ホロ苦

 おかしい。


 あの日。私が泣いた日以来彼からの連絡が極端に減った。あの日は確かにお互いの気持ちを確認し合ったし、私達の仲は今まで以上に深まったと思った。でも、それは私の思い込みだったのだろうか?時が経つにつれ再び私の頭の中は彼が私をどう思ってるのかという不安でいっぱいになった。


 私からの誘いも断られる事が大半だった。彼はサークルが忙しいと言っていた。事実彼はサークルに参加してたようだったし、頑張っているということも理解してた。でも、一つ私の中で引っかかることがあった。


 簡単に言ってしまえば、長いことやってないのだ。


 私の中では適度にやっているという事実が、まだ彼の中で私は死んでないと認識する一つの材料だった。それはそれで嫌だったのだが、彼が決して私に興味を無くしてはいないのだと思える確かな根拠だった。複雑な気持ちではあったが、ある種の安心感を得ていたといえた。


 だが、あの日以来それすらも少なくなっていった。いよいよ私がすがれるものは無くなってきていた。それからしばらくは何も手がつかないほど毎日あれこれ考えていたわけだが、不思議なもので、ある日を境に急にどうでもよくなった。彼と連絡を取ることすらも少なくなったが、そんなこと気にも留めなかった。




 それから数か月。外は冷え、暗くなるのも早くなり、もう冬は到来していた。気づけばあっという間に十二月になっていた。


「クリスマスイブ…」


 無意識の内に口に出していた。そう。去年の今頃、私は彼に告白されていたのだ。ここ数か月、彼から連絡はほぼ無かった。まだ別れようとは言ってないし言われてもなかったが、そろそろ終わりかなと思い始めていた。お互いに興味を無くし始めたのなら無理に付き合う必要はない。今更別れようが構わなかった。このまま自然消滅も悪くない、なんて思っていた矢先のことだった。


 彼から連絡がきた。いよいよか、と思っていたが要件は私の想像とは違った。


 私は告白された時の喫茶店に呼ばれた。久々に彼に会うということもあって緊張していた。既に彼は席についていて、相変わらずドリップコーヒーをブラックで飲んでいた。


 私が席につくと、彼はココアを注文してくれた。今更そんな気を遣わなくていいのに。そう言いそうになったのを堪えた。


「で、要件って何?」


 私は笑うでもなく彼を睨むでもなく表情一つ変えず尋ねた。彼は少しためらった後に言った。


「いや、もうすぐ付き合って一年だから…その、会えないかなって」


 彼が呼び出したのは単純に会いたいからだった。別れ話など全く出てこなかった。私は最初こそ、長いこと放置されていたことにたいして怒りを隠しきれなかったが、彼が必死に謝ってくれたこと、本当に忙しかったことを説明されると、すっかり落ち着きを取り戻していた。


 長いこと話し合い、今後も関係を続けてくということで互いに合意した。今思えば、上手く彼に丸められてたのだと思う。


「これからもよろしく」


 そう言って軽くお辞儀した後席を立とうとすると、彼は私の腕を掴んだ。彼の目を見て何がしたいのかは察したが、私は周りを確認し誰にも見られてないと判断すると彼の頬にそっとキスをした。そのまま足早に店を出た。


 その日の夜、彼から連絡が入った。デートの約束だった。もしかしたら、これを機に仲は元に戻るかもしれない。そんな期待がどこかにあった私は誘いに応じた。




 年が明けた。私と彼の仲は順調だった。付き合って最初の頃ほどとは言えないまでも、一緒にいる時は楽しかったし、このまま付き合い続けてもいいのかなと思ってた。


 2月。もうすぐ二年生って時期のことだった。一つのきっかけで、そんな思いはすぐに崩れさった。


 彼は浮気していた。

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