酸っぱい
入学式が終わるや否や、次から次へとやってくるサークル勧誘のビラの嵐に遭った。新入生歓迎会に行ったり、バイトの面接を受けたり、当然大学の講義の事でもやる事が多く、入学してしばらくは全く自由はなかった。
それは彼も同じだったようで、何とか空きを作って、やっとの思いであった日には互いの忙しさをプレゼンし合い、どっちが大変か競い合った。両者一歩も引かず決着のつかないまま彼の家に向かっていた。
結局私が押し負けた。
大学は想像以上に忙しかった。入学前は大学生といえばとにかく暇というイメージが私の中にはあったのだが、実際は入学してからしばらくは忙しいことこの上なかった。サークルの活動も最初の宣伝の時より活発に動いて、飲み会が行われれば当然お金が必要なわけでバイトのシフトを増やすことを余儀なくされた。彼と会える日は限られていった。
せっかく彼と会っても行く場所は互いの家か、カラオケか、ちょっとご飯食べたらそのままホテルか、で、やることは同じだった。それ自体が別に嫌だったわけじゃなかったのだが、どうも雑に扱われてる気がしてならなかった。私の方から色々遊びの誘いをしてみたが、都合が悪いの一辺倒で断られるだけだった。
彼の中の私の存在は少しずつちっぽけなものなってるのではないか?ひょっとしたら新しい場で私以外に好みの女性でも見つけたのではないか。毎日そんな事ばかり考えるようになった。
友達に相談しても返ってくるのは「会ってくれてるなら大丈夫」くらいで私の不安はどうも拭えきれなかった。
もうすぐ本格的な夏が始まるという時期のことだった。彼の方から遊びに行こうと誘いを受けた。目的地がテーマパークだっただけに最近のデートとは違うと胸高ぶってすぐにオーケーを出した。
当日。この日のために服をこしらえ、化粧だって大学に行く時より時間をかけた。彼は私の姿を見てすぐに普段とは違うことに気付き、大袈裟といえるほどに褒めてくれた。それは素直に嬉しくて、久々の気持ちだった。が、待ち時間の間彼は言った。
「まあメインは夜だからね」
何を意味してるのかはすぐに理解した。視界がぼやけた。周りの騒がしかった音が一瞬にして消えた。服も化粧も馬鹿らしくなった。ついさっき喜んだ私を殴ってやりたかった。
気付いたころには遅かった。私は泣いていた。堪える暇もなかった。そんな自分が情けなくて溢れる涙は激しさを増すばかりだった。
彼は私の突然の行動に驚いて最初は言葉を失っていた。それから場所を移そうと、せっかく長いこと並んでいた列を抜けることになった。
しばらくして落ち着いた私は今まで思っていたことを余すことなく彼にぶつけた。彼は全てを理解すると即座に謝った。それから大学で別に相手がいるわけでもなく、私の事を今でも変わらず大切であると言ってくれた。
私の勘違いだった。そういう結論に至り心から安心した。最初こそ不穏な空気が流れたが、その日は大学に入ってから一番楽しいひと時となった。
もちろん、その日の夜も熱かった。
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