赤ハチマキと白色鉛筆

平野真咲

なってしまった応援団

なってしまった応援団 1

 私は今、たぶん人生の中で一番の困難にぶち当たっている。

 暑さが思い切り残る9月の始まり。通気性の悪い講義室の中で嫌な汗がつーっと頬を流れる。タイミングの悪い時にやんだ窓を吹き抜ける風。ガクガク震える膝に触れる握りしめた拳に爪が食い込む。

「私は足も速くないし球技も下手で全然運動ができる方ではなくて、体育でも部活でも大声張り上げて応援なんかしたことなく、応援合戦どころか運動会で活躍するどころか無様な姿しか見せられないような人間で。

 応援団なんてできるとも思っていませんしやりたいなんてこれっぽっちも思ってなんかいません。なってしまいましたけど。

 でも、なった以上は、責任もってやり遂げなきゃならないとは思いますし、せめて足を引っ張らないだけにはならないと。

 あまり迷惑もかけないようにしますから、せめて、せめて力だけでも貸してください」

 今の私がどれだけ言い訳がましいかなんて、自分が一番分かっている。

 耐え切れそうにない沈黙よりはまし、とまくし立てる。言わなきゃ伝わらない。言わなきゃ絶対に後悔する。思いつくだけの言葉を吐き出して、ありったけの理由を並べたてて。

 私たち研究部は、久葉くば中の生徒や先生たちのために動く、そういう部活なんです。

 久葉中の生徒が泣いてるのに何もしないなんて選択肢はないんです。

 はっきり口に出して言ってくれた美緒みおちゃんの言葉がリフレインする。おかげで少しだけ冷静さを取り戻せたようだ。

 美緒ちゃんありがとう。絶望していた私に手を差し伸べてくれて。

 蓬莱ほうらい君ありがとう。私のために怒ってくれて。

 城崎きざき君ありがとう。きちんと見ててくれて。

 小倉おぐらさんありがとう。優しくフォローしてくれて。

 無茶だとも思えるお願いを聞いてくれた1年生たちの顔を見回す。私の横で聞いている彼らは不安な表情を浮かべているけれど、何とかするといってくれたこの4人がついている、と思えば乗り越えられるような気がした。

 どんな手を使ってでも、今目の前にいる研究部の部長だというこの男を説得しなければならない。

 立ち止まってなんかいられない。運動会は今週末。それまでに、何とか形にしなければならないのだから。

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