになるが、必死で剣を探した。


剣は奥の方に隠されるようにあった。錆ついていて、とても使えそうな剣ではない。

物を切れないほど刃はこぼれていて今にも折れそうだ。


なぜ父がこんな剣を託したのだろうと最初は疑問に思った。


リオは不思議に思い、剣を手に取る。


すると、不思議な光があたりに現れた。魔法で作られた光とは違う、なぜか安心する暖かい光だ。


その光は、ひとつに集まり女の子の形をとっていった......


───しばらくするとその光は、女の子になっていた。


綺麗な長い白い髪をしていて、身長はリオと同じぐらいだろうか、目は綺麗なルビーのような色で、強い炎のような鋭い瞳だ、ふっくらした頬は幼さを象徴している。


「ん.....お?おー!主人?主人か?久しぶりだなぁ〜!25年ぶりだなぁ〜!ん?25年?あんま大きくなってないなぁ〜!むしろ小さくなってないか?どうした?ちゃんとご飯食べてんのかぁ〜?」


光から現れた少女は元気そうに、それもとても無邪気に笑って言う。


「え、えっと...君、誰?主人って、俺?」


いろいろ整理してもよくわからない、リオは会ったことも見たこともない。

25年前?確か父さんが15才の頃か?


「ほう、久しぶりにあったというのにそこまでとぼけるかぁ、カリューだよ!ほら、クロオス!しっかりしろ!」


カリューという少女はリオの頭を鷲掴みして乱暴に振り回す。


(クロオス、やっぱり父さんだ!)


リオは名前を聞いて気がつく。


「あ、あのさ、クロオスって、クロオス・ファミエのとこ?」


頭を振り回されたまま問いただす。


「何を言っておる!クロオスはお前じゃないか!」


カリューは不思議そうに首を傾げる。

どうやら父さんと間違えているようだ。


「ごめん、俺はクロオスじゃなくて、息子のリオだよ」


しばらくの沈黙、カリューは頭を傾げたあと、家中に響く大きな声を出した。


「ああああああああああああああああ!!!!!思い出したぁ!主人が、『俺が死んだら息子を頼む』って言われてたぁぁぁぁぁぁ!」


父さんに似せて少し演技がかった口調で言う。


「のうのう!リオ、と言ったかお前がここに来たってことはクロオスは死んだのか!?」


飛びつくように顔をリオの前に出し、単刀直入に聞いてくる。


「クロオス...父さんは...死んだよ...」


リオは肩を落とし俯く。


「そうか、主人が死んだか、ああ見えて結構腕はたつんだがな〜」


カリューはあまり驚かない。

まるでいつかこと日が来ることを分かっていたかのようだ。


「というわけで、今日からリオ、君が私の主人だ!」


カリューは腰に手を当てちいさな胸を逸らす。


「主人だ!と言われてもわけがわかんないよ!カリュー、君は一体誰なの!」


いろいろあり過ぎて頭が混乱していて、整理がつかない。


「そういえばまだ説明してなかったな!」


えっへん!と言わんばかりにもう一度腰に手を当て


「私はこの剣の剣霊、カリューだ!剣霊とは!魂が宿った剣のことを言う!それが私!カリューだ!大事だから名前は二度言った!」


──そして、このドヤ顔である。


《剣霊》聞いたことのないものだ。

なぜ父さんがこんなものを持ってたんだ?

そもそもなぜ俺の事を主人と言うんだ?


まだいろいろと疑問がある。


「のうのう!主人!相当強いなあ!この国の軍に入ってみたらどうだ?」


考え事をしているリオの視界にいきなりカリューが入ってきた。


「うわっ!」


リオは驚き自分が何を考えていたのか忘れてしまう。


「こらぁ〜!主人!話を聞いてるのか?」


じー、っとカリューが見ている。


「う、うん、聞いてるよ、軍に入らないかってことでしょ?」


「おうおう!聞いていたかぁ!ちなみにこの国は魔法学院を卒業してないと軍には入れないのだ!どうだ?この国の軍に入って、奴らに復讐したくはないか?」


復讐、復讐、復讐!!!!

そうだ!復讐するんだ!すべてを壊した反乱軍を!!


「ああ、復讐しよう、反乱軍を一匹残らず!殺してやる!」


どんどん怒りが、復讐心が、煮えたぎる。


「おうおう!そうとくれば学院に入学!といきたいところなんだか...15才から入学可能での、主人はまだ12才だから入学できんのだ!3年間はお預けだな!」


3年間、長すぎるそんなに待ってたら体が訛ってしまうじゃないか!


「まあ、しょうがないな、3年間ここに居ると体が訛なまってしまうな、しばらくは森で特訓かぁ〜。あっ、言い忘れた、主人!今、主人と私は思考が繋がっている。主人が考えたことはなんでもわかるから、変なことは考えるなよ!」


考えねぇよ!と、口には出さ無かったはずだが


「いや、クロオスの時に何度か変なことが流れ込んで来たからな!息子のお前もありえなくはないから言ったのだ!」


完全に思ったことは聞こえているようだ。

(考えることは控えないとな。ってかこれ聞こえてんだよね?)


「聞こえてるぞ、主人。あと、さっきの付け加えで、私は剣が本体だ、この身体に攻撃を食らっても害はないが、剣が折れると私も消えてしまうから、丁重に扱ってくれよ!まぁ、折れることもそうそうないと思うけど...」


「丁重に扱うって、どう扱ってもこんな錆びれた剣すぐに折れると思うぞ?使えるのか?これ?」


リオがそう言うとカリューが、ほっぺたをぷくぅ〜と膨らませて言った。


「あー!今この私を愚弄したなぁ!私だってこんな錆つけたくてつけたんじゃないんだぞぉ〜!こんな錆早く捨ててやる!」


カリューがそう言った瞬間剣が光り輝き錆びれた剣の錆が嘘のように消え、綺麗な剣が現れた。とても綺麗な紋様がついており、さっきの錆びれた剣とは大違いだった。


リオはあまりの綺麗さに見とれてしまう。


「どうだ?綺麗だろ?錆びれた剣が、こんなにも綺麗だとは思わんかっただろ〜?」


ニヤニヤしながらこちらを見てくる。


....ウザい


「なんだ?主人その態度は?ウザいとかいうな、私は剣霊なんだぞ!」


カリューはリオの頭をぽかぽかと殴る。


「分かった!分かったから!」


こんな楽しい会話久しぶりにした。誰かと話して、笑って。でも、奴らはこれをぶち壊した。だから今度は俺が奴らの全てをぶち壊す。復讐だ。


「カリュー、聞こえてただろ...心の声。俺についてきてくれるか」


「ああ!主人!もちろんだ。そのための剣霊だからな!」


これがリオと、カリュー、二人の出会いだった。

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復讐少年と剣霊少女 雪野 那珂 @yukinonaka_rio

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